
創薬をめぐる米中の覇権争いの出発点は、中国の立ち位置が根本から変わったことにあります。かつて中国は、原薬を中心に製造を安く請け負う「世界の下請け工場」でした。しかし、近年は自ら新しい薬を生み出す国として存在感を急速に高めています。
パイプラインの3割が中国発に
数字が変化を物語ります。世界の新薬候補に占める中国のシェアは2025年には30%を超え、首位の米国(33%)に肉薄しています。とりわけ、抗体薬物複合体(ADC)や二重特異性抗体、CAR-T細胞療法といった先端分野で、中国は世界のイノベーションの前線に立っています。
それを裏付けるのが、欧米の製薬大手が中国発の新薬候補をこぞって導入しているという事実です。中国発新薬候補のライセンスアウト契約の総額は2020年に約79億ドルでしたが、2024年には約519億ドルとなり、2025年は約1,350億ドルと前年のおよそ3倍に達しました。
いまや欧米大手が導入する新薬候補の4分の1~3分の1が中国由来とされ、ADCにいたっては世界のライセンスの約9割を中国企業が占めているという分析もあります。2025年には米ファイザーが3SBio(三生製薬)の抗体を最大約60億ドルで導入するという大型契約もありました。

「安く作る」に加わった「モノを生み出す力」
なぜ短期間でこれだけの変貌を遂げられたのか。国を挙げた研究開発支援、圧倒的な患者数が支えるスピーディーな臨床試験、そして欧米で経験を積んだ研究者たちの帰国(「海亀」と呼ばれます)などが要因として挙げられます。強みとしてきた「安く大量に作る力」に、「いち早く新しいモノを生み出す力」が加わったのです。
半導体になぞらえれば、製造を任せていた相手が設計まで手がけ始めた、という状況に近いと言えます。これに危機感を強めるのが米国で、自国の地位を守ろうとさまざまな手を繰り出しています。
| 増井慶太(ますい・けいた)ロンジェビティ特化型VC(ベンチャーキャピタル)ASAGI Labs Ventures合同会社Managing Partner、BAIOX株式会社CEO、インダストリアルドライブ合同会社CEO。ヘルスケアやライフサイエンス領域の投資運営、M&A仲介、カンパニー・クリエーション、事業運営に従事。東京大教養学部卒業後、米系経営戦略コンサルティング企業、欧州製薬企業などを経て現職。 X::@keita_masui LinkedIn::https://www.linkedin.com/in/keita-masui/ ウェブサイト::https://alv.vc// |
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