
目の難病、スタルガルト病に対する初の治療薬登場に期待が高まっています。今年9月、米国のバイオベンベンチャー・ビライトバイオが新薬候補tinlarebantを申請しました。疾患の認知度や診断体制に課題があり、同社は啓発活動に力を入れています。
国内患者数は推定1万人も多くが未診断
スタルガルト病は、国の指定難病・黄斑ジストロフィに含まれる疾患の1つ。黄斑ジストロフィは、遺伝学的な原因で網膜の中心部である黄斑が徐々に障害される疾患の総称で、スタルガルト病は黄斑部の網膜萎縮とその周囲に散在する黄色い斑点(黄色斑、フレック)が特徴です。
スタルガルト病は、主に小児期から若年成人期にかけて発症し、視力低下、中心視野障害、色覚異常といった症状を伴います。原因はABCA4遺伝子の異常。ABCA4遺伝子がつくるタンパク質が正常に機能しないことで、有害な老廃物ビスレチノイドが網膜に蓄積し、黄斑が傷つくことで視力が低下します。常染色体潜性遺伝の疾患で、家族に患者がいなくても発症するケースが珍しくありません。
把握されている患者は1~2割
スタルガルト病は、欧米では黄斑ジストロフィのなかで最も頻度が高く、有病率は8000~1万人に1人と推定されています。国内では疫学データが限られるものの、有病率は欧米と同程度と考えられ、推定患者数は1万人とされています。
ただ、スタルガルト病は症状だけではほかの眼疾患との判別が難しく、確定診断に至らないケースが少なくありません。国内の推定患者1万人に対し、実際に把握されているのは1~2割程度といい、未診断の患者が多く存在すると指摘されています。
申請のtinlarebant、27年承認へ
スタルガルト病には現在、確立された治療法はありません。そのため患者には、補助具やリハビリによって残存する視機能の活用を支援し、QOLの維持・向上を図る「ロービジョンケア」が提供されます。
一方、近年は治療法の開発にも進展が見られるようになってきており、期待が高まっています。ビライトバイオのtinlarebantが米国と日本で申請にこぎ着け、世界初・日本初の治療薬として2027年に承認される可能性があります。
tinlarebantは、スタルガルト病の発症と進行に関与するビタミンA由来の有害物質ビスレチノイドの眼内への蓄積を抑制する経口薬。肝臓から眼にビタミンA(レチノール)を運ぶタンパク質・血清レチノール結合タンパク質4(RBP4)の濃度を低下させ、眼に供給されるレチノールの量を調節することで、ビレスチノイドの生成を抑制します。
病変拡大速度を35.7%抑制
12~20歳の青年期患者104人を対象に海外で行われた臨床第3相(P3)試験では、プラセボと比較して萎縮性網膜病変の拡大速度を35.7%抑制し、統計学的に有意な結果が示されています。米国では8月に申請が受理され、FDA(食品医薬品局)は審査終了目標日を27年2月12日に設定。日本でも9月に申請しました。日本では、世界に先駆けて日本で実用化を目指す革新的医薬品の審査期間を短縮する先駆的医薬品に指定されており、来年春ごろの承認が想定されます。
これに続こうとしているのが米国のバイオベンチャー、アルケウス・ファーマシューティカルズのgildeuretinol acetate。tinlarebantと同じように眼内への有害物質の蓄積を抑える経口薬で、日本を含むグローバルP3試験が行われています。
さらには、根本原因にアプローチする遺伝子治療薬や、視力の維持・改善を図る細胞治療の研究開発も進められています。たとえばアステラス製薬は、網膜色素上皮細胞「ASP2020」を開発しており、現在は前臨床の段階にあります。今年のノーベル生理学・医学賞に選ばれたオプトジェネティクスを使ったアプローチも注目されています。
遺伝学検査、全国で12医療機関のみ
一方で、疾患そのものの認知度や診断体制には課題があります。
国立病院機構東京医療センター臨床研究センター視覚生理学研究室の藤波芳室長は、ビライトバイオが10月2日に開いたメディア向けのセミナーで「患者さん、家族、社会が病気をもっと知ることが必要だ」と指摘。診断が難しいため、一般内科を受診しても経過観察となるケースも多く、「専門施設への紹介ルートの拡充が必要だ」と話しました。
スタルガルト病の診断は、複数の検査を経て最後は遺伝学的検査によって確定診断が行われますが、日本網膜硝子体学会による遺伝学的検査のエキスパートパネル認定を受けている医療機関は全国に12施設しかありません。
患者家族会「みらい」代表の高野広樹さんは「治療が現実のものとなりつつある現在、私たちがぶつかっているのが遺伝子診断の壁」と言い、「遺伝学的検査を行う施設がない都道府県のほうが圧倒的に多い。そのようなエリアでは、かかりつけ医を受診しても、そこから専門医を紹介され、カウンセリングを含む適切な環境下で遺伝学的検査を受けるという一連のスキームが確立されていない」と診断体制の充実を訴えました。
「啓発事務局」設立
ビライトバイオは7月、疾患の認知向上と早期の受診・適切な診断につながる環境の構築を目指し、「スタルガルト病疾患啓発事務局」を設立。医療従事者、患者、一般社会への情報発信など、啓発活動に力を入れます。
同社の赤木俊之事業本部長は「スタルガルト病には『患者さんの日常生活における見えにくさ』『症状を抱えているということが周囲の人からはわかりにくいという見えにくさ』『医療現場におけるこの疾患の見えにくさ・見つけにくさ』という3つの見過ごされてきた見えにくさがある。情報を1人でも多くの人に届け、患者さんとその家族、医療従事者に希望を感じてもらえるよう活動している」と話しています。
AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
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