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製薬各社 AI活用、有価証券報告書にも記述…武田や中外など大手中心に積極利用アピール

更新日

穴迫励二

生成AIが急速に普及する中、国内の製薬企業もその利活用に本腰を入れています。各社が開示した2025年度の有価証券報告書(有報)にも記述が見られ、事業運営全体への効率性を高めるとともに、創薬など各バリューチェーンの業務プロセスに取り込もうとする各社の現状が示されました。具体的な記述はまだ一部にとどまり、内容にも濃淡がありますが、競争優位性や経営成績に密接に関わるとの認識が広がっています。

 

 

武田薬品「従業員の63%が積極的に使用」

国内製薬企業の25年12月期または26年3月期の有報では、大手を中心にAI活用への言及が見られました。

 

武田薬品工業は、誰でも幅広く使える汎用的なものから、営業や研究開発など実際の業務プロセスに組み込む形で活用を広げる方向に25年度から重点を移したことを紹介。結果として日常業務でより使いやすくなり、全社的に浸透しつつあるとしています。生成AIツールを積極的に使用している従業員の割合は今年3月末時点で63%に達し、1年前から16ポイント上昇したといいます。

 

【武田薬品のAI活用の現状】|〈指標/24年度/25年度〉生成AIツールを積極的に使用している従業員の割合1/46.6%/63.4%|先進的なデータとデジタルに関するトレーニングに1回以上参加した従業の割合2/ー/30.9%|※*1 26年3月31日時点。*2 25年度。同年度から指標の定義変更。武田薬品の26年3月期有価証券報告書をもとに作成

 

中外製薬も全社的なプラットフォームを構築しており、アクティブユーザーが6割を超えるとしています。AI活用で先行する外資では、ブリストル・マイヤーズスクイブがAIインフラの整備を世界に先駆けて完了し、約8割の社員が日常業務に能動的に活用していることを公表しています。武田薬品や中外も、業務の自然な流れの中でAIを扱える状態になったことを有報でアピールしています。

 

製薬各社が特にAIによる高度化・効率化を期待するのが研究開発です。第一三共は、ADC(抗体薬物複合体)に続く独自の創薬技術プラットフォームを継続的に生み出すため、「AI・データ駆動型創薬の推進」をかかげました。オープンイノベーションも強化し、30年度までに将来を担う複数の技術を特定する考えです。

 

中外はAIを競争優位性を確保するカギと位置付け、臨床開発領域でソフトバンクと自立的に判断・実行するAIエージェントの開発に着手。創薬の生産性最大化を目指します。塩野義製薬は、JT(日本たばこ産業)の医薬事業を買収したことでAIや量子コンピューターといった先端技術プラットフォームを獲得・統合。創薬基盤の強化を実現したとしています。

 

【中外製薬のAI戦略/ビジョン】|〈項目/内容〉Everyday/AIを「社員一人ひとりの能力を最大限に引き出すパートナー」と位置づけ。すべての社員が当たり前のようにAIを活用し、毎日の業務の質とスピードを向上させる|Everywhere/AIが各組織のあらゆる業務プロセスに組み込まれ、組織としての生産性向上が実現。バリューチェーン全体で生産性・品質・速度向上|Transformation/ビジネス変革、社会変革につながる新たな価値の創出|共通基盤/AIとの協働を前提としたデジタル基盤、AI時代にあるべきセキュリティ&ガバナンス|※中外製薬の決算資料をもとに作成

 

人材育成にも注力

武田薬品は、創薬だけでなく「バリューチェーン全体にわたり先進技術やAIの統合を進めることで、事業運営の有効性と効率性を高め、イノベーションを促進」すると明記。標的探索から臨床開発、商業化に至るまでの全工程の変革ツールとして、組織全体の意思決定基盤にすえる様子がうかがえます。

 

製造や流通への展開も見られます。武田薬品は、設備保全の予測や在庫の適正化、逸脱発生時のサイクルタイム短縮に役立てています。塩野義は市中在庫予測に導入することを検討中。「試行錯誤しながら進めている」(広報)段階で、返品リスクを減らすなどの業務改善効果に期待します。

 

AIの利活用には人材や組織体制の整備が課題となります。大塚ホールディングスは25年7月に「大塚デジタルアカデミー」を開学し、リーダーの育成と社員のリテラシー向上を進めています。協和キリンも同様に、デジタルプロジェクトプランナーをはじめ各部門や領域をリードできる人材の育成とともに、デジタルリテラシー教育による全体の底上げにも着手。トップダウンとボトムアップの両面から取り組んでいます。いずれも全社的な実装を見据えてまず人材基盤の整備を優先する姿勢が見て取れます。

 

対応の遅れがリスクに

各社の有報では、AI活用の記述の中心は全般的な業務効率化と創薬で、外資がアピールする営業活動への言及はほとんどありません。ただ、AIは経営戦略に組み込まれつつあり、活用の幅は各部門・領域に広がりつつあります。

 

そのため、取り組みの遅れが経営リスクとして認識されるようになりました。第一三共は「AIの技術革新への対応が遅れた場合、研究開発における優位性の喪失や競争力の低下を招き、当社グループの経営成績、財政状態等に悪影響を及ぼす可能性がある」と記述。こうしたリスクに備え、関連する規制への準拠やガバナンス体制の構築も進めているとしました。

 

企業間格差大きく

武田薬品も、AIの能力の過大評価や意思決定に関する責任所在の不明確さ、機密情報の意図しない漏えい・誤用をリスクとして指摘。中外も同様に、競争力の低下やアウトプットへの過信をリスクに挙げています。

 

大手の中でもアステラス製薬やエーザイには個別プロジェクトの記述は見られませんでしたが、エーザイはガバナンス体制とルールを整備し、「リスク評価・管理の下で全社的な導入や普及啓発と人材育成を段階的に推進する」としました。

 

24日までに有報を開示した中堅企業のうちAIに触れたのは数社。「営業支援システムやAIツールも駆使して効率的な営業活動を推進」(日本ケミファ)、「AIなどの技術革新を取り入れ、創薬研究を推進」(キッセイ薬品工業)といった記述が見られますが、具体的な内容への言及はありません。有報の記述からも、企業間格差は歴然としている印象を受けます。

 

AIは、先進的な企業ではすでに全社的な実装段階に入っており、もはやIT部門のテーマにとどまらず、企業戦略そのものになったといえます。単なる業務効率化ではなく、研究開発をはじめとする各プロセスの変革手段でもあり、30年に向けて利活用の差が各社の成長力の違いとして現れる可能性を感じさせます。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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