
難治がんの代表格である膵がんの治療薬開発をめぐり、米レボリューション・メディシンズ(RevMed)とアステラス製薬が開発競争を繰り広げています。先行するのはRevMedのRAS阻害薬daraxonrasibで、8月に米国で承認。アステラスは4月に標的タンパク質分解誘導薬setidegrasibの最終治験を開始し、RevMedを追います。
生存期間2倍「画期的な進歩」
daraxonrasib(一般名、製品名・RASONQUE)は米国のバイオベンチャー、レボリューション・メディシンズ(RevMed)が開発したRAS阻害薬。8月26日に「少なくとも1回の全身療法を受けたことがある、または多剤併用全身療法の適応とならない転移性膵腺がん」の適応で米国で承認されました。FDA(食品医薬品局)は同薬を、国家的な健康課題に対応する医薬品を迅速に審査する「国家優先バウチャープログラム」の対象に選定しており、7月22日の申請受理からわずか1カ月あまりでのスピード承認となりました。

レボリューション・メディシンズの「RASONQUE」(同社プレスリリースから)
daraxonrasibは1日1回投与の経口薬です。転移性膵腺がんの2次治療を対象に行われた臨床第3相(P3)試験では、全生存期間(OS)の中央値が13.2カ月と、標準化学療法の6.7カ月と比べて約2倍に延長。死亡リスクを60%低減しました。膵がん治療薬の臨床試験でこれほど良好な結果が示されるのは初めてのことで、同薬の登場により治療は大きく進展しそうです。
膵がんは、初期段階では自覚症状がほとんどないため早期発見が難しいうえに進行が早く、従来の化学療法も効果が限定的なため、最も治療が難しいがんの1つとされます。米国では転移性膵腺がんの5年生存率は3%程度と報告されており、予後は極めて不良です。日本は2023年に4万7540人が膵がんと診断され、24年の死亡数は4万1235人。遠隔転移のある患者の5年生存率は2.2%とされています。
日本はP3
RASを標的とする治療薬の開発は過去数十年にわたって行われてきましたが、そのほとんどはうまくいきませんでした。RevMedのマーク・ゴールドスミスCEO(最高経営責任者)は「RASONQUEの承認は膵がん患者と腫瘍学にとって画期的な進歩だ」と強調。FDAのカイル・ディアマンタス長官代行も「極めて治療が困難だったがんに苦しむ患者にとって重要な新たな選択肢となる」とコメントしました。
daraxonrasibは欧州でも段階的審査が進められており、日本を含むグローバルP3試験も進行中。転移性膵がんの1次治療や周術期の補助療法でもP3試験が行われています。RevMedは8月、daraxonrasibを含む開発段階の4つのRAS阻害薬について、ビーワンメディシンズ(スイス)と一部アジア市場での開発・商業化に関する契約を結びました。

アステラス「効果の持続」など優位性に自信
膵がんに対してはdaraxonrasibのほかにも複数の新薬候補が臨床試験の後期段階に入っています。
アステラス製薬は4月、RASファミリーの一種であるKRASのG12D変異体を標的とするsetidegrasib(一般名)のグローバルP3試験を開始。試験では、KRAS G12D変異陽性転移性膵腺がんの1次治療を対象に、mFOLFIRINOXまたはNALIRIFOXとの併用療法の有効性と安全性を評価します。主要評価項目はOSで、600人以上の患者を組み入れる予定です。
setidegrasibはアステラスが創製したタンパク質分解誘導薬で、変異したKRAS G12Dを分解することで効果を発揮。阻害薬のdaraxonrasibとは作用が異なります。標的にも違いがあり、daraxonrasibはRASを広範にターゲットとする一方、setidegrasibはRASファミリーの1つであるKRASの特定の変異が対象。daraxonrasibはRASの変異の有無を問わない形で承認されたのに対し、setidegrasibが対象とするKRAS G12D陽性は膵がん患者の40%程度とされます。
アステラスの谷口忠明研究開発担当CRDO(Chief Research & Development Officer)は、同社が3月に開いたR&D説明会や5月の経営計画説明会で、daraxonrasibに対するsetidegrasibの優位性について、▽効果が長く持続する可能性がある▽抵抗性が出にくい可能性がある▽安全性に優れる可能性がある▽早い治療ラインではRAS全体より特定の変異を標的とする薬剤が好まれる可能性がある▽経口摂取が難しい膵がん患者には注射剤が使いやすい可能性がある――を挙げています。
29年度に中間解析データ
岡村直樹社長CEO(最高経営責任者)は4月の決算説明会で「RevMedの成功はKRASが取り組むべきターゲットだということを証明してくれた。彼らの成功は追い風で、われわれの化合物は作用機序の違いに伴うよい点を持っていると思う」と話しました。
RevMedもKRAS G12Dを標的とする阻害薬zoldonrasibについて、1次治療を対象にP3試験を実施中。zoldonrasibとdaraxonrasibを併用するアプローチも検討されています。zoldonrasib/daraxonrasibとsetidegrasibは非小細胞肺がんでも最終治験に差し掛かっており、ここでも開発競争を繰り広げています。
主力の前立腺がん治療薬「イクスタンジ」の特許切れを控えるアステラスは、setidegrasibを将来の成長ドライバーの1つとして期待しています。承認ではRevMedが先行したものの、岡村氏は「最後の最後に後期開発のデータが出たところで両社の勝負が決まるというくらいに、私は楽観的に考えている」と自信を見せています。setidegrasibの膵がん1次治療のP3試験は、29年度に中間解析データが判明する見込みです。
AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
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