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創薬の高度化、世界の潮流は「AI×自律実験」―アイパーク・藤本社長、乗り遅れないためには「国内完結ループ」が必要

更新日

亀田真由

AIの創薬応用が広がるなか、海外を中心に、AIと自律実験ラボを組み合わせた創薬自動化に向けた動きが加速しています。こうした状況に危機感を抱き、「官民共用インフラ」の構築を提案しているのが、アイパークインスティチュートの藤本利夫社長です。

 

 

海外大手が取り組み

かつては数年かかっていたターゲット検証が数カ月に短縮されたり、人間にない発想でリード化合物の創出が可能になったりと、AIの活用によって創薬は大きく変化しつつあります。

 

たとえば、AI創薬企業のインシリコ・メディシンは2024年、自社AI由来の特発性肺線維症向け治療薬候補「ISM001-055」の臨床第2a相(P2a)試験で有望な結果を得たと発表。同社でAPAC BDリードを務めるJianyu (Daniel) Wu氏は、「AI創薬プラットフォームが機能するという業界の確信につながり、(発表以来)製薬企業との提携は増加している」と話します。同薬は現在、P3試験に進んでいます。

 

AIで創薬の高度化が進むなか、海外の大手製薬企業やAI創薬企業が志向するのが、次世代の研究基盤となる「未来のラボ」。核となるのは、AIと自律実験ラボを統合し、ドライとウェットを駆使してDMTAサイクルを自律的に回すクローズドループの構築と拡張です。AIが生成した仮説を自律型ラボが自動で検証し、AIにフィードバックすることで、創薬のさらなる効率化を狙います。

 

米イーライリリーは今年1月、同エヌビディアとともにAIラボを設置すると発表。向こう5年間で最大10億ドルを投じる方針で、高い計算能力を備えた独自の創薬向けスーパーコンピューターを運用しています。英アストラゼネカや米ファイザーなどもAIを使った自動化ラボを推進。スイス・ロシュも米欧に自前のデータセンターを構築し、Lab in the Loopによる精緻化に取り組んでおり、自律型ラボの構築も進めていると明かしています。

 

横浜市で今月開かれた「BioJapan」で8日にアイパークインスティチュートが行ったセミナーでは、米ギンコ・バイオワークスのJohn Androsavich氏が「われわれの自律型ロボットラボとOpenAIのAIエージェントを組み合わせることによって、目的とするタンパク質の合成コストを40%削減することができた」と成果を披露。結果を出すまでに、システムは3万6000回の実験を自動で行ったといいます。同社は9月、ノボノルディスク(デンマーク)に自律ラボを提供すると発表しています。

 

「10年後のラボの姿」問われ危機感

こうした世界の変化に対し、藤本氏が危機感を抱いたのは2025年の春のこと。複数のグローバルメガファーマから、「アイパークは『未来のラボ(Lab of the Future)』をどう考えているのか」と問われたのがきっかけだったといいます。

 

「メガファーマは5年後、10年後を見据えてラボの形を根本的に変えている最中で、研究者とAI・ロボットが共存する未来像を描いている。けれど、そのとき僕は、彼らの問いの核心が『AIをどう導入していくのか』だということにも気づけなかった。このままでは時代遅れになると強い危機感を覚えました」(藤本氏)

 

藤本氏はその後、インシリコやギンコの自動化ラボに実際に足を運び、AIとロボットを駆使したクローズドループを志向する世界の潮流を目の当たりにし、「日本ローカルで完結できるループが必要だ」との結論に達したと話します。

 

「欧米の製薬企業は多大な資金とデータを投じ、AIとロボットを活用した実験ループを回して精緻化を図っている。リリーの『TuneLab』のように、自社データを学習させたAI創薬プラットフォームをスタートアップに公開し、使ってもらうことでAIをさらに賢くしていこうという動きもあります。TuneLabには日本企業も参加していますし、ややもすると、『海外のプラットフォームがなければ創薬が回らない』という時代が来てしまうわけです。

 

ここまで来ている欧米のレベルに対して、われわれはデータの量では勝てません。日本が取るべき勝ち筋は、国や企業、スタートアップが協力して創薬データ空間、自律ロボットを共有型で組み上げ、国内で完結するループのなかでデータを精緻にしていくことです」(藤本氏)

 

 

官民パートナーシップが必要

こうした考え方は政府にも共有され、現在、厚生労働省が検討を進める「AI for Health 研究開発プラットフォーム(仮称)」に組み込まれています。

 

「具体的なことはこれからですが、ユーザーとなる企業・スタートアップや、データ管理に長けたデータインテグレーター、自律ラボを提供できる企業などによるパートナーシップで進めていく必要があると(省庁とは)話しています」(藤本氏)

 

ユーザーである企業の最大のニーズはリード最適化。試行錯誤の多いこのプロセスを自動化できれば、スピードアップに大きく貢献できると期待が集まっています。

 

「取り組みのなかでアイパークができることは、研究の場とコミュニティの提供だと思っています。アイパークにはスタートアップのニーズと、ニーズをもとにしたオンサイトのサービスが揃っている。ここに官民共有の自律ラボがパートナーシップとして加われば、国内でローカルループを完結させることも可能になります」(藤本氏)

 

取材に応じた藤本社長。BioJapanではアイパークのAI創薬に対する取り組みの紹介も

取材に応じた藤本社長。BioJapanではアイパークのAI創薬に対する取り組みの紹介も

 

アイパーク内でも、NTTグループとともにセキュアなデータ処理基盤の構築を進めています。7月には、アイパーク内の研究データを外部データセンターのGPUで安全に処理する環境構築が可能なことを実証したと発表。より実用的な環境構築に向け、さらなる実証実験を行っています。「この先もっとクラスターを大きくしたいと考えると、安全で高速なデータ環境を整えることは必須。10年後に一流のラボと認められるためにも、確実に進めていきます」(藤本氏)

 

湘南アイパークに研究拠点を構えるアクセリードは6月、リリーのTuneLabに参画し、自社データを同プラットフォームに提供すると同時に、CROとして国内スタートアップがTuneLabを利用する際のハブとなる契約を結びました。藤本氏は「今後の日本の創薬エコシステムの発展には、こうした海外の取り組みと日本国内で完結する取り組みの両軸が必要」とし、「ローカルが成熟していなければ、国際的な貢献もできない」と指摘。AI創薬企業の湘南アイパークへの誘致にも意欲を示します。

 

人材確保が課題

日本の構想に対し、ギンコのAndrosavich氏は「米国でこの規模の共有インフラを構築しようとするには国の規模が大きすぎるし、ベンチャーキャピタルの主導では短期的なリターンへの期待が大きくなりがちだ。だからこそ日本が適していると思う」と評価。国がバッファーとなるからこそ、中長期的な視点でインフラや知識を蓄積できる環境は、他国にはない強みと言えます。「前競争領域であれば、協力体制も作れるだろう」とシュレディンガーの井川英之氏も期待を寄せます。

 

一方で、ギンコやシュレディンガー、米国で自律型ラボの基盤づくりを進める武田薬品工業などが口をそろえるのが、意思決定の要となる研究者の重要性。AIとウェット実験の双方を理解し、クローズドループを使いこなせる人材の育成・獲得が欠かせません。

 

武田薬品Head of AI/ML ResearchのYves FOMEKONG NANFACK氏は、「日本で博士号を持ち、さらにAIの経験を持つ人材を探すのは想像以上に難しかった」と吐露します。「AIや自動化ラボの本当の目的は、研究者のまわりにある雑音(ホワイトノイズ)を取り除き、創薬の本分に集中させることだ」(Yves氏)

 

10月8日にBioJapanで行われたセミナーの様子。左から武田薬品のYves FOMEKONG NANFACK氏、インシリコ・メディシンのJianyu (Daniel) Wu氏、シュレディンガーの井川英之氏、ギンコのJohn Androsavich氏

10月8日にBioJapanで行われたセミナーの様子。左から武田薬品のYves FOMEKONG NANFACK氏、インシリコ・メディシンのJianyu (Daniel) Wu氏、シュレディンガーの井川英之氏、ギンコのJohn Androsavich氏

 

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