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業績停滞のバイエル薬品、成長回復への道筋は―アシュラフ・アルオウフ社長に聞く

更新日

穴迫励二

事業を牽引する3製品と期待の大きい3つパイプラインによる成長戦略「3+3戦略」を掲げるバイエル薬品。複数の主力品の特許切れもあり、過去5年間、業績は停滞していますが、重点品の育成と新薬上市で成長軌道への回帰を狙います。アシュラフ・アルオウフ社長に足元の経営と将来展望について聞きました。

 

 

ケレンディア、ニュベクオの大型化期待

――2025年の業績は抗凝固薬「イグザレルト」への後発医薬品参入で前年比24%の減収でした。

 

製薬業界では、どの企業にも成長と縮小のサイクルがあります。残念ながらこの3年間で複数の製品の特許切れがありました。最も影響が大きかったのはイグザレルトですが、高脂血症治療薬「ゼチーア」や高リン血症治療薬「ホスレノール」も同様です。

 

今年は加齢黄斑変性などの治療薬「アイリーア」も一部の適応症で特許切れとなりました。ただ、強調したいのは売上高の総額ではなく、重点製品がどのように市場を拡大し、どれだけシェアを獲得していくかです。

 

その観点で「3+3戦略」の既存品3製品を見ると、25年は慢性腎臓病・慢性心不全治療薬「ケレンディア」の売り上げが前年から80%増加。前立腺がん治療薬「ニュベクオ」は適応追加がない中で36%伸ばしました。アイリーアについては2mg製剤の一部適応症で特許切れがありましたが、24年に発売した投与間隔が長い8mg製剤は前年比130%増という非常に高い伸びを示しています。

 

【バイエル薬品 売上高の推移】〈年/売上高(億円)〉 |19年/2,525 |20年/2,320 |21年/2292.95 |22年/2296.48 |23年/2238.77 |24年/2159.96 |25年/1640.2 |※バイエル薬品の決算公告をもとに作成

 

――ケレンディアは将来的に大型化が期待できますか。

 

もちろんです。まず、慢性腎臓病(CKD)は患者数の多い疾患です。糖尿病患者さんは、時間の経過とともに腎機能障害を合併するケースが少なくありません。ケレンディアは腎保護効果を裏付ける多くの臨床試験データを有しています。腎臓だけでなく心血管イベントの抑制効果も示されており、CKDでポテンシャルを高めてブロックバスターにしていきたい。心不全での処方も適応拡大が承認された昨年末から増えています。

 

私たちの基準では、ブロックバスターは「年間売上高2億ユーロ以上」を1つの目安としています。日本円に換算すると300億円台後半程度になります。

 

――ニュベクオについては、4月22日の記者会見で「去勢抵抗性前立腺がん領域でマーケットリーダー」と説明しました。ただ、売り上げではより市場規模の大きい競合品があります。

 

まず重要な点として、前立腺がん市場は大きく3つの領域に分かれています。「非転移性去勢抵抗性前立腺がん」「転移性去勢感受性前立腺がん」「転移性去勢抵抗性前立腺がん」で、この3つは市場として明確に区別されます。

 

ニュベクオは非転移性去勢抵抗性前立腺がんが売り上げの50%以上を占め、リーダーとなっています。一方で、最大市場の転移性去勢抵抗性前立腺がんについては適応がありません。転移性去勢感受性前立腺がんの市場は化学療法併用の有無によってさらに2つに分かれます。ニュベクオが承認されているのは化学療法併用で、ここでは約4分の1の市場シェアを占めています。つまり、承認を取得している適応でリーダーとなっているのです。

 

ニュベクオはケレンディアと同様に、300億円を超える規模に向かって着実に進んでいると認識しています。

 

アイリーア、AG含めると「数量は維持・拡大」

――アイリーアは8mg製剤が24年4月に発売された一方、バイオシミラー(BS)が参入しました。

 

8mg製剤は、すでに売り上げ全体の40%以上を占めています。25年にはプレフィルドシリンジ製剤も追加しました。投与間隔を延長できることが最大のメリットで、使用経験が蓄積されるなかで医師からの評価も高まっています。今年3月には網膜静脈閉塞症(RVO)の適応追加を取得しました。RVOは網膜疾患市場全体の約25%を占める重要な領域です。

 

アイリーア全体では今期が売り上げの底と予想されますが、その主因は数量減ではなく薬価改定です。ルールに基づき、BS参入に伴って大幅な薬価引き下げが行われました。その結果、売上高は減少していますが、処方数量ベースでは状況が異なります。8mg製剤は引き続き伸長していますし、従来の2mg製剤も一定の処方量を維持しています。

 

さらに、グループ企業が提供するバイオAG(オーソライズド・ジェネリック)も含めると、数量ベースでは維持あるいは拡大している状況です。現時点ではBSに大きなシェアをとられることは想定しておらず、今のところ浸食は限定的です。私たちが売り上げ減少要因として認識しているのは主として薬価改定です。

 

――バイオAGは防衛策として有効ですか。

 

バイオAGを販売しているのはバイエル薬品本体ではなく、グループ会社のバイエルライフサイエンスです。われわれは今後も8mg製剤の価値訴求に注力していきます。投与間隔延長による患者さんの負担軽減という明確なベネフィットにより、引き続き大きな成長機会があります。グループとしてバイオAGを有していることも競争上の追加的な強みの1つになるでしょう。

 

アスンデキシアン「新たなカテゴリ切り開く可能性」

――「3+3戦略」の3つのパイプラインでは、申請中のアスンデキシアン(一般名)が第XIa因子阻害薬という新しい作用機序の薬剤として注目されます。競合は直接経口抗凝固薬(DOAC)などを想定しているのでしょうか。

 

世界で初めての第XIa因子阻害薬で、非常にユニークな製品です。現在使用されているDOACは、第Xa因子を阻害する薬剤です。イグザレルトを含め既存薬とは作用機序が根本的に異なります。臨床試験でもプラセボと比較して非常に高い効果を示しています。アスンデキシアンは脳卒中の再発予防として、新しい治療カテゴリを切り開く可能性を持った製品です。

 

臨床的に最も重要なのは有効性と安全性のバランスです。臨床試験では脳卒中再発予防において良好な結果が得られました。特に注目しているのは出血リスクで、プラセボとほぼ同等という結果が示されました。これは従来の抗凝固薬では見られなかった特徴であり、大きな差別化要因です。

 

――市場ではどのような製品と競合しますか。

 

それについては慎重にお答えしたいと思います。試験はプラセボ対照であり、特定の既存薬との直接比較試験ではありません。したがって、他製品との比較を行うことは適切ではないでしょう。ただ、実際の診療現場では、脳卒中の再発予防に使用されている抗血小板薬や抗凝固薬が比較対象になる可能性はあります。

 

必ずしもDOAC市場そのものを取りにいく製品という位置付けではありません。DOAC市場の中心は心房細動患者です。一方、アスンデキシアンが対象としているのは、非心原性脳梗塞などにおける脳卒中再発予防です。市場としてはDOAC全体ではなく、その一部の領域が対象になります。

 

心房細動市場への参入ではなく、あくまで脳卒中再発予防という明確なアンメットメディカルニーズに対応する製品として位置付けています。現時点で同じ作用機序を持つ製品はなく、同じ適応症で同様の臨床試験を行った製品も限られています。将来的にはブロックバスターになると期待しています。

 

【バイエル薬品 主要な開発後期品目】〈一般名/領域/予定適応症/開発段階〉 |アスンデキシアン/心・腎・代謝/非心原性虚血性脳卒中/高リスク一過性脳虚血発作/申請 |アフィカムテン/心・腎・代謝/閉塞性肥大型心筋症/P3 |セバベルチニブ/オンコロジー/HER2遺伝子変異陽性の切除不能な進行性・再発非小細胞肺がん/申請 |※バイエル薬品のホームページをもとに作成

 

アフィカムテン「新市場開拓も」

――P3試験の段階にあるアフィカムテンが対象とする肥大型心筋症(HCM)領域には、すでに競合製品が市場に存在しています。どのように差別化していくのでしょうか。

 

肥大型心筋症には左室流出路狭窄を伴う閉塞性のものと、狭窄を伴わない非閉塞性の2つのタイプがあります。現在市場にある製品は主として閉塞性肥大型心筋症を対象としています。

 

アフィカムテンは閉塞性肥大型心筋症だけでなく、非閉塞性肥大型心筋症についても開発を進めています。市場全体で見ると、閉塞性と非閉塞性の患者数はおおむね同程度存在します。非閉塞性には大きなアンメットニーズがあり、厚生労働省から小児適応を含めオーファンドラッグ指定も受けています。

 

市場には競合製品が1品目ありますが、非閉塞性まで対象を広げられることが最大の差別化ポイントです。これまで十分な治療選択肢がなかった患者さんにも貢献でき、既存製品との競争だけではなく新しい市場を開拓する意味合いもあります。

 

――申請中のセバベルチニブにも、対象となるHER2変異陽性非小細胞肺がん領域に有力な治療薬が存在しています。どのように市場へ浸透させますか。

 

基本的な考え方は医師に新たな治療選択肢を提供することです。セバベルチニブは、HER2変異陽性非小細胞肺がん患者さんに対するもう1つの治療オプションとして位置付けています。既存薬と同じ適応症で市場には既に治療選択肢がありますが、既存薬との差別化よりも選択肢の拡大に重点を置きます。

 

HER2変異陽性患者は非小細胞肺がん全体の約2%程度です。患者数そのものは決して多くありません。現時点では大型化は見込んでおらず、ケレンディアやアスンデキシアンのような大規模市場を対象とする製品とは性格が異なります。われわればブロックバスターだけを上市したいわけではありません。

 

営業「人員10%以上増やす方針」

――これら3製品の上市時期のめどと今後の業績見通しは。

 

セバベルチニブとアスンデキシアンの2製品は承認審査中です。現時点ではセバベルチニブは26年末から27年初頭、アスンデキシアンが27年、アフィカムテンは28年ごろの上市を想定しています。日本では新薬発売後1年間は14日処方制限があるため、初年度から大きな売上を計上することは難しいと思います。

 

一方で、現在の重点3製品であるケレンディア、ニュベクオ、アイリーア8mg製剤は引き続き売り上げを増加させていくでしょう。これらの製品が業績を牽引する中で、新たな3製品も上市から1年を経過した段階で本格的な成長軌道に入っていくと見ています。

 

――現在のパイプラインに対し、全体として薄さを指摘する声もあります。

 

私はそうは思いません。「3+3戦略」ではまず現在の重点3製品があり、その次の牽引役が控えています。事業戦略は「3+3+3」の形で継続すると考えています。29~30年ごろには次世代の製品群が上市段階に入ってくると期待しています。

 

その主な領域は細胞・遺伝子治療です。日本で先駆的再生医療等製品の指定を受けている16品目のうち、3品目がバイエルの開発品です。当社は細胞・遺伝子治療領域においても有力なパイプラインを保有しています。また、前立腺がん領域でも開発品があります。1カ月ほど前には眼科領域のバイオテクノロジー企業であるパーフューズ・セラピューティクスの買収を発表しました。同社の技術から生まれる新たな製品群についても、30年以降に大きく寄与すると期待しています。

 

業界には多くのパイプラインを有している企業がありますが、それは一部にすぎません。自社の成長を継続していくにあたって、現パイプラインは十分だと思っています。

 

営業の人員、柔軟に配置

――営業体制についてですが、新製品群の上市にあわせて強化しますか。

 

新製品や適応追加への対応のため人員を10%以上増やす方針で、すでに営業体制の強化を進めています。背景には大きなアンメットメディカルニーズがあることに加え、ケレンディアの心不全適応取得によって、従来とは異なる診療科の医師にも情報提供を行う必要が生じていることがあります。

 

当社では昨年から「ダイナミック・リソース・フロー」という考え方を導入しています。これは、重点領域に応じて柔軟に人員を配置する仕組みです。現在は3つの重点製品に注力していますが今後、新製品が上市された際には必要に応じて人員配置を見直していきます。今年はケレンディアの心不全適応への対応のため循環器領域を強化しています。社内人材の再配置も行っていますし、外部採用も実施しています。

 

営業部門だけではなく、MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)やキーアカウントマネージャーを含めた体制強化も進めています。また、グローバルで導入している「ダイナミック・シェアード・オーナーシップ」という新しい組織モデルも活用しています。クロスファンクショナルチームに権限を委譲し、顧客ごとの課題に迅速に対応できる体制を構築しています。過去に実施したような早期退職募集を行う計画はありません。

 

――業績は26年が底となりますか。

 

恐らくそうでしょう。主な要因はアイリーアの薬価引き下げとイグザレルトの特許切れです。一方で、重点3製品はこの数カ月間も非常に高い伸びを続けています。27年以降は再び成長軌道に戻ると考えています。

 

――30年に向けた目標を教えてください。

 

個人としては、近年のピークだった19年の事業規模を取り戻すことです。日本の製薬企業ランキングでも上位10~15社のポジションに戻したいですね。もちろん、新製品の動向によって回復のスピードは変わります。現時点で具体的な数値目標を示すことはできませんが、上市タイミングなどが分かってくれば、より明確な見通しを示せると思っています。

 

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