
(写真:ロイター)
中国の台頭に対する米国の対応ははっきりしています。医薬品の製造を自国に取り戻すことです。米国だけでなく、日本や欧州でも医薬品を戦略資源として扱う政策が立て続けに打ち出されています。

企業に行動変容迫る
象徴が米国による医薬品への関税です。ドナルド・トランプ大統領は今年4月、特許医薬品とその原薬に原則100%の追加関税を課すことなどを盛り込んだ大統領布告を発表しました。根拠としたのは、通商拡大法232条。特定製品の輸入が米国の国家安全保障に脅威をおよぼすと判断された場合に追加関税などの措置の発動を可能とする条項で、医薬品をその対象にしたこと自体が「安全保障の問題である」という強いメッセージを発しています。
ただし、一律に100%の関税がかかるわけではありません。設計は巧妙です。米国内に工場を建てると約束した企業は20%に下がり、米国での価格引き下げに合意すれば免除されます。日本、EU(欧州連合)、韓国などは既存の貿易協定に基づいて税率を15%とし、後発医薬品は2028年夏まで免除されます。狙いは税収ではなく、企業の行動変容、すなわち製造と投資を米国に呼び込むことにあります。
対米投資、相次ぎ表明
製薬企業は素早く反応しました。関税の詳細が明らかになる前から、世界の大手製薬企業が相次いで巨額の対米投資を表明。業界全体では総額で数千億ドル規模に上ります。

一方で、見過ごせない副作用もあります。後発品など利幅が小さい製品は、関税コストを吸収できる余裕がありません。採算が合わなくなったメーカーは撤退し、かえって品薄と値上がりを招くリスクがあります。
米国のある試算では、追加関税率25%を前提とした場合でも家庭の負担は年間約600ドル増え、医薬品の価格は平均15%程度上がる可能性があるとされています。関税は国内製造を強化するための政策ですが、それが逆に供給の障壁になりかねないというジレンマを抱えています。
日本企業への直接の打撃は限定的と見られています。大手はもともと米国向けの製品の多くを現地で製造している上、追加関税率が15%に抑えられたからです。むしろ、経営者が警戒しているのは、関税とセットで迫られる価格圧力の方だという声が少なくありません。
| 増井慶太(ますい・けいた)ロンジェビティ特化型VC(ベンチャーキャピタル)ASAGI Labs Ventures合同会社Managing Partner、BAIOX株式会社CEO、インダストリアルドライブ合同会社CEO。ヘルスケアやライフサイエンス領域の投資運営、M&A仲介、カンパニー・クリエーション、事業運営に従事。東京大教養学部卒業後、米系経営戦略コンサルティング企業、欧州製薬企業などを経て現職。 X(Twitter):@keita_masui LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/keita-masui/ ウェブサイト:https://alv.vc/ |




