
ICONクリニカルリサーチ、イーピーエス、エイツーヘルスケア、パレクセル・インターナショナルの4社のトップによる座談会。後編は「事業環境の変化とCROの未来」をテーマに、議論の模様をお届けします。
前編はこちら:【CRO4社トップ座談会・前編】CROは治験環境の改善にどう貢献できるか
■出席者■
ICONクリニカルリサーチ 小川淳社長
イーピーエス 髙井紀幸社長
エイツーヘルスケア 神谷均社長
パレクセル・インターナショナル 三木茂裕社長
AI普及で人の価値高まる
――製薬業界では近年、Patient Centricity(患者中心)が大きなテーマの1つになっています。CROの立場から、皆さんはPatient Centricityにどう取り組んでいますか。
神谷:我々CROの立場では直接、患者さんと接する機会が少ないのが実情ですが、当社では定期的にコミュニケーションをとる機会を設けています。最近では「Patient and Public Involvement(PPI、患者・市民参画)」とも言われており、患者さんは病気とともに闘う仲間であるという意識付けも行いながら、どうやって新薬を日本の患者さんに届けていくかという対話を行っています。プロトコルに対する意見を聞いたり、試験結果をフィードバックしたりといったことにも取り組んでいます。
小川:前編でも議論しましたが、新薬の開発を日本に呼び込もうという活動自体が患者中心であり、注力しているところです。特に希少疾患の患者さんの場合、この薬が唯一の選択肢だということもある。そうした新薬に日本の患者さんがアクセスし続けられるよう、日本の治験を維持・拡大していくことが重要だと考えています。
髙井:神谷さんがおっしゃったように、プロトコルを見ているとやはり「この評価は必要ですか?」「この来院頻度は必要ですか?」というものがあります。プロトコル作成の早い段階から患者さんの目線を入れ、評価の目的や手段を検討していくことが必要です。治験の情報が患者さんに届いていないという課題もあるので、遠隔地の患者さんも含めて情報を届け、参加しやすくする仕組みづくりも大切です。
三木:当社では数年前に「チーフ・ペイシェント・オフィサー(CPO)」という役職を新設しました。CPOを務めているのは、がんと闘いながら希少疾患の子どもを育てた経験を持つ人物で、彼女が中心となって被験者の負担軽減やDCT(分散型臨床試験)の推進、患者団体との対話といった取り組みを行っています。治験のオペレーションに関わる社員だけでなく、当社で働くすべての人が仕事の先に患者さんがいることを意識できるよう、患者の体験を共有するなどといったことにも取り組んでいます。

パレクセル・インターナショナルの三木茂裕社長
――急速に進化・普及するAIは、CROのビジネスにどんなインパクトをもたらしますか。
小川:作業効率化による開発サイクルの変化やAI創薬によるシーズの増加など、新薬開発の発展に寄与する技術として期待しています。
AIの普及によって人はいらなくなるのではないかという極端な議論もありますが、私はそうは思いません。問いを立てる、判断をするなど、人がやるべきことはあまり変わらないのではないでしょうか。AIによって発展する新薬開発において我々が果たす専門家としての役割は、むしろこれまで以上に重要になると考えています。
髙井:役務提供を中心とするCROのビジネスでは、情報や経験が属人化しやすいことが課題です。そうならないよう、当社でもナレッジを蓄積して共有する取り組みを行っていますが、求めているものを探すのにどうしても時間がかかってしまう。そこにAIを入れることで、業務の均質化が図れるようになると期待しています。
最初に成果がでるのは効率化だと思いますが、本当にやりたいのは品質について再現性を高めることであり、空いた時間でクリエイティブな仕事を見つけて取り組むこと。仕事を奪われるとは私も思っていませんが、やり方は変わっていくでしょう。
三木:仕事の先には患者さんがいて、人との関わりが絶対に発生することは今後も変わらないでしょう。ただ、役割や仕事の仕方は変わっていくと思っています。当社でもセントラルモニタリングを推進していますが、だからといってモニターが不要になるかというとそうではなく、データマネージャーとモニターを統合したような新しい役割が出てきたりもしています。
神谷:AI創薬に相当な投資がなされており、我々の仕事もこれからどんどん増えていくと期待しています。効率化が進む一方で、人の仕事は付加価値の高いところにシフトし、人の価値が高まる方向へと進んでいくと考えています。

エイツーヘルスケアの神谷均社長
中国発イノベーションの台頭はチャンス
――新薬開発の分野でも中国の存在感が高まっています。CROとして皆さんはどう捉えていますか。
小川:中国以外で承認されている中国発の新薬はまだ多くありませんが、臨床段階にある新薬候補を見ると世界の3割くらいが中国発になっています。ブレークスルーするものがこの数年でだんだん増えていくでしょうし、それを取り込めるという点で、近隣にイノベーションをドライブする国があるのはCRO業界にとっていいことだと思っています。
髙井:中国企業が開発するイノベーションは、我々もチャンスとして捉えています。品質などに強みを持つ日本と一緒になって開発すればさらに価値を高めることができるはずで、そうなれば企業にとっても患者さんにとってもプラスになります。
三木:当社は中国に大きなフットプリントがあるので、中国が盛り上がるのはウェルカムです。レギュレーションの不透明さなどに課題はありますが、それもだんだん変わっていくと感じています。
神谷:サイエンスなので、それがどの国で生まれたものであろうと、患者さんのためになるのであれば開発に貢献するということには変わりはありません。最近では、米国だけではなく日本にも目を向ける中国バイオテックが増えてきており、イノベーションが盛り上がるという点では好意的に受け止めています。
一方、臨床開発拠点という観点では、人口が多い中国はスピード感や症例集積といった面で脅威だと思います。ただ、それは健全なグローバル競争のなかで当たり前に起こること。そうしたなかで日本がどう存在感を示していくかということについては、関係者が一丸となって取り組んでいくべきです。
――いま神谷さんから出た臨床開発拠点としての中国との競争という点について、ほかのお三方からもご意見をお聞きしたいです。
小川:いまは日米欧3極と言っていますが、そのイメージはそろそろ捨てないといけないフェーズにあるのかもしれません。治験エコシステム構築に向けた動きが進んでいますが、相当突き詰めていかないと日本は置いていかれてしまうという危機感が強いです。
髙井:最近は、中国で行われる臨床試験の品質も悪いものではなくなってきているという話も聞きます。ただ、現時点ではまだ日本の方が予見性などの点で優位性があり、これを維持できるような取り組みが必要だと思います。
三木:インフラやレギュレーションが今後、どのように外に向かって開かれていくか、整えられていくかということを注視していく必要があるでしょう。

ICONクリニカルリサーチの小川淳社長
貢献実感できる働き方を
――人材の確保や育成について、皆さんはどのようなお考えをお持ちですか。
小川:当社はグローバルカンパニーなので、日本にとどまらずもっと大きなフィールドで活躍できるリーダーを輩出したいです。APAC地域のリーダーやグローバルのリーダーに日本人ももっと参画していってもらいたいですし、そうした人材の育成に力を入れています。我々と同じ仕事をするリーダーはいらないので、そういった意味でも、将来に向けた視点で活躍の幅を広げていってほしいと思います。
この業界はまだまだ若い人がたくさん入ってきてくれており、他産業と比べても恵まれていると思います。ただ、日々の業務では患者さんへの貢献を感じにくい産業でもあり、人によっては作業の積み重ねと感じる人もいるかもしれません。テクノロジーも使って効率化を進めることで、貢献を実感できる新薬開発をやれるようにできたらいいなと思います。
髙井:人材確保という点では、CROで仕事をしたいという人は若い層にまだまだたくさんいますし、我々も育成する能力を持っているので、今のところ大きな心配はしていません。ただ、当社では治験や製造販売後調査の分野で医療データの利活用を幅広くしているのですが、ここの人材が不足していると感じます。CROのビジネスだけでは育成しきれない人材でもあり、現在はシニア層に活躍してもらっている状況で、当社としてはここをどう確保・育成していくかが悩ましいところです。
三木:ここ10~15年でデータオペレーションの仕事のやり方が大きく変わり、オフショア化が進んだ時期がありました。中国やインドといった国にデータセンターを移すことでオペレーションの効率化は進みましたが、そこをリードする人材が日本で不足してしまっていると感じています。かつてはデータオペレーションからステップアップしてリードに移っていくようなキャリアもありましたが、それがなくなったことで次世代の人材が育っていません。ここをどう育てていくかが1つの課題となっています。
神谷:皆さんおっしゃった通り、CRO業界を目指してくれる学生さんは依然としてたくさんおり、逆に、どう育てていくかというのが我々の大きなテーマになっていると思います。
CROも機能ごとにサイロ化されている状態がまだあり、キャリアの幅を広げるのが難しい面もあります。ただ、幸いなことにバイオテックやアカデミアの方と接する機会も増えているので、そうした機会も活用しながら、開発全般を担える、戦略を描ける、グローバル感覚を持つ人材を育成していきたいと思っています。

イーピーエスの髙井紀幸社長
何のため・誰のために仕事をしているのか
――さまざまな環境変化がある中で、CROの役割やビジネスは将来どうなっていくと皆さんは考えていますか。また、CROの役割やあり方が変化していくなかで、この業界で働く人はどんな姿勢やマインドを持つべきでしょうか。
髙井:これまでは役務提供型のビジネスをしてきましたが、そこで培った経験やナレッジをもとにして価値提供型のビジネスへとシフトしていくのは間違いないと思います。
日々忙しく業務をしていると、何のためにこの仕事をやっているのかということを忘れてしまいがちです。かつて私も入社して5年間くらいはそうでした。それではいけないと思い、ライン職に昇格して育成をする立場になったときから、あらためて何のために仕事をしているのかを言葉にするようにしました。何のために・誰のために仕事をしているのか、入社したときの気持ちを忘れないでいてほしいです。
三木:先ほどお話した通り、テクノロジーの進化やプロセスの変化によって仕事のやり方は変わっていきますし、労働集約型から付加価値提供型にシフトしていくというのも髙井さんと同意見です。ただ、仕事の先に患者さんがいることは変わりません。ステークホルダーをつなぐハブとしての役割はさらに大きくなっていくでしょう。変化に対応する、変化にチャレンジするマインドセットがより必要になってくると考えています。
神谷:10年先には願わくば、No More Too Muchが浸透し、オペレーショナルな部分の負担が軽減され、我々CRO業界で働く人たちが戦略的で付加価値の高い仕事ができるようになっているといいなと思います。
当社は伊藤忠グループなので、オペレーショナルな部分を超えて役割を広げていくことができると思っています。日本発のイノベーションをグローバルに展開したり、海外のイノベーションを日本に持ち込んだりといったところで貢献できると考えていますし、そうした点で、世界80億人の健康課題だとか、地理的なギャップだとか、そういったことを考えながら日々の業務にあたれる人材を育てられるようにしていきたいです。
小川:これまでは分業化を進めてきた業界だと思いますが、先ほど三木さんが「データマネージャーとモニターを統合した新しい役割が出てきた」とおっしゃったように、テクノロジーが進化してくると、幅広く見るところに人を置いてその下のタスクはAIやテクノロジーが担う世界になっていくと思います。
髙井さんが前編でおっしゃった「ノウハウ(know-how)ではなくノウホワイ(know-why)」ってとてもいい言葉だなと思ったんですが、これからはノウホワイだと私も思います。それってそもそも何だっけということを理解し、臨床開発の専門家として成長していく視点を持っていただければ、時代が変わってもその役割はむしろますます重要になっていくでしょう。逆に、ノウハウしか知らないという人は「ハウはもう必要ないです」と言われてしまうリスクはあると思いますね。
前編はこちら:【CRO4社トップ座談会・前編】CROは治験環境の改善にどう貢献できるか



