
(写真:ロイター)
[ロイター]ノバルティス(スイス)が先月、大型化を期待していた希少な筋ジストロフィー治療薬候補del-desiranについて、最終段階の治験で目標を達成できなかったと発表した。同社のCEO(最高経営責任者)はピーク時の年間売上高を50億ドルと予測していたが、治験失敗を受けて株価は11%下落。時価総額300億ドルが吹き飛んだ。
問うべきは「速さ」だけでなく「失敗を減らす方法」
AIスタートアップのバイオインベストGPT(スウェーデン)にとって、この結果は予想通りだった。同社は7月、この薬に仮想の患者がどう反応するかを調べるシミュレーションを行い、臨床的な有効性はわずかだと予測していた。
同社をはじめとするAI企業は、一部の製薬企業と協力して「仮想治験」に取り組んでいる。臨床試験には高額な費用がかかる。仮想治験は、実際の患者で有効性と安全性を証明する可能性を高めるのが目的だ。
世界のバイオ医薬品産業はヒトでの臨床試験に年間約1400億ドルを費やしているが、規制当局の承認を取得できるのは12%にとどまる。この割合は数十年間にわたってほとんど変わっていない。
AI企業によると、シミュレーションは、どの開発プログラムを進めるべきかを判断したり、買収対象の価値を評価したりするのに活用されているという。AIツールが臨床リスクの検出精度を高めるにつれ、予期せぬ治験の失敗は減っていく可能性があると彼らは主張する。
ヒトを対象とした臨床試験は通常、主に安全性を評価する小規模は第1相(P1)試験から始まり、P2試験を経て大規模なP3試験へと進む。このプロセスには何年もかかるが、AIシミュレーションのなかには1カ月以内に完了できるものもある。
「問うべきは治験をいかに速く行うかだけではない。失敗する治験の数を減らす方法を問うべきだ」。AI臨床試験シミュレーションプラットフォームを手掛けるクアント・ヘルス(イスラエル)のフランシスコ・ベカCMO(最高医学責任者)はこう指摘する。
6件中5件で予測的中
マッキンゼーの最近のレポートによると、AI創薬への投資額は25年に84億ドルに達し、23年から2倍以上増えた。レポートによると、現在の投資は、業界の主要なボトルネック、すなわち長期間にわたる治験で新薬候補が意図した通りに作用することを証明することではなく、分子設計などの分野に集中している。
マッキンゼーのパートナー、アレックス・デベレソン氏は、製薬企業はAIによる治験シミュレーションに「少しずつ足を踏み入れている」と指摘。製薬企業は、自社内またはパートナー企業とともにさまざまなテクノロジーを活用し、プログラムに資金を投じる前に医薬品候補を評価するなどの取り組みを行っているという。
米国の保健当局は先週、治験の迅速化に向けた一連の取り組みを発表した。当局者によると、このプログラムが成功すれば、予測型AIを臨床開発に活用する道が開かれる可能性があるという。
バイオインベストGPTは7月、注目度の高い複数の新薬候補について、予測される治験結果の詳細な分析をロイターに共有していた。もちろん、予測は実際の治験結果が判明する前に行われたものであり、これまでのところ6件中5件で的中している。
予測が的中した5件は、▽del-desiranのネガティブな結果▽モデルナ(米国)とメルク(同)によるがんワクチンの成功▽アストラゼネカ(英国)とアイオニス(米国)の心臓病薬「Wainua」のわずかな臨床効果▽ノボノルディスク(デンマーク)の心臓病薬ziltivekimabの最初の治験失敗▽ヴァクサイト(米国)の肺炎球菌ワクチンの成功――だ。
バイオインベストGPTの創業者ブラギ・ラブトゥルー氏は、製薬業界の根本的な目標は、新薬候補が標準治療と比較して優れた臨床的利益があることを証明することだと言う。
同社のAIプラットフォームは、DNAシーケンスを用いて臨床試験の適格基準に合致する人体をシミュレートし、治験薬のモデルを用いて仮想治験を実施する。ラブトゥルー氏は「私たちは、その薬が効果的かつ安全である理由、そして多くの場合、そうでない理由も特定することができる」と話す。
シミュレーションの結果が常に正しいとは限らない。同社は、リポタンパク(a)と呼ばれるコレステロール担体の血中濃度を下げるノバルティスの新薬候補pelacarsenについてポジティブな結果を予測していた。しかし、ノバルティスは先月、遺伝的リスク要因を持つ患者を対象に行った最終治験で、同薬が重篤な心臓発作や脳卒中のリスクを低減しなかったと発表した。
のちの分析で、「リポタンパク質のサイズにおける遺伝的に決定された変異を考慮に入れていなかったため、メカニズムを誤って解釈していた」ことがわかったとラブトゥルー氏は話した。
武田のzasocitinib、クローン病・潰瘍性大腸炎は「失敗」予測
バイオインベストGPTは、幅広い種類の臨床試験について予測を行ってきた。同社は年内に結果判明が見込まれる治験のうち、バイオジェン(米国)の全身性エリテマトーデス治療薬litifilimabの2つのP3試験と、武田薬品工業のクローン病・潰瘍性大腸炎を対象としたzasocitinibのP2試験で失敗を予測している。AIモデルによると、いずれも治験対象集団に対して「最適とは言えない」ことが示されている。
バイオジェンの薬剤はBDCA2と呼ばれる免疫細胞受容体を標的としており、別のタイプのループスでも研究が進められている。zasocitinibはTYK2阻害薬で、尋常性乾癬を対象に米国で申請中。乾癬性関節炎でもP3試験を行っている。
武田薬品の研究トップ、アンドリュー・プランプ氏はzasocitinibについて、ヒトの遺伝子解析によってTYK2がターゲットとして特定され、機械学習を用いて構造の最適化と磨き上げが行われたと強調。「私はこのメカニズムに絶大な自身を持っている」とし、「AIのようなツールで明確な予測ができるようになるには、まだほど遠いと考えている」と話す。
バイオジェンで多発性硬化症・免疫・アルツハイマー病の臨床開発トップを務めるダイアナ・ギャラガー氏は、同社がAIを含む「利用可能なあらゆるツール」を活用していると語った。同氏によると、ループスに対して承認されているバイオ医薬品は2つしかなく、過去のデータに依存するAIアルゴリズムは否定的な結果を予測しやすい傾向があるという。
クアント・ヘルスのベカ氏をはじめとする専門家らは、ヒトでの治験は必要不可欠だとしつつ、AIシミュレーションは開発中の薬剤の可能性を評価する上で価値があり得ると指摘する。ベカ氏は「現代において、失敗する可能性が高い治験に患者を参加させるのが倫理的に正しいと言えるだろうか。AI技術の進歩に伴い、2027年、28年、あるいは29年になれば、答えはおそらく『もはや倫理的に正しくない』となるだろう」と話している。
(取材:Deena Beasley、編集:Caroline Humer/Bill Berkrot、翻訳:AnswersNews)
AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
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