
MeijiSeikaファルマを中心とする明治ホールディングス(HD)の医薬品事業が、必須医薬品の安定供給を柱に据えた成長戦略を鮮明にしています。医療基盤を支える抗菌薬、血漿分画製剤、ワクチンを土台とし、その上に新薬を上乗せするビジネスモデルが進展。経済安全保障やパンデミックへの対応という「国策」を追い風に、必須薬メーカーとして勝ち残りを目指します。
抗菌薬、国産化も採算が課題
明治HDは今期、2024年度にスタートした3カ年の中期経営計画の最終年度を迎えています。医薬品セグメントの業績を2つ前の中計が始まった18年度からたどると、1987億円だった売上高は25年度に2322億円へと増加。この間の年平均成長率は2.3%で、国内市場中心の製薬企業としては堅調に推移してきました。25年度は抗菌薬が薬価の不採算品再算定を受け、経営基盤の安定につながっています。営業利益は18年度186億円が25年度に304億円まで拡大。営業利益率も着実に上昇してきました。

ただ、26年度は中計策定時の目標を下回る予想で、売上高は当初計画の2740億円を2593億円に、営業利益は400億円を330億円に下方修正しています。最大の要因は新型コロナワクチンの接種回数の減少です。計画策定時は1シーズン約7000万回を見込んでいましたが、直近の被接種者は400万人程度にとどまります。
7月8日に開いた事業説明会では、目指す将来像として▽オープンイノベーション創薬▽後発医薬品の安定供給による医療アクセス向上▽抗菌薬・ワクチン・血漿分画製剤による医療基盤への貢献――を掲げ、それぞれの事業における成長戦略と課題を示しました。
「出口戦略不透明」
これらのうち重点投資の対象となるのは抗菌薬です。抗菌薬はワクチン、免疫グロブリンとともに「感染症対応製品」として国の戦略17分野に位置付けられ、供給途絶のリスクに備えた対応が求められています。かつて、セファゾリンが中国から輸入できず手術に支障を来すなど医療現場に混乱を招いた経緯があり、出発物質をほぼ中国に依存する現状を改める必要が指摘されてきました。
明治グループは「特定重要物資」に指定されているスルバクタム/アンピシリン(一般名)で50%、タゾバクタム/ピペラシリン(同)でも50%の国内シェアを持ちますが、これらの国産化に向けて原料生産と原薬合成に着手しています。今年6月には原薬無菌化施設の建設を始めており、29年ごろの完成を予定。30年までに自給体制を整え、製剤供給を開始する計画です。
ただ、国産化を実現しても課題は残ります。専用工場として稼働が制限されることで原価低減が困難となり、そうした中でも国内生産体制を維持するには、一定量の生産を継続しなければなりません。投資回収の予見可能性を高める必要がありますが、MeijiSeikaファルマの永里敏秋社長は「国産原薬を国が買い上げるのか、薬価を上乗せするのかなど、出口戦略がまだ決まっていない」とし、採算上の不透明さを指摘します。
ワクチンはデュアルユースの製造体制
ワクチン事業では小児向け5種混合ワクチン「クイントバック」を足掛かりに、B型肝炎を加えた6種混合ワクチンを開発します。29年の承認、30年からの定期接種化を目標としており、31年には200億円以上の売り上げを計画します。
一方で国家戦略に基づいて、平時からパンデミックに備える必要性も強調します。新型コロナ以降も新興感染症が発生する可能性は高いとして、小田原と熊本の生産拠点で平時は通常のワクチン、有事にはパンデミックワクチンに切り替えて製造するデュアルユース体制を取ります。
有事の即応能力を確保するには、平時からのモックアップ(試作)ワクチン製造を定期的に実施することが必要です。そのため、レプリコンワクチンも含めた国家による一定量の買い上げ制度を求めていますが、抗菌薬と同様に体制維持に対し国の支援をどこまで受けられるか見通せません。
血漿分画製剤の新製品投入
血漿分画製剤では、25年から26年にかけて他社に委託していた一部製品の販売をMeijiSeikaファルマに集約。製造から販売までをグループで行う体制を整えました。28年度には医療現場でニーズの高い高濃度の液状免疫グロブリン製剤の販売を開始する予定。25年度に100億円だった売り上げを29年度に200億円、35年度に300億円と拡大させていく計画です。

後発品は業界再編主導
新薬開発では、複数の大型品を狙うのではなく専門領域に集中します。近年では24年5月に慢性GVHD(慢性移植片対宿主病)治療薬「レズロック」を発売し、25年11月に発売された大正製薬の不眠症治療薬「ボルズィ」を共同販促。カルバペネム耐性菌に有効性を示すナキュバクタム(一般名)は年内の承認取得を予定します。
開発パイプラインにも大型候補品はなく、mRNAの技術プラットフォームを活用したがん領域での創薬などを重視するエリアに定めます。新薬事業は必須薬・ワクチンの土台に上乗せされる形で、セグメント内の位置付けや売上高に占める割合も大きくはありません。
収益性課題
後発品事業は自ら提唱したコンソーシアム構想への参画が9社に拡大。ダイトなどとともに設立を予定する「医薬品共創機構」では杏林製薬の後発品事業を承継し、業界再編を主導します。
関連記事:特許切れ薬、事業再編に拍車…杏林が後発品事業売却、帝人は「ベストオーナー探索」
明治グループが目指すのは新薬メーカーではなく、日本の医療基盤を支える必須医薬品企業の確立といえそうです。薬価改定の影響を受けにくい抗菌薬、ワクチン、血漿分画製剤や後発品の安定供給を経営基盤とし、経済安全保障や感染症危機にも対応。国の政策と連動しながら持続的な成長を狙いますが、収益性との両立は今後の課題として残りそうです。
中堅製薬企業は自らの立ち位置をどう定めるか、難しい時代に入ってきました。日本市場の成長余地が限られるなか、従来型の経営は成り立ちにくくなっています。複数の柱を立てながら国との連携を強める明治グループの戦略は、勝ち残りモデルとなり得るかという観点からも注目されます。
AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
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