
日常のさまざまな出来事にコントロールできない過剰な不安や心配を慢性的に抱える精神疾患「全般不安症(GAD)」。その国内初の治療薬として、ヴィアトリス製薬の抗うつ薬「イフェクサーSR」が3月に承認されました。GADは、疾患認知度の低さやプラセボ効果による治験失敗のリスクから開発が停滞していた領域。ヴィアトリスが開発成功のために行った治験の工夫とは。
「成功」と「失敗」で意見二分
GADは、日常のさまざまな出来事に対して、コントロール不能な過剰な不安や心配がほぼ毎日、6カ月以上続く精神疾患です。主な症状は、落ち着かない、集中力が続かないといった精神症状と、疲労、肩こり、睡眠障害、頭痛などの身体症状。生涯有病率は4~9%で、中高年の女性に多いとされます。
GADの主な治療は薬物療法と精神療法(認知行動療法など)ですが、日本ではこれまでGADの適応を持つ薬剤はありませんでした。
そうしたなか、国内初のGAD治療薬として登場したのが、ヴィアトリス製薬のセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)「イフェクサーSRカプセル」(一般名・ベンラファキシン塩酸塩)。日本では2015年にうつ病・うつ状態を対象に承認され、今年3月にGADへの適応拡大が承認されました。SNRIは、SSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)とともに海外ではGAD治療の第一選択薬に位置付けられています。

「投資判断には時間かかった」
GADを含む精神疾患は、プラセボ反応率が高いために実薬の有効性を示しにくく、治験失敗のリスクが比較的高い領域です。これまでもGAD治療薬の開発は試みられてきましたが、承認に至った薬剤はありませんでした。
ヴィアトリスでのR&Dヘッドを務める浅見優子氏は、イフェクサーのGADでの開発について「成功と失敗で意見が二分され、社内の投資判断には時間を要した」と振り返り、それでも開発に踏み切ったのは「ほかの製薬会社が成し遂げていない課題に挑戦し、日本の患者に治療薬を届けることの社会的意義が非常に大きいと考えた」と話します。
日本ではGADの認知度が低く、エンロールメントにも懸念がありましたが、「疫学調査や医師の意見を踏まえると、日本にも相当数の患者がいることが確信できた」と浅見氏。海外での豊富なエビデンスが薬剤のポテンシャルをすでに証明しており、医師と協力して治験デザインを工夫すれば日本でも成功できるという自信を持てたことで、開発に踏み出せたと話します。医療法人髙仁会戸田病院の大坪天平院長は、「度胸のある研究」と評価します。

ヴィアトリスが4月に開催したメディアセミナーに登壇した同社の浅見優子氏(左)と大坪天平医師
プラセボ反応率を抑え、評価の正確性を担保するために行った工夫
患者386人を組み入れた国内臨床第3相(P3)試験では、大坪医師らの協力を受けてさまざまな工夫を行いました。
その1つが、ランダム化前に1週間、すべての被験者にプラセボを投与する「プラセボリードイン期」を設定したことです。この期間に効果が見られた被験者を除外することで、実薬の効果を明確にすることを試みました。医師側では、自分の患者を治験に組み入れるため、プラセボリードイン期の症状改善を低く評価する心理が働く場合があり、そうしたことが起こらないよう指導を徹底したといいます。
医療従事者やCRCには「普段よりもクールな対応」を求めました。優しくされることで患者が安心しすぎてしまわないよう、接し方にも細かく配慮。実施施設の選定も慎重に行いました。
「本当に難しい作業だった」
こうしたプラセボ反応率を抑える工夫に加え、評価の正確性を担保するために行ったのがセントラルモニタリングです。医師と患者の間で評価にずれがあった場合は、医師にフィードバックし、ずれが生じないよう細かくモニタリングしていきました。二重盲検下で高くなりながちな医師側の評価を正していくこのプロセスが「最も重要だった」と大坪医師は振り返ります。
こうした工夫のかいもあり、プラセボリードイン期で除外された患者を除く357人の解析では、イフェクサーを投与した群はプラセボ群に比べて不安症状の重症度を有意に改善。患者自身の評価とも一貫していることが示され、抗不安作用が確認されました。大坪医師は「試験で有意差をつけるのは本当に難しい作業だったが、成功させることができ喜ばしい」と話します。
診断率向上に期待
大坪医師は、イフェクサーのGADへの適応拡大の意義について、「取りこぼしが減ること」と指摘。診断率向上への寄与を期待しています。
GADはその症状から、心配性な性格によるものと考える人も少なくありません。イフェクサーの治験に参加した患者でも、治験前に受診していたのは11.2%にとどまりました。治験の広告を見て初めて病気を疑ったという患者も少なくなかったといいます。精神科を受診してもうつ病と診断されたり、そもそも別の診療科を受診してしまい痛み止めなどを処方されたりするケースも珍しくありません。
大坪医師は「パニック症や広場恐怖症、社交不安障害といったほかの不安症と異なり、GADの不安は特定のことを対象としないだけに見過ごされがちですが、すべての不安症の根底にあるものです。目立つ症状にばかり目を向けず、見過ごさないようにすることが重要です」と話します。
国内でも治療ガイドライン作成に向けた動きが出ており、今後数年かけて整備が進んでいく見通し。ヴィアトリスは、7つの質問に答えることで全般不安症の可能性をセルフチェックできるツール「GAD-7」などを使った啓発活動を始めました。
次世代薬も開発
国内では初の治療薬が承認されたばかりですが、グローバルで次世代薬の開発も進んでいます。
大塚製薬はTAAR1/5-HT1Aアゴニストのウロタロント(一般名)を開発しており、日本と米国で行ったP2/3試験でPOCを確認。年内にグローバルP3試験を開始する予定です。
国内では双極性障害を対象に開発中のアッヴィのDRD2/DRD3モジュレーター「ABBV-932」は、米国などでGADを対象にP2試験の段階にあります。
AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
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