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地政学の先へ ― 求められる「開かれた強靭性」【薬の地政学 #7】

更新日

増井慶太

この連載では、米中の創薬をめぐる覇権争いとこれに関連するさまざまな対立構造、そして日本も直面するの原薬調達の海外依存について見てきました。切り口は多岐に渡りましたが、貫く問いは1つ。自国に必要な医薬品をいかに安定的に確保していくかであり、そのために産業はどう変化してくのかという問いです。

 

3極の方向性は似ている

米国の動きが目立ちますが、欧州と日本の対応も方向性は似ています。第1に、自国の薬がどこに依存しているかの「見える化」。第2に、安さの追求で細った必須薬の「下支え」。第3に、手放した製造基盤の「国内回帰」。第4に、単一の供給源に頼らない「(友好国との)分散」。顕在化している日米欧の動きは、どれもこの4つの組み合わせにほかなりません。

 

産業の価値のものさしも変わります。効率の時代を支配したのは「コスト最小化」でした。これに代わるのが、私が「レジリエンス・プレミアム」と呼ぶ考え方です。「切れない供給」という価値に、市場と制度はいくら払うべきなのか。ただし、目指すのは、国内に閉じた自給自足ではありません。国内で守るべきを守りつつ、開くべきところは大胆に開いて友好国とつながる「開かれた強靭性」が求められます。

 

 

投資し、開かれた形で強くなる

日本に必要なのは、一言で言えば「投資し、開かれた形で強くなる」ことです。

 

第1に、創薬力への投資。中国発の有望な新薬はそれとして取り込みつつ、自国あるは友好国とのつながりのなかで研究・開発・生産する力を育てる。第2に、重要な薬の原薬を国内と友好国で複線化して確保する。第3は、研究者をはじめとする人材への投資で、閉じて守るのではなく、魅力ある環境で世界から惹きつける。第4に、AI時代の競争に勝つためのデータ基盤への投資です。

 

半導体では、日本はかつての強さを守り切れませんでした。医薬品で同じ轍を踏まないためにも、いま投資を強化する必要があります。守りとしての国産化はもちろん、攻めとしての投資が求められます。

 

戦略物資として安全保障との結びつきで語られることが多くなった医薬品ですが、軍事技術などとは違い、医薬品は戦略資源でありながら誰も傷つけません。人を救うためだけに存在します。

 

だからこそ、医薬品への投資の目的は、自国内に閉じこもるためであってはなりません。自国民に確かに届けるのはもちろん、同時に国外にも開き、世界中の患者に貢献することを目指すべきです。守りながら、開く。そのために投資する。それが、これからの製薬産業の、そして日本の進むべき道だと考えます。

 

(おわり)

 

増井慶太(ますい・けいた)ロンジェビティ特化型VC(ベンチャーキャピタル)ASAGI Labs Ventures合同会社Managing Partner、BAIOX株式会社CEO、インダストリアルドライブ合同会社CEO。ヘルスケアやライフサイエンス領域の投資運営、M&A仲介、カンパニー・クリエーション、事業運営に従事。東京大教養学部卒業後、米系経営戦略コンサルティング企業、欧州製薬企業などを経て現職。
X:@keita_masui
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