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【CRO4社トップ座談会・前編】CROは治験環境の改善にどう貢献できるか

更新日

前田雄樹

治験エコシステムの構築、ドラッグ・ラグ/ロス解消に向けた取り組み、創薬における中国の台頭、AIの普及など、さまざまな環境変化の真っただ中にあるCRO。ICONクリニカルリサーチ、イーピーエス、エイツーヘルスケア、パレクセル・インターナショナルの4社のトップによる座談会を開催し、CROのいまとこれからについて議論していただきました。前編は「CROは治験環境の改善にどう貢献できるか」をテーマに議論の模様をお届けします。

 

後編はこちら:【CRO4社トップ座談会・後編】変化する事業環境、CROの未来は

 

■出席者■
ICONクリニカルリサーチ 小川淳社長
イーピーエス 髙井紀幸社長
エイツーヘルスケア 神谷均社長
パレクセル・インターナショナル 三木茂裕社長

 

ICH-GCP導入以来30年ぶりの大変革期

――最初に、日本の治験、特に皆さんが中心的に担っているクリニカルオペレーションの現状に対する認識をお聞かせください。

 

髙井: かつてのCROは典型的なBPOでしたが、外部委託が一般的になり、製薬企業側のリソース配分も変化するなか、責任や企画の部分まで外に出す流れが起きています。CROは作業者から開発ブレーン的な存在へと変わりつつあり、企画力や提案力がより一層求められるようになってきました。

 

三木:日本の治験を振り返ってみると、GCPが整っていなかった時代にさまざまな問題が生じ、そこから品質に対する意識が急速に高まりました。その結果、非常に細かいところまで対応することになり、不必要な業務が膨らんでいるのが昨今の状況です。現在は効率化へと向かう過渡期にあると考えています。CROには、架け橋としてあらゆるステークホルダーをつなぎながら効率化を推進する役割が期待されています。

 

神谷:イノベーション創出の主体がバイオベンチャーへとシフトするなか、ベンチャーから開発戦略立案の相談を受けるなど、パートナーとしての立ち位置に変化してきていると感じます。一方、三木さんが指摘した過剰な業務については、長年にわたって染み付いてきたものであり、ステークホルダー全員が一丸となって意識改革に取り組む必要があります。

 

小川:ICH-GCPの導入以来30年ぶりとなる大きな変革期にあると思っています。当時と違うのは、CROが業界の重要なコンポーネントの1つとして変革に参画していること。昨年10月、日本CRO協会と製薬業界団体が一緒になって「治験エコシステム業界宣言」を出しましたが、これはCROが業界にとってなくてはならない存在になったことを象徴する出来事だと思っています。主要プレイヤーとしての責任と自負を持ち、この変革期を主導していかなければなりません。

 

ICONクリニカルリサーチの小川淳社長の写真

ICONクリニカルリサーチの小川淳社長

 

「治験の質」とは何か

――治験の効率化に向けた機運が高まっています。そもそもなぜ非効率な運用になってしまっているのか、皆さんはその要因をどう考えていますか。

 

三木:積み重ねてきた歴史があり、習慣を大きく変えることが国民性としても難しかった面はあると思います。ステークホルダー間の意識の違いもあり、いかに足並みを揃えてやっていくかがチャレンジです。CROがハブとなってコミュニケーションを促進し、1つ1つ課題をつぶしていく必要があります。

 

神谷:米FDA(食品医薬品局)からリスクベースドモニタリングに関するガイダンスが出されたのが2013年で、効率化についてはそのときから謳われてきました。ただ、最近、悩ましいなと感じるのは、当時と比べて試験自体がだんだんと難しくなり、1試験あたりの症例数が減っていること。そうなると、スポンサー側としては当然ながら1例1例大事に見たいという意識になりがちです。そうしたなかでも、グローバルと同等だと認められるレベルまで効率性を高めていけるかが、我々にとっても大事な挑戦だと考えています。

 

小川:国の「治験エコシステム導入推進事業」は「制度運用」「様式統一」「質」の3本柱。制度運用と様式統一については方向が決まればスピーディーに進むと思いますが、問題は質の部分です。ICH-GCPの導入以来、30年かけて磨き上げてきたものを、今度はいかに削ぎ落としていくか。これがとても難しい。

 

私たちとしてもまだ解決策を持てているわけではありませんが、グローバルCROとして1つ言えるのは、グローバルのプロセスからもっと学ぶべきだということです。同じSOPでも、日本と海外ではプロセスが全然違います。日本はすべてにおいて完璧を求める運用をしていますが、海外はそうではありません。海外はどうしているのか、あらためてフェアな目で見てみる必要があると思っています。

 

髙井:各ステークホルダーが部分最適を積み重ねてきた結果が、今の非効率な状況につながっていると考えています。もちろん、各社・各施設の差別化戦略という側面もあったと思いますが、効率化とは相反する部分があるように思います。

 

もう1つは、治験の質に対する認識です。大事なのは再現性を担保することであり、細部にこだわっていいものを作ることではありません。試験をパスして承認を取り、患者価値を最大化できればいい。いいものを作ればその分評価が高くなるものではありません。

 

イーピーエスの髙井紀幸社長の写真

イーピーエスの髙井紀幸社長

 

「ノウハウ」より「ノウホワイ」

――効率化に向けて、皆さんの会社ではどのような取り組みを行っていますか。

 

神谷:過剰な業務の削減に向けては、CRO協会が「No More Too Much運動」を展開しており、私もオフィスでスローガンが書かれたTシャツを着て浸透を図っています。弊社ではリスクベースドモニタリングにも早くから取り組んでおり、「患者の安全とデータの信頼は確保しつつ効率化を進めていこう」というメッセージを、とにかく口酸っぱく発信しています。

 

小川:かつてのCROは、クライアントの要望に応じて業務を上乗せする傾向が強かった。さまざまなメーカーの臨床開発を見ることができる立場として、「この業務は他社はやっていないので、やらなくてもいいんじゃないですか?」という提案をすべきだったと思っています。

 

そこで当社は「ICONベーシックス」を策定し、ICONとしてはここだけは押さえておいてほしい、逆に言えばそれ以外はやらなくても問題ないという基準を提示できるようにしました。さまざまなメーカーの開発を見ているCROは、何がミニマムかを示すことができる立場にいると考えています。

 

髙井:顧客の要望もそうですが、監査やインスペクションで受けた指摘を手順書にどんどん反映してきたことも業務の複雑化を招いてきました。指摘をもっと掘り下げれば手順に反映せずともできたことはたくさんあったのではないかと、今振り返ると思います。

 

昨今、「考えるGCP」ということが言われていますが、私は社員に対して「ノウハウ(know-how)」ではなく「ノウホワイ(know-why)」を理解してほしいと言い続けています。CROに対しては、「『SOPに書いてあるので』しか説明しないモニターがいる」と揶揄されることも少なくありませんが、理由や背景を理解していれば説明や行動も変わります。社員には「なぜそうなっているのか」を自分が納得するまで考えることを求めており、少しずつ定着してきているように感じます。

 

三木:治験の運営実務における経験値は、今やCROがメーカーをだいぶ上回っています。従来のCROは受動的なことが多かったと思いますが、これからは能動的な提案を積極的に行っていくべきでしょう。

 

CRO協会のNo More Too Much運動では、当社も社内インフルエンサーを設置して浸透を図っていますし、シニアマネジメントやマネージャーの意識向上にも取り組んでいます。医療機関との対話がなかなかできていなかったとの反省もあり、アライアンスサイトと業務削減やプロセス改善について話し合う定期的なミーティングも始めています。

 

エイツーヘルスケアの神谷均社長の写真

エイツーヘルスケアの神谷均社長

 

日本を知ってもらう取り組みが重要

――ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスに対してはどのような取り組みを行っていますか。

 

小川:日本で開発をして製品を発売した経験があるクライアントは、引き続き日本で開発を行っています。ここが踏みとどまってくれている間に、海外の新興バイオテックにどうやって日本を選んでもらうかが大きなテーマです。日本も国際共同治験を推進していますが、希少疾病用医薬品や標的治療薬が増えていることを背景に、試験の実施国数は減少しています。実施国が3、4カ国の試験に日本も入るようになると試験の幅も広がると思うので、社内での売り込みも含めて取り組みを行っています。スピード、コスト、データの信頼性などパフォーマンスを上げていくことが重要で、生産性の改善にはかなり力を入れています。

 

髙井:海外のカンファレンスなどに足を運び、日本のいいところ、日本は変わってきているという事実を紹介する活動を行っています。加えて、最近、力を入れているのが、できるだけ早い段階で日本を見てもらうための取り組みです。米国で計画ができ上がったあとに日本に来られてもタイムラインに乗らないし、実施に至らなかったプロジェクトもたくさん見てきました。ですので、プロジェクトの早い段階でアプローチする活動を行っています。打率は高くないですし、コストパフォーマンスもよくはありませんが、数年先を考えるとやっていかなければならないことだと考えています。

 

三木:特に新興バイオテックには「手続きが不明瞭」「コストが高い」「時間がかかる」「日本語が必須」といったネガティブな見方が根強くあります。実際は、日本はいまやハイコストカントリーではなくなっていますし、組み入れにかかる時間も必ずしも他国に劣っているわけではありません。そうした誤解を一つひとつ潰していく必要があり、欧米の顧客に正しく説明できるよう、社内では日本から積極的に発信を行っています。

 

神谷:北米のバイオテックに日本の市場としての魅力や臨床開発拠点としての魅力を伝えるため、2年前にボストンにオフィスを構えました。現地のエコシステムに入り込み、日本を知ってもらう活動を行っています。髙井さんがおっしゃった通り、時間もコストもかかりますが、これをやらないと日本を正しく知ってもらえません。

 

バイオテックの最大の関心が米国市場に向いていることは理解します。ただ、米国市場も不確実性が高まってきており、相対的に日本の予見性の高さや市場規模が魅力的に映るようになってきていると思います。コストについても、今の為替レートであれば十分魅力的です。当社は伊藤忠グループなので、グループの他拠点とも連携して情報発信しています。伊藤忠グループでは、海外製薬企業の日本参入を総合的に支援する「J-STEP」というサービスを展開しており、商社系CROらしく、市場調査から製造、流通まで全体のオーガナイザーとしてコーディネーションする取り組みにも力を入れています。

 

パレクセル・インターナショナルの三木茂裕社長の写真

パレクセル・インターナショナルの三木茂裕社長

 

治験のハブとして関係者の対話を促進

――日本の治験環境には課題もある一方で、強みやよさもあると思います。これをどう再評価し、国内治験の活性化に活かしていくべきでしょうか。

 

髙井:これほど治験のインフラが全国的に整っている国はそうありません。希少疾患や新しいモダリティの開発が進むなかで、難度の高い試験や新しい治験のやり方に確実に対応できる国だという発信をもっと行っていくべきだと思います。

 

三木:真面目さや丁寧さ、一度方向性が示されれば全員で一生懸命ゴールを目指して走っていける結束力は、ほかの国と比べると秀でているところだと思います。関係者が同じ方向に向かって走れるよう、しっかりとした方向性を示すことが大切です。

 

神谷:国際共同治験の日本パートを担うなかで、グローバルのファースト・ペイシェント・インを達成したり、目標症例を過達したりといった成果も出ています。日本の医師やCRCは本当に真面目に治験に取り組んでいただいています。そうしたことを誇りにして、アピールしていくことが必要です。

 

小川:日本の素晴らしいところだと思うのは、計画通りに物事が進むという安心感。そうした予見性の高さは、特に国際共同試験でタイムラインに乗せて成果をしっかり出したいというときには、大きな強みになります。

 

――CROは治験エコシステムの構築をどのようにリードしていけますか。

 

三木:先ほどもお話した通り、あらゆるステークホルダーの架け橋になれるのはCROだけだと思っています。CROはさまざまな治験関係者をつなぐことができる存在だし、そうした役割を果たすことが求められています。どういうところがToo Muchなのか、どうしたらそれを潰していけるのか、根気強く関係者と対話をしていくことが大事だし、それをやらないといけません。

 

神谷:三木さんがおっしゃる通り、我々には臨床試験のハブとして関係者間の対話を促進する役割が期待されていると思います。依頼者とCROという点では昨年、共同で宣言を出しましたが、医療機関やSMOに対しても働きかけを行っていく必要があります。CROには過去のベストプラクティスが蓄積されており、最大公約数を知っています。それを根拠に対話をしていくことが大切です。

 

小川:新興バイオテックが自前で開発する新薬を日本に呼び込むのは我々の責務だと思っています。CROが大きく貢献できるところであり、そこを頑張らないといけないと思っています。

 

髙井:皆さんがおっしゃる通りで、対話を重ねた上で明確に言語化して伝えていくことが必要です。「ここを外すと失敗する」とか「ここはやらなくても大丈夫」といったことをきちんと言葉にし、関係者が同じ認識を持って取り組めるようにしなければ、治験エコシステムを進めるのも難しい。CROとしてはそうした活動を行っていかなければならないと思っています。

 

後編はこちら:【CRO4社トップ座談会・後編】変化する事業環境、CROの未来は

 

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