
子どもから大人まで年齢を問わず繰り返しかかるRSウイルス感染症。風邪の一種ですが、生後初回の感染では重症化しやすく、低月齢の乳幼児にとって大きな脅威です。一方、ここ数年で予防の手段が増えており、今年4月にファイザーの母子免疫ワクチン「アブリスボ」が定期接種化。接種が広がっています。ワクチンを打てなかった乳児らをカバーする抗体製剤も定期接種化される方向で、予防はさらに前進します。
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年間3~5万児が入院
RSウイルス感染症は、発熱や咳などの風邪症状を引き起こす急性の呼吸器感染症。子どもから大人まで繰り返し感染し、1歳までに50%、2歳までにはほぼ100%の乳幼児が1度はかかります。
初めて感染した乳幼児(特に生後半年以内)は重症化しやすいとされ、初回感染の乳幼児の3割で咳が悪化し、細気管支炎や肺炎などの下気道疾患を起こします。2010年代には、年間で12〜18万人の2歳未満の乳幼児が罹患し、そのうち3〜5万人が入院を余儀なくされたと推定されています。悪化して入院した場合、治療は対症療法が中心です。
従来、早産児などのハイリスク児に対しては、予防薬として「シナジス」(一般名・パリビズマブ、製造販売元・アストラゼネカ)が使われてきました。ただ、実際に入院した患児の9割は、重症化リスクを持たない乳幼児。因果関係は明確でないものの、RSウイルスで入院した乳幼児はそうでない子どもに比べて将来的に喘息になりやすいとされ、リスク因子を持たない乳幼児にも使用可能な予防法が求められていました。
こうしたなか、2024年1月に初めて母子免疫ワクチン「アブリスボ」(ファイザー)が承認を取得。予防薬でも、同年に「ベイフォータス」(ニルセビマブ、サノフィ)、今年6月に「エヌフロンシア」(クレスロビマブ、MSD)が、リスクを問わずすべての新生児・乳幼児に投与できる抗体製剤としてそれぞれ承認されました。今年4月には、妊娠28~36週の妊婦を対象にアブリスボが定期接種化し、RSウイルス感染症の予防をめぐる環境は大きく変化しています。
定期接種化後、ワクチン接種率は85%に
アブリスボは、母体内で作られた抗体が胎盤を通じて胎児に移行することで、出生時から予防効果を発揮する母子免疫ワクチン。日本を含む世界で7000人強の妊婦を対象に行った臨床試験では、RSウイルス感染症による下気道疾患を6割程度、入院を要する重症化を7~8割抑える効果が確認されています。予防接種法では「A類疾病」に位置付けられ、対象者全員に接種が勧められるワクチンとして公費で接種することが可能です。近年、流行時期の予測が難しくなっていることもあり、通年で接種が推奨されています。

「2歳までにほとんどがかかるといっても、低月齢の赤ちゃんにとっては大きな脅威のあるウイルス。治療も予防もない状況から新たな選択肢が出てきて、それが定期接種に位置付けられたのは大きな転換点だと言える。今後、妊婦健診のスケジュールに当たり前に組み込まれていく予防対策だと考える」。横浜市立市民病院の倉澤健太郎病院長補佐・産婦人科長・母子医療センター長は、定期接種化の意義についてこう話します。
定期接種化後、接種率は大きく伸びており、37~40週の妊婦の接種率は今年7月時点で85%に達しています。費用面でためらっていた妊婦らが接種するようになったといい、丸の内の森レディースクリニックの宋美玄理事長は「特に経産婦はRSウイルスの脅威を知っている分、接種に前向き」と指摘します。
抗体製剤、27年度にも定期接種化
一方、抗体製剤のベイフォータスとエヌフロンシアについても、定期接種化に向けた議論が進んでいます。今年7月、抗体製剤をワクチンと同様に予防接種で使えるようにする改正予防接種法が成立。先月には、厚生労働省のワクチン評価に関する小委員会が、両製剤を定期接種に用いることは「科学的に妥当」との意見をまとめました。予防接種基本方針部会での議論を経て、早ければ来年度にも定期接種に組み込まれることが期待されます。
ベイフォータスとエヌフロンシアは、いずれも長時間作用型の抗RSウイルス抗体。生後1年未満の乳児への有効性が確認されています。WHOは母子免疫ワクチンと抗体製剤を「同等の予防手段」として推奨しています。

抗体製剤が特に重要となるのは、妊娠中にワクチンを接種しなかった場合や、ワクチンの接種から14日未満で出生した場合など。後者では、母体から胎児への抗体の移行が不十分となり、ワクチンの効果が得られにくくなります。こうしたケースでは、生まれた子どもに抗体を使用することで予防効果を得ることができます。
臨床現場での使い分けについて、日本産婦人科医会の石渡勇会長(石渡産婦人科病院理事長兼院長)は、「まずは母子免疫ワクチンを勧めますが、妊婦がワクチンに抵抗感を持っていたり、早産になったりした場合には抗体製剤も勧めていく。基本的にはワクチンか抗体か、どちらかを選択すればよいと考えています」と説明。米国でもこうした使い分けがされています。
抗体製剤を販売するサノフィとMSDは、ともに「27年度から定期接種化された場合でも十分供給できるよう準備を進めている」としています。






