
自社創製の2つの抗精神病薬で精神科領域に強みを築いてきた大塚ホールディングス(HD)が、外部のイノベーションも活用しながら同領域で新たな展開を模索しています。特に力を入れるのが、従来薬にはない高い有効性と速効性、持続性を期待するニューロプラストゲン。現在、買収で獲得した2つの化合物が臨床試験に入っており、自社研究も組み合わせてポートフォリオ構築を進めています。
「しっかり投資して効果高い薬剤送り出す」
ニューロプラストゲンは、脳の神経可塑性を誘発する化合物。神経可塑性とは、脳の神経回路を再編成する能力のことで、記憶の形成や感情の調整に重要な役割を果たします。近年、神経可塑性の低下に伴う神経回路の機能不全が、うつ病、双極性障害、統合失調症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、全般不安症といった精神疾患の発症や慢性化に関わっていることが研究で明らかになってきており、神経可塑性を回復・促進させる治療アプローチが注目されています。
ニューロプラストゲンの代表例が5-HT2Aアゴニスト。典型的なのはシロシビン、5-MeO DMT、LSDといった天然物構造を持つ幻覚剤(サイケデリックス)で、近年は第2世代としてそれらをもとにした新たな化合物の研究開発が活発に行われています。
大塚HDは現在、買収を通じて獲得した2つのニューロプラストゲンの臨床試験を進めています。1つは、今年行った米トランセンド・セラピューティクス買収で獲得したモノアミンの放出を促進する「TSND-201」(一般名・メチロン)で、PTSDを対象に米国で臨床第3相(P3)試験を実施中。もう1つは、2023年にカナダのマインドセット・ファーマを買収して取り込んだシロシビン系の骨格を持つ5-HT2Aアゴニスト「MSP-2020」で、近く米国でP2試験に入る予定です。マインドセット由来の化合物では、5-MeO DMT系の5-HT2Aアゴニスト「OPC-367」もP1試験のIND申請(新薬臨床試験開始申請)を済ませています。

大塚製薬の渡邊武・常務執行役員事業開発部長は9月11日に開かれた大塚HDの精神・神経領域の成長戦略に関する説明会で、「ニューロプラストゲンは非常に効果が強いように見えている。ここにしっかり投資し、効果が高い薬剤を世の中に出していくことが大事」と話し、この分野に注力する意義を強調しました。
米国では研究促進の大統領令
大塚HDは、外部のサイエンスと社内研究を組み合わせてニューロプラストゲンのポートフォリオ構築を進めています。マインドセットのチームでは、第3世代となる非幻覚性の5-HT2Aアゴニストの研究を進めているほか、大塚製薬の徳島の研究所でも別のタイプの非幻覚性5-HT2Aアゴニストの研究が進行中。前者は27~28年、後者は28~29年のIND申請を目指しています。
「5-HT2Aアゴニストから幻覚性を取り去ったときに治療効果があるかないかということについては、科学として結論はまったく出ていない状況」(渡邊氏)ですが、多様な創薬アプローチをとりながら臨床的有用性を見極めていく考えです。
ニューロプラストゲンは、継続的に毎日服用する一般的な精神科領域の薬剤とは使われ方が大きく異なります。投与は専門の施設で行われ、患者は投与後数時間、施設で過ごしたあとに帰宅。治療はこれで完了です。効果は速やかに現れ、数カ月単位で持続します。大塚は米国で1、2を争う規模の販売体制を敷いており、渡邊氏は「従来型の営業の大きな基盤を維持しつつ、専門施設に特化した営業部隊を構築することで効果的な事業展開ができる」と話します。
サイケデリックスをめぐっては、米国のドナルド・トランプ大統領が今年4月、研究の促進に向けた大統領令に署名。当局に対して承認審査の迅速化や規制緩和を指示しており、事業化に向けては追い風になります。
関連記事:現実味帯びる「幻覚剤療法」うつやPTSDなどで進む開発、米政権が研究促進

「大きな成長機会があるのは間違いない」
大塚HDは「エビリファイ」(アリピプラゾール、02年発売)と「レキサルティ」(ブレクスピプラゾール、15年発売)の2つの抗精神病薬をヒットさせ、精神科領域に強みを構築。エビリファイはピークとなった14年12月期に世界で6542億円を売り上げ、レキサルティは今期売上収益予想3680億円の最主力品として業績を牽引します。エビリファイには13年に持続性注射剤を投入しており、今期の持続性注射剤の売上収益は1カ月製剤と2カ月製剤を合わせて2520億円に達する見込みです。
大塚HDは35年に売上収益3.5兆円を目指しており、精神・神経領域を中核事業の1つに位置付けています。井上眞社長CEO(最高経営責任者)は11日の説明会で「精神・神経領域は、今まさに大きな変革期を迎えている。病態理解の進展や新たな治療標的の登場によって、これまで治療が難しかった疾患にも新たな可能性が広がっている」と指摘。「精神・神経領域に大きな成長機会があるのは間違いない」とし、長年にわたる同領域での事業展開で培った「知見と実行力」が自社の競争力だと強調しました。
ニューロプラストゲン以外の分野では、住友ファーマから導入したTAAR1・5-HT1Aアゴニストのウロタロント(一般名)に期待。日米で統合失調症と全般不安症を対象に後期開発を進めています。17年の米ニューロバンス買収で獲得したADHD治療薬センタナファジン(同)は7月に米国で承認を取得しました。

次世代の治療アプローチとしては、疾患横断的な症状に着目した新薬開発にも注目。スウェーデンのアイアールラボ・セラピューティクスがアパシー(意欲や関心が低下し、自発的に行動しにくくなる状態)を対象に行っているGPR6インバースアゴニストlinepemat(一般名)の臨床開発を支援しているほか、自社でもドパミン研究の延長線で創薬を進めています。
薬事的な経路は整備されていないものの、渡邊氏は多発性嚢胞腎治療薬「サムスカ/ジンアーク」を例に出し、「FDAに多発性嚢胞腎の臨床試験データを初めて提出したのは私たち。試験デザインもよくわからないなか、FDAと合意して作り上げ、臨床試験を行った。薬事の経路がはっきりしないことに対する抵抗はなく、アンメットメディカルニーズがあればやっていけると信じている」と話しました。
AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
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