
高リスクの筋層非浸潤性膀胱がんに約30年ぶりとなる新たな治療が登場します。フェリング・ファーマが5月に遺伝子治療薬「エドスチラドリン膀胱内注入液」(一般名・ナドファラゲン フィラデノベク)の承認を取得。同社のジョン・プルバー社長は年内発売に意欲を示しています。これまで膀胱を全摘するしかなかったBCG不応性高リスク筋層非浸潤性膀胱がん患者に膀胱温存の選択肢を提供します。
膀胱をIFNα2bの産生工場にする治療法
エドスチラドリンの適応は「BCG膀胱内注入療法後に残存・再発した上皮内がんを有する高リスク筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)」。BCG膀胱内注入療法の再導入の適応とならない患者が対象となります。BCG療法後のBCG不応性高リスクNMIBCの治療選択肢はこれまで、主に膀胱全摘術に限られていました。
「この領域では、世界的にも長年にわたり画期的なイノベーションが見られなかった。日本は特に治療選択肢が限られ、BCG不応で膀胱全摘を回避または延期したいと考える患者にとって、依然として大きなアンメットニーズが残されている」。フェリング・ファーマのプルバー社長CEOは、治療の現状をこう指摘します。
フェリングは同薬について、26~27年の日本市場投入を目指してきました。プルバー氏は「フェリングにとって日本は非常に重要な市場であり、エドスチラドリンを必要としている日本の患者に届けることをトッププライオリティに動いてきた。(スケジュールに)確固たる自信があったわけではないが、全員が一丸となって力を注いできた結果だ」と話します。
発売時期については「できるだけ早く薬価収載の手続きを行い、願わくば年内に発売したい」とし、「供給の不安はない」と強調します。

AnswersNewsの取材に応じた同社ジョン・プルバー社長CEO
3カ月に1回の投与で治療可能
膀胱がんの約7割を占めるNMIBCのうち、再発または浸潤膀胱がんに進行するリスクの高い患者(高リスク患者)の約10~15%は、BCGによる初期治療後にBCG不応性となります。そうした患者に推奨される治療選択肢はこれまで、日本では膀胱全摘か臨床試験への参加しかなく、膀胱温存の有効な選択肢がありませんでした。
ただ、膀胱全摘は負担が大きく、実際に全摘に踏み切る患者は多くありません。筑波大医学医療系腎泌尿器外科の西山博之教授によると、全摘を選択するのは患者の2~3割。それ以外は、有効性が乏しいとわかっていてもTURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)やBCG治療の継続でしのいでいるといいます。西山医師は「患者さんは膀胱を取りたくない。どうやって膀胱を取らずに治療していくかが大きな課題だった」と指摘。膀胱がん患者会代表の野村由利夫さんは「BCGが使えなくなれば全摘しか選択肢がないと言われ、つらい頻尿や痛みなどに必死で耐えた」と振り返ります。
こうしたなか、エドスチラドリンはBCG不応性高リスクNMIBCに対する国内初の膀胱温存治療の選択肢となります。同薬は、抗腫瘍作用を持つインターフェロンアルファ-2b(IFNα2b)遺伝子を搭載したアデノウイルスベクター。3カ月に1回、カテーテルで膀胱内に注入することで、IFNα2bを局所的かつ持続的に産生します。「膀胱そのものをIFNα2bの産生工場にする」(聖マリアンナ医科大腎泌尿器外科の菊地栄次主任教授)治療です。
フェリング社長「まさに画期的なイノベーションと言える」
菊地医師によれば、遺伝子導入効率を高めるため、同薬には粘膜のバリアを破壊する機能を持つ「Syn3NODA(シンスリーノーダ)」と呼ばれる界面活性剤が添加されています。国内臨床第3相(P3)試験の3カ月時点の完全奏効(CR)率は75%で、12カ月時点で68%の患者が膀胱温存を維持しました。米国で行われた試験の5年追跡データでは、膀胱全摘回避生存率51%、全生存率83%という成績が示されています。
さらに、ウイルスの複製やゲノムへの挿入変異のリスクを排除した設計により安全性を確保。IFNα2bの発現は一過性かつ血中への暴露の程度は低く、全身への副作用リスクも低く抑えられています。プルバー氏も、米国での5年以上の使用実績を念頭に「実臨床のエビデンスとしても有害事象は非常に限られている」と話します。

BCG不応性高リスクNMIBCに対しては、ヤンセンファーマが抗がん剤ゲムシタビンの局所送達システムを申請しており、免疫チェックポイント阻害薬や腫瘍溶解性ウイルスなども後期開発が進行中。長年の停滞から一転、市場も活気を帯びつつあります。
プルバー氏は競合環境について「科学的なイノベーションがなかった領域で状況が変わりつつあるのは喜ばしいこと」と歓迎。その上で、エドスチラドリンの強みとして、国内臨床試験で示された有効性に加え、「独自の作用機序」「実臨床で証明された安全性」「圧倒的な利便性」を挙げます。
「エドスチラドリンはユニークな作用機序を持つファーストインクラスの治療薬。化学療法でもない、非複製型のウイルスベクターを使ったまったく新しい遺伝子治療で、数あるイノベーションのなかでも『まさに画期的なイノベーション』と言えるだろう。3カ月に1回、年4回の投与で済み、ほかの治療と比べて患者にも医療システムにも便利なソリューションだ」(同氏)
日本化薬のコプロで
遺伝子治療である同薬は、マイナス80度での温度管理や遮蔽運搬が必要。ただ、菊地医師は「BCG療法で生菌を扱っていることもあり、医療機関への導入ハードルはそれほど高くない」と話します。
プルバー氏も「国内外を問わず、多くの医療従事者が遺伝子治療の扱いに慣れてきており、今や遺伝子治療はノーマルな治療になった。エドスチラドリンは非複製型で扱いやすい。もちろん、ガイドラインに沿ったトレーニングは提供するが、問題なく導入されていくだろう」と見通し、「市場浸透に向けて最も重要なのは、医療従事者と患者さんに新たな治療選択肢を知ってもらうことだ」と言います。
販売では今年3月、BCG製剤「イムノブラダー」を販売する日本化薬とコ・プロモーション契約を締結。プルバー氏は「BCG製剤を持つ日本化薬と、BCG療法に続く治療選択肢を持つわれわれは、非常に相補的な関係だ。ともに泌尿器がんにフォーカスする会社として、BCG治療後の患者さんをサポートし、治療の画期的な進歩を支えたいと考えている」と強調。発売に向けては、自社の販売・マーケティングやメディカルの体制も強化しています。
フェリングは、エドスチラドリンの中リスクNMIBCへの適応拡大に向けたP3試験を行っており、試験にはBCG未治療の患者も含まれているといいます。「まずは試験結果を待ち、日本の患者さんにとって価値があれば、プロセスをしっかり尊重しながら一歩ずつ進めていく。引き続きイノベーションに力を入れていく」(プルバー氏)。





