
2020年にアステラス製薬との合弁を解消し、本格的に日本市場に参入した米アムジェン。活発な新薬上市もあって25年の国内売上高は1453億円まで拡大しました。成長を支える研究開発について、グローバル開発本部長のジェームズ・ブラドナー上級副社長に話を聞きました。
自社パイプラインは強固
――研究開発の基本方針は。
アムジェンは世界最大かつ独立系のバイオテック企業です。低分子から高分子に至るまで、さまざまな標的治療薬を開発しています。「想像」と「創造」の力を駆使し、4つの主要領域を構築しています。オンコロジー、炎症・自己免疫、循環・代謝、そして最近特に注力している希少疾患です。
基本的にはそれぞれの疾患領域でファースト・イン・クラスを狙っていきたいですが、それだけでは十分に解決し切れないことがあります。たとえば、肥満症は何十年にもわたって研究されている領域であり、過去5年間で大きな進展がありました。それでもなお課題が残っており、週1回投与では患者さんの半数程度が1年以内に治療をやめてしまいます。上市が早いだけでは解決できないアンメットニーズを満たしていく必要があります。
社内には生産性が高く優秀な研究者が多くいます。彼ら・彼女らがさまざまな領域の研究を進めており、自社パイプラインは強固です。一方で、イノベーションに対してはオープンなアプローチをとっています。外部の新しい技術開発や、自社ビジネスの成長に寄与しそうなバイオテック企業にはパートナーシップをお願いします。

米アムジェンのグローバル開発本部長、ジェームズ・ブラドナー氏
――研究開発部門でのAI活用の現状について教えてください。
当社は研究開発にAIを先駆的かつ先進的に活用している部分があります。タンパク質の設計、仮説の生成、臨床試験の被験者登録、薬事申請など、活用はさまざまな領域におよびます。特に薬事申請における文書の準備では、以前なら1~2年かかっていたものを4カ月程度に劇的にスピードアップすることができました。
研究開発以外にも多くの機会があると考えており、たとえばAIが得意とする予測を物流・ロジスティクスに活用することもできます。製薬企業は製造業であり、製品を世界全体に円滑に供給することが至上命題ですが、その解決もAIの得意分野と言えます。私は最近、当社CEOから「AIによる変革をリードせよ」とのミッションを与えられました。
――具体的に何をどう変革していきますか。
新薬開発がうまくいっている現在の当社のビジネスを変革するには、とてもデリケートな手続きが必要です。AIトランスフォーメーションで最も重要なのは、世界中のスタッフがより生産的になり、より多くの知見を得られるようになることです。まずはアップスキリングが必要で、その上で社内に保持するデータをうまく統合していけばビジネスをテコ入れすることが可能になると考えています。
ターゲット領域の見極めにもAIを活用していきます。われわれの使命は、より多くの患者さんに可能な限り早く医薬品を届けることであり、特定の薬剤や開発領域に焦点を当てて力を注ぐことが重要です。大きなインパクトをもたらす領域を見極めることが、AIには可能だと考えています。
BiTE「血液がんと固形がん、両方狙って開発」
――独自技術の「BiTE」は、がん領域の開発戦略にどう位置付けていますか。
BiTEはいわゆる二重特異性抗体で、がん細胞にT細胞に誘導するT細胞エンゲージャー(TCE)です。2つの抗原結合部位がそれぞれ腫瘍細胞と免疫細胞に結合し、両者を架橋します。そうすることで免疫システムを強化し、抗腫瘍効果を発揮する仕組みです。ただ、開発は実はとても大変です。
現在、3つのリードBiTE分子があり、このうち2つはすでに承認され、市場や患者さんに大きなインパクトを与えています。1つは「ビーリンサイト」で、急性リンパ性白血病で全生存期間(OS)を顕著に改善する結果が示されています。もう1つは小細胞肺がんの2次治療を対象に承認されている「イムデトラ」。さらに、前立腺がんを対象にザルリタミグ(一般名)の試験第3相(P3)試験を進めています。

――がん領域では抗体薬物複合体(ADC)やCAR-T細胞療法の開発も活発です。これらと比べて、BiTE/TCEにはどんな特徴がありますか。
私自身、医師・創薬研究者として、さまざまなタイプの薬剤の可能性を追求していますが、これらの技術にはそれぞれに役割と有効性があると思っています。BiTEの強みの1つは、微細な用量調整を行うことが可能で、毒性を制御しやすいことです。CAR-Tではそれが非常に難しく、製造や供給の課題に加えて併用治療の開発にも高いハードルがあります。
ADCは日本でも多く開発されています。今後さらに対象を広げていくときに、毒性の管理などで課題が出てくるかと思います。
――TCEは固形がんでは開発が難しいと言われています。
正直に申し上げて、固形がんに対する開発は大変です。標的とする腫瘍細胞があったとして、その腫瘍細胞が健常な細胞と境界を共有している場合がタンパクレベルでは往々にしてあります。実は、当社で最初にTCEを開発したときは固形がんを標的としており、社内のバイオロジストらにがん細胞の表面にしか見られない標的はないかを徹底的に研究してもらったのです。
がん領域で国内初の二重特異性抗体となったビーリンサイトを白血病の適応で開発したときも、一般的に医学界全体では固形がんに対するTCEの開発はほとんど不可能ではないかと言われていました。ところが、小細胞肺がんでDLL3という標的を同定することができ、イムデトラの開発に成功しました。
今後も血液がんと固形がんの両方を狙って開発していきます。チャレンジングな開発についてもコミットしています。
日本への研究開発投資増える
――グローバルな研究開発のなかで日本をどう位置付けていますか。
日本はアムジェンにとって2番目に大きな市場です。研究開発においてもグローバルチームと日本チームが緊密に連携しており、開発の早期段階から積極的に参加すべき重要な国と考えています。22年以降、革新的な薬剤の価値をもたらすことで、企業としての評価を確立しようと取り組んできました。厚生労働省やPMDA(医薬品医療機器総合機構)の努力によって、臨床試験や承認のプロセスの迅速化が大幅に進んでおり、われわれもこの流れに乗って今後5年間で徹底的に開発を進めていきたいと考えています。
――日本法人の売上高は右肩上がりです。日本への研究開発投資はさらに拡大していく流れにありますか。
今後5~10年は日本への研究開発投資が増えていくと考えています。これはビジネス上の理由だけではなく、生成されるサイエンスデータや臨床試験の質が極めて高いレベルを誇っていることが背景にあります。
まだ実現していませんが、今後、ディスカバリーの面で日本の研究機関や大学、あるいは優れた研究者とコラボレーションすることを望んでいます。それによって、がんやその他の領域で新たな標的の開発を進めていきたいと思います。

――アムジェンでは日本でドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスは発生していませんか。また、日本の薬価制度におけるイノベーション評価は新薬投入に影響しますか。
グローバルP3試験を開始するにあたり、特定の国で特定の試験を行うには課題もありますが、日本の優先順位は高いと考えています。これまで非常に有効性の高い薬剤を日本の患者さんに届けてきましたが、ラグが発生するとしてもその期間をより短縮する努力は常に怠らないという意識でいます。
薬価制度については、臨床試験の設計段階で考慮することはほとんどありません。われわれが注力しているのは、可能な限り迅速に患者登録を行い、できるだけ早く完了させることです。
民族間の違いを検証することは重要であり、その意味でも日本は非常に重要な国なのです。
――ラグ/ロスをめぐっては、米国のMFN(最恵国待遇)政策によって外資系製薬企業が薬価の低い日本で新薬の開発・上市を行わなくなるのではないかと懸念されています。
世界の人々にとって最も重要なのは、革新的医薬品にアクセスできるということです。重篤な疾患を持つ患者さんに薬剤を迅速に提供するとともに、そうした薬剤へのアクセスを確保するには、政府の政策は確実なものでなければなりません。
現在は、かつてないほど革新的な医薬品を開発できる時代です。そうした環境下で、迅速な開発体制を確保し、重篤な疾患を持つ患者さんにできるだけ早く届けられるような政策がグローバルに確立されることを願います。
肥満症に注力
――日本のパイプラインのなかで市場性が期待できる、あるいは患者さんにとって福音となるものは何でしょうか。
TCEであるイムデトラは、小細胞肺がんのファーストラインの維持療法でP3試験のデータリードアウトを控えており、希望が持てる結果を期待しています。
ビーリンサイトやイムデルトラに次ぐTCEとして開発しているザルリタミグは、前立腺がん細胞の表面に発現するSTEAP1を標的としています。
個々の開発品の市場性に優劣をつけるのは難しいです。ただ、日本では40以上の臨床試験が走っており、今後さらに増える見込みです。
――今後の開発はやはり、がん領域が中心になりますか。
いえ、違います。重点としている希少疾患、循環器、炎症の領域でも製品を続々と日本に投入していく方針です。すでに甲状腺眼症治療薬「テッペーザ」が販売されており、患者さんに大きなベネフィットをもたらしています。
最近、注力しているのは肥満症です。循環代謝系では悪玉コレステロールを狙ったPCSK9阻害薬「レパーサ」を製品化しましたが、心不全などを起こす最初の原因の1つが肥満症であり、研究を続けてきました。
現在、GIPR抗体GLP-1ペプチド複合体がP3試験の段階にあります。多くの糖尿病治療薬や肥満症治療薬は投与間隔が短いですが、われわれの薬剤は構造的に半減期が長いのが特長です。開発が進展すれば、1カ月に1回といった長い投与間隔が可能になってくるでしょう。早期のデータからも、体重減少効果と糖尿病患者さんのHbA1c低下効果が大きく、バイオテックとしての力量を示せると考えています。

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