
厚生労働省が行っている「医療用医薬品の販売情報提供活動調査事業」の2025年度報告書によると、法令違反が疑われた情報提供活動は6件にとどまり、前年度の18件から大幅に減少したことが分かりました。厚労省の販売情報提供ガイドライン(GL)が浸透し、企業側の行動変容につながったといえそうです。ただ、形式的にはルールを守っているように見せながらGLをかいくぐる「劇場型」の手口も明らかになるなど、依然として問題点も指摘されています。
前年度の3分の1に減少
同事業による販売情報提供活動の監視は16年度に開始。19年度からは、モニター医療機関からの報告に加え、それ以外の医療機関から広く「一般報告」も受け付ける現在の仕組みになりました。25年度調査では9件の疑義報告があり、そのうち6件が違反疑いと判断されました。前年度は18件の疑義報告すべてが違反疑いでした。

報告書では、不適切な情報提供活動が減少した背景として、GLを順守する製薬企業の姿勢を挙げています。実際、医療関係者からはMR活動に対する肯定的な意見が上がっており、自社製品について有効性だけではなくデメリットも含めたリスク・ベネフィットを公平に説明する姿勢は好印象を得ています。たとえば、「医療従事者から尋ねられる前にリスクや注意点を説明する」「安全性情報や安全管理に向けた情報提供を積極的に行う」「副作用を積極的に収集する」といった活動が評価されました。
その一方で、疑義報告のなかには巧妙に規制を回避しようとする事例も見られました。象徴的なのは、報告書が「劇場型」と呼ぶ、GLを意識して形式上はルールを守っているように見せながら、実質的には自社製品に有利な情報を提供するケースです。
実際に報告されたのは、痛風治療薬に関する病院へのオンライン説明会でのこと。MRによる販売情報提供のあと、カメラオフで同席していた学術担当者がカメラをオンにし、医療従事者から求めに応じたという形式をとって追加の情報を説明しました。ただ、MRと学術担当者の資料は一連のものとなっており、両者が一体化した情報提供でした。
卸MSが誇大表現
従来から問題視されてきた、誇大な表現やエビデンスのない説明もなくなりません。25年度の監視事業でも、ある中枢神経系用薬について「副作用が少なく安全性が高い」と説明したMRが根拠を問われ、「医師の印象」と答えたことが報告されました(直後に「口が滑った」と謝罪)。
未承認の疾患にも効果が期待できるとした事例では、病院担当MR、疾患領域専門MR、学術担当者が同席していたにもかかわらず、不適切な情報提供との認識を誰も示さなかったケースが報告されました。MR個人レベルだけではなく、複数の担当者が関与する場でもこうした行為が起きています。
製薬企業主催の講演会についても警告されています。医師が演者であっても、製薬企業が主催し、依頼やスライドの事前チェックなどで関与していると、販売情報提供活動・広告行為とみなされる場合があります。今回も、国内で承認されていない効能効果について、海外のGLや臨床試験を紹介したケースを複数確認。こうした行為について報告書は、未承認薬の広告を禁じる医薬品医療機器等法68条に抵触する可能性があると指摘しています。
医薬品卸のMSが、ワクチンについて根拠なく「終生免疫」と誇大な表現を使ってプロモーションしていたことも明らかになりました。卸の営業活動も販売情報提供活動ガイドラインの対象であり、報告書は卸会社による情報提供にも注意するよう製薬企業に求めています。

企業の研修「テクニカル面に終始」懸念
今後の課題としては、▽医療従事者へのGLさらなる周知▽一般報告窓口の認知度向上▽MR個人によるメール配信の適正化▽企業側の教育・研修の充実――が挙げられます。特に企業の研修については「(GLの)テクニカルな面に終始している懸念」があるとし、適正使用の確保と保健衛生の向上という本来の目的を理解させることが重要だとしています。
かつての販売情報提供活動をめぐる問題は、MRが対面で競合品を誹謗し、自社品の優位性を強調するといった分かりやすいものが中心でした。近年、そうした露骨な売り込みは減少していますが、一方でMR、学術担当者、講演演者、卸のMSといった複数のプレーヤーと、対面、オンライン、メール、講演会など多様なチャネルを組み合わせた情報提供が監視対象になっています。
違反疑い件数の大幅な減少は、業界のコンプライアンス意識が高まった成果といえるでしょう。しかし、それだけで問題が解消したと見ることはできません。今後問われるのは、ルールの形式的な順守ではなく、医療従事者にとって必要な情報を有効性と安全性の両面から誠実かつ公平に伝えることができるかです。
10年目を迎えた販売情報提供活動調査事業。報告書は、記事体広告や製品情報概要での不適切事例は着実に減少し、製薬企業・業界団体による教育やコンプライアンス対応も進んでいると評価します。その一方で、安全性に関する情報の提供を意図的に省いたり、規制を回避する形式を取ったりする行為は後を絶ちません。RMP(医薬品リスク管理計画)や禁忌情報など、適正使用に不可欠な情報を十分に伝えない活動については、徹底した改善が求められます。





