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バイオを分断する「見えない国境線」【薬の地政学 #4】

更新日

増井慶太

米国が打ち出した医薬品への追加関税はモノの流れに介入する政策です。しかし、米国が仕掛ける「分断」はそれだけにとどまりません。提携関係やデータの扱いにも見えない国境線が引かれ始めています。

 

「誰と組むか」に踏み込むBIOSECURE法

2025年12月、米国でBIOSECURE法が成立しました。連邦政府の機関が、安全保障上「懸念がある」とされる中国のバイオ企業の製品やサービスを使うこと、それらと取引のある企業と契約することを制限する内容です。

 

関税が「どこで作るか」への介入なら、この法律は「誰と組むか」への介入と言えます。26年6月には対象リストに大手CDMOのWuXiが加えられ、規制が現実味を帯びました。

 

CDMOは医薬品産業に欠かせない存在であり、中国はその一角を担う国です。ある調査では、米国のバイオ医薬品企業の約8割が、少なくとも1つの中国CDMOと契約しています。名指しされたWuXi1社だけで、米国で使われる医薬品の約4分の1の開発に関わっているほどです。

 

ここにメスを入れれば、開発の遅れやコストの上昇が懸念されます。関税同様、分断には痛みも伴います。

 

データ主権、AI時代の新たな戦場

もう1つの戦場がデータです。いまや創薬は、ゲノムなどの膨大なデータを燃料にして進みます。AIが大量のデータから新薬の種を見つけ出す時代には、誰がそのデータを握るかが競争力に直結します。

 

米国は25年、米国人のゲノムデータを「懸念国」に大量に移すことを規則で禁じました。データは、いまや石油や希少金属といった戦略資源と同じくらい重要なものになっています。

 

半導体の世界では、主要国が最先端の製造装置の対中輸出を規制しているのと同じように、創薬の世界でもインフラである製造受託やデータの分断が起こり始めています。目に見えるモノだけでなく、目に見えない土台や基盤にまで奪い合いが及んでいます。

 

増井慶太(ますい・けいた)ロンジェビティ特化型VC(ベンチャーキャピタル)ASAGI Labs Ventures合同会社Managing Partner、BAIOX株式会社CEO、インダストリアルドライブ合同会社CEO。ヘルスケアやライフサイエンス領域の投資運営、M&A仲介、カンパニー・クリエーション、事業運営に従事。東京大教養学部卒業後、米系経営戦略コンサルティング企業、欧州製薬企業などを経て現職。
X:@keita_masui
LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/keita-masui/
ウェブサイト:https://alv.vc/

 

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