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異国の地で感じた「日本の医療の良さ」これからも残していくためには【コラム】

更新日

黒坂宗久

今年も早いものでもう10月。夏休みの記憶など遥か彼方に感じますが、我が家に起こったある出来事によって日本の医療について色々と考えさせられたので、今回はそのことを書いてみたいと思います。

 

狂犬病が撲滅されていない国で犬が娘の手を…

我が家は今年の夏休み、アジアのとある国に旅行に行きました。そこは、まだ狂犬病が撲滅されていない国です。犬には気をつけよう、ということは家族にも事前に伝えて渡航しました。宿泊したのは、ホテルを一歩出るといわゆるローカルな雰囲気が一気に広がる場所で、道には野良犬なのか飼い犬なのかよく分からない犬がちらほらいました。食事に行くときも、買い物に行くときも、私と妻はもちろん2人の娘も犬に注意していました。

 

ところが事件は起きてしまいました。宿泊したホテルから少し離れた街の中心部にあるきれいなショッピングモール。あるお店に小さな犬がいて、それを見た娘が何気なく手を出してしまい、ハムっと甘噛みされてしまいました。幸い、近くにいた警備員さんがすぐに犬を引き離してくれたのですが、その慌てた様子もあってか狂犬病のことが頭をよぎったのでしょう。死ぬかもしれない、と想像して娘は大泣きしました。

 

宿泊先の医務室に相談し、近くの大きな病院でワクチンを接種することになりました。タクシーで病院に到着すると、まずは建物の外にあるベンチで待機。そのあと、大勢の患者さんがいる院内の待合室に入り、さらに待ちました。ここから診察室や処置室に移動してワクチンを打ってもらうのだと思っていたところ。看護師さんがワクチンを持って待合室までやって来て、その場で注射をしてもらいました。

 

狂犬病ワクチンは複数回の接種が必要で、帰国してからも日本で何度か接種を受けました。待つ場所は屋内のきれいな場所で、診察室で医師の診察を受け、処置室に移動してワクチンを打ってもらいました。それが終わると、「気をつけてね」「お大事に」と声をかけてもらい、家に帰ります。

 

現地では限られた医療資源の中でスムーズかつスピーディにワクチンを接種してもらうことができ、事なきを得ました。もちろん、医療の提供方法は国の制度や医療資源よって異なり、外形的な違いだけで質を単純に比べることはできません。ただ、娘にとっては日本との違いが印象的だったようで、「日本の病院ってすごく丁寧なんだ」と感じたようでした。

 

何を守り、何を変えるか

娘の反応を見ながら、私自身もあらためて日本の医療のありがたさを感じた一方、異国の医療に触れたことで、「この丁寧さはどこまで医療として提供する必要があるのだろうか」という疑問も頭に浮かびました。

 

そんなことを考えていると、20年以上前に目にしたある光景を思い出しました。米国に研究留学していたころ、大型スーパー内の薬局でインフルエンザワクチンを次々と接種していたのです。「医療を受ける」ということに対して、それまで自分が持っていたイメージとかなり違うなと感じたことを覚えています。

 

私たちが当たり前に感じている日本の医療の水準には、医学的な安全性や適切さだけでなく、「丁寧さ」「快適さ」「安心感」といったものも含まれているのだと思います。それらは、医療を受ける側にとって大きな価値であることは間違いありません。一方で、医療従事者の不足、高齢化、医療費の増大といったことを考えると、私たちが価値だと感じているものすべてを、これまでと同じ人員配置、同じ専門職、同じ場所で提供し続けることはできるのだろうかという問いが出てきます。

 

「質を下げるべきだ」とか「簡素化すべきだ」という話ではありません。むしろ逆で、日本の医療が培ってきた良さをこれからも残していくために、何を守り、何を変えるのかを考える必要があるのではないでしょうか。

 

医師でなければできないことは何なのか。看護師や薬剤師など、ほかの医療職が担えることは何なのか。医療機関という場所でなければ提供できないものは何なのか。そんなふうに、一つひとつ丁寧に考えていく必要があるのかもしれません。

 

個人的には、娘が感じた日本の医療の「良さ」は、できることなら残ってほしいと思っています。でも、その良さをこれからも残していくためには、「全部を今まで通りやる」ことから離れる必要があるのかもしれません。

 

夏休みの出来事を振り返りながら、そんなことを考えています。みなさんは、どう思われますか。

 

※コラムの内容は個人の見解であり、所属企業を代表するものではありません。

 

黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。アステラス製薬アドボカシー部所属。免疫学の分野で博士号を取得後、約10年間研究に従事(米国立がん研究所、産業技術総合研究所、国内製薬企業)した後、 Clarivate AnalyticsとEvaluateで約10年間、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率、開発コストなど)を提供。2023年6月から現職でアドボカシー活動に携わる。SNSなどでも積極的に発信を行っている。
X(Twitter):@munehisa_k
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