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ニュース解説

外資製薬、競うAI活用…組織的な活用能力が競争力左右

更新日

穴迫励二

製薬業界で、AIの活用が新たな競争軸として重みを増しています。3月から4月にかけて相次いで開かれた外資系製薬企業日本法人の記者会見では、各社が幅広い分野へのAI実装例をこぞってアピール。個々の業務の効率化にとどまらず、全社戦略への組み込みが進んでいます。

 

 

サノフィ、AI活用でMRの売り上げに差

外資系各社の取り組みからは、AIを基盤として業務や事業そのものを再定義しようとする姿勢がうかがえます。共通するのは単なる効率化では終わらせないというスタンスで、生まれた余力や時間をいかに価値創出へと転換するかを重視しています。

 

ギリアド・サイエンシズは、AIによって社内業務の39%に最適化の余地があると分析。それによって年間6万5000時間を節約できると見ています。削減した時間は研究開発や戦略業務など、企業価値のさらなる向上につながる活動に再配分。営業コストも6%の削減を達成したといいます。企業規模は小さくても、AI活用に長けていれば大手を凌駕する存在価値を示せるとの考えを示しました。

 

同社がAI活用でフォーカスする分野として例に挙げるのは、セールスの質を高めるロールプレイ、データベース化された顧客インサイトによる最適行動提案、KOLマッピングなど。社内プロセスの改善ではなく、顧客への価値提供に主眼を置いています。

 

【ギリアドのAI活用事例】 |AIによるロールプレイ |高度な最適行動提案 |KOLマッピング |パイプライン、マーケティング調査 |※ギリアドの記者会見資料をもとに作成

 

ブリストル「パワーユーザー」3割

ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)は、世界に先駆けて全従業員に対してAIインフラの整備を完了しました。基本トレーニングは数カ月前に終了し、約8割の社員が日常業務に能動的に活用。価値創造のために使い込む「パワーユーザー」も3割ほどいるといいます。社内に散在していたさまざまなデータ(市場調査、競合品、自社プログラムへの医師の参加状況など)を包括的に分析し、医師が求める情報と最適な訪問タイミングを予測するなど、2027年からの新薬ラッシュに備えてMRと医師の接点を再構築します。

 

サノフィは「エキスパート」「生成」「スナッカブル」の3つのAIが柱。なかでも営業支援では「9割以上のMRが継続的に使用している」(岩屋孝彦社長)といいます。「コンシェルジュ」と呼ぶ生成AIでは、単純業務を効率化することで社員1人当たり週2時間程度の削減が可能になると見ています。

 

成果も出始めており、営業支援AIを頻繁に使用するMRとそうでないMRでは売り上げに明確な差が表れているといいます。同社の取り組みは今年1月、AI活用の先進事例を選定する世界経済フォーラムのMINDSプログラムでバイオファーマから唯一選ばれるなど評価を受けています。

 

【サノフィのAIの柱】〈種類/内容/エンジン〉 |エキスパートAI/専門領域を深化。研究開発や製造・サプライチェーン部門を中心に活用/― |生成AI(コンシェルジュ)/時間のかかる作業を自動化し、創造的な仕事や重要な判断に集中/Concierge、Comachi |スナッカブルAI(ダッシュボード)/誰もが簡単にデータにアクセス可能。グローバルで2.2万人以上が利用し、データの「民主化」を実現/Plai、Turing |※サノフィの記者会見資料をもとに作成

 

実装はまだ初期段階だとするMSDも、営業面でのパフォーマンスマネジメントを意識します。すでに複数のツールを使用しており、生産性ではなく意思決定の観点から導入。医師との対話のなかで「ベストインクラス(である自社品)の情報を顧客体験として提供したい」(プラシャント・ニカム社長)としています。

 

「データ連携」「規制との相性」など課題

AIの効果を最大化するには、前提としてデータ基盤の整備が不可欠。グローバルに分散していたデータを統合し、リアルタイムで可視化する仕組みを構築する必要があります。サノフィのように場動向や販売実績をダッシュボードで即座に把握し、経営判断に生かすといった動きが拡大しています。データは「見る」から「それをもとに意思決定する」へと進化しており、AIは意思決定のスピードと精度を引き上げる役割を果たします。

 

一方で、課題はまだあります。4月のファーマIT&デジタルヘルスでは「生成AI時代の製薬マーケティング」と題するセミナーが開催。製薬ビジネス研究会の米良克美代表理事は、社内データである売り上げや活動内容と、外部データの論文や調査結果などの連携が未完成だと指摘しました。

 

製薬企業内のデータは部門ごとにサイロ化しているのが現状です。長年にわたり部門ごとにシステムを構築してきた経緯があり、データが分断されているケースが多いとされます。これらの統合が進まなければ、AIも真の効果を発揮できません。

 

規制が多いという製薬業界特有の難しさもあります。グラクソ・スミスクラインの安達佳彦マーケティングシニアマネジャーは、「生成AIと業界のルール・コンプライアンスは実に相性が悪い」と指摘。AIによる大量の仮説生成とコンプライアンス最優先での実践のミスマッチを強調しました。田辺ファーマの川野清伸マーケティング本部長も「AIとコンプライアンスは相性が悪く、各社での解釈や知見の蓄積が必要」とし、高速反復と規制順守の両立の難しさを訴えます。

 

成長戦略の中核担う存在に

人材や組織にも課題があり、データサイエンスのほかAIとの橋渡しを担う人材もまだまだ不足しています。最終的には人による判断を必要とする部分が大きく、マーケティングの中核である戦略的意思決定は依然として人間の役割が大きいことも共通認識として示されました。

 

製薬企業のAI活用は、業務の効率化・高度化、マーケティングや研究開発、製造といったコア領域への実装、データドリブン経営など、多層的な構造で進展しています。AIは収益を直接左右しうるものとして活用するフェーズに入りつつあり、効率化で生み出した余力を再投資できる企業と、単なるコスト削減にとどまる企業との差は時間の経過とともに拡大していく様相を呈しています。

 

AIはもはや補助的なツールではなく、成長戦略の中核を担う存在に進化してきました。AIの活用は、意思決定の質とスピードの向上、情報アクセスの民主化、ナレッジの形式知化など、組織全体の能力向上につながり得るものとなっています。組織としてAIを活用できる能力が、新たな競争力の源泉となる時代が到来したと言えそうです。

 

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