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現実味帯びる「幻覚剤療法」うつやPTSDなどで進む開発、米政権が研究促進

更新日

ロイター通信

幻覚剤の研究を促進する大統領令に署名する米トランプ大統領

 

[ロイター]米国のドナルド・トランプ大統領が4月18日、幻覚剤(サイケデリック)を使った治療の研究を促進する大統領令に署名した。保健当局に認可の迅速化を求めるとともに、関連研究に対する政府の資金提供を増やすよう指示した。

 

米国では現在、ほぼすべての幻覚剤がヘロインやエクスタシーと同じ「スケジュールI」の規制物質に分類されている。スケジュールIへの分類は、医療用途がなく、乱用の危険性が極めて高いとみなされていることを意味する。

 

一方で、幻覚作用のある化合物から派生したいくつかの治療法が、製薬会社によって開発されている。

 

幻覚剤療法の研究開発を後押しする最も有力なエビデンスは、既存治療で効果が得られなかった重度のうつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)を対象に行われた臨床試験によるものだ。

 

初期段階の臨床試験では、薬物依存、境界性パーソナリティ障害、強迫性障害、不安障害、自傷行為、慢性ライム病、線維筋痛症への効果も検証されている。

 

幻覚剤を使った治療は、主に神経細胞表面のタンパク質を活性化することで効果を発揮する。これらのタンパク質は、▽脳の再編成▽新たな神経結合の形成▽損傷した神経回路の修復――といった脳の機能を調節する役割を担っている。自宅などで毎日服用する一般的な精神科薬とは異なり、幻覚剤療法は通常、集中的な心理療法を補完するものとして、医療従事者によって限られた回数、行われる。

 

オーストラリアなどで承認

すでに承認されている幻覚剤もある。

 

オーストラリアでは、合成精神活性薬のミドマフェタミン(MDMA)がPTSD治療薬として承認されている。特定のキノコに含まれる天然の幻覚性化合物シロシビンも、治療抵抗性うつ病の治療薬として承認されている。

 

スイスではシロシビンを使った精神療法が限定的に認められている。ジャマイカでは、シロシビンを配合した食品や飲料の販売が認められている。ブラジルとオランダでは、アヤワスカやキノコに含まれる植物由来の幻覚剤の使用が認められている。

 

米国と欧州では、ジョンソン・エンド・ジョンソンのエスケタミン点鼻スプレー「スプラバート」が、治療抵抗性うつ病と自殺念慮の治療薬として承認されている(日本では未承認)。エスケタミンはケタミン分子の半分から誘導される。厳密には麻酔薬だが、治療効果をもたらす精神変容作用を持つため、非古典的幻覚剤とみなされている。ケタミンは米国で麻酔薬として承認されているが、うつ病の治療に適応外使用されることも少なくない。

 

メキシコでは、医療従事者がイボガインを合法的に投与することができる。そのため、イボガインによる治療を求める患者、特に米国の退役軍人がメキシコを訪れている。

 

開発状況は

米国と欧州では、治療抵抗性うつ病に対する治療薬としてシロシビンが承認の最有力候補となっている。

 

英コンパス・パスウェイズが開発した合成シロシビン「COMP360」の2つの後期臨床試験では、単回経口投与から数日以内にうつ症状の軽減を示し、その効果は最長6カ月間持続した。同社は、2026年後半に米FDA(食品医薬品局)への申請を完了する予定だとしている。

 

カナダのフィラメント・ヘルスが開発している天然由来のシロシビンカプセル「PEX010」は現在、米国を含む複数の国で、うつ病、PTSD、がん関連の苦痛に対する臨床試験が行われている。EU(欧州連合)は25年、シロシビン製剤として初めてPEX010の人道的使用を認めた。

 

開発中の幻覚剤には、アフリカ原産の低木イボガの根に由来するイボガインも含まれる。米国の当局は、外傷性脳損傷と薬物依存を抱える退役軍人を対象に行われた小規模な研究に基づき、イボガインの研究を加速させる計画だとしている。イボガインを開発している企業には、米サイエンス・バイオメディカルやカナダのオプティミ・ヘルスなどがある。

 

英ベックリー・サイテックと独アタイ・ライフサイエンスは、カエルの毒に含まれる5-MeO-DMTの合成版を、難治性うつ病とアルコール使用障害に対する点鼻スプレーとして開発している。ベックリーは、シロシビンの活性代謝物であるシロシンの静注剤も開発中。いずれも臨床試験の段階にある。

 

米ライコス・セラピューティクスのMDMAカプセルは、PTSDを対象に行った2つの大規模臨床試験で、患者の3分の2が追跡期間中に診断基準を満たさなくなるという良好な結果を得た。これは対照群の2倍の割合で、多くの患者で効果は数カ月持続した。しかし、米FDAは24年8月、試験方法に問題があるとして承認を拒否。別の臨床第3相(P3)試験の実施を要求した。

 

有害事象リスクも

幻覚剤による治療にはリスクもある。有害事象には急性不安、パニック、混乱、短期的な気分の悪化・苦痛などが挙げられる。患者の10~15%は長期的な悪影響を経験すると推定されている。特に、双極性障害や統合失調症を持つ人、あるいはそれらの強い家族歴がある人では、精神病状態や躁病状態を誘発することもある。

 

身体的なリスクとしては、シロシビンには吐き気や頭痛、イボガインには致死的な不整脈。MDMAには血圧・心拍数・体温の一時的上昇などがある。

 

こうしたリスクは、臨床以外の場所で使用された場合により高くなる。

 

(取材:Nancy Lapid、編集:Bill Berkrot、翻訳:AnswersNews)

 

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