
国際宇宙ステーションで、微小重力下でタンパク質薄膜を製造する装置を操作する宇宙飛行士(提供写真、ロイター)
[ロイター]国際宇宙ステーション(ISS)の運用終了が近付くなか、製薬各社は地球低軌道における商用医薬品の研究・製造に向けた基盤整備を進めるとともに、規制当局と連携して宇宙での医薬品製造に関するルールの確立に取り組んでいる。
製薬・バイオテクノロジー企業や宇宙関連企業の幹部らはロイターに対し、地球外での医薬品製造が信頼性高く低コストで行えることを実証するための取り組みを進めていると語った。
研究者らは長年にわたり、地球上では難しい生物材料中の細胞や粒子の適切な分散を微小重力環境によって可能にする仕組みを研究してきた。
たとえば、米ランダムビジョンは微小重力を利用して人工網膜インプラントの設計を行っている。人工網膜インプラントは、タンパク質やポリマーを足場の上に慎重に重ねていく必要がある。同社は2018年以降、ISSでのミッションを9回完了しており、2028年には臨床試験を始めたい考えだ。
米オクシリウム・バイオテクノロジーは、ISSに搭載された3Dバイオプリンターを使ってヒトの肝臓、腎臓、軟骨細胞を含む構造体の製造に成功した。同社のエンジニアリング部門副社長イサック・ラザロヴィッツ氏は、この成果を軌道上での移植可能組織の製造に向けた第一歩と捉えていると話す。
米メルクはISSの研究に協力し、その成果をもとに主力のがん免疫療法薬「キイトルーダ」の皮下注製剤を開発した。これにより、静脈内投与より迅速で簡便に投与できる選択肢が実現した。
商用インフラの発展
こうした研究は主にISSに依存してきた。ただ、ISSではラボスペース、宇宙飛行士の作業時間、地球に向かう回収便が不足しており、ボトルネックとなっている。スペースや作業時間の不足により、実験の再現に数カ月から数年かかることもあり、技術の改善を遅らせる原因となっている。
ISSナショナル・ラボの主任研究員マイケル・ロバーツ氏は、ISSは「テストキッチン」のようなもので、「大規模に実験を行えるような環境ではない」と話す。
ただ、NASA(米航空宇宙局)は2030年のISS退役に向けて準備を進める中、そうした状況も変わりつつある。
次世代の商用宇宙ステーションは拡張性を念頭に置いて設計されている。ロバーツ氏は、企業は時間の経過ともに生産量を増やすことができ、場合によってはISSよりも大幅に低いコストでそれを実現できる可能性があると話す。
宇宙建築研究機関オーレリア・インスティテュートのアリエル・エクブロウ氏も、軌道上の掻痒インフラの成長により、宇宙での日常的な医薬品の研究・製造の経済的実現性が高まる可能性があるとの見方を示す。
オクシリウムは、ISS退役後の運用が想定される軌道プラットフォームを開発している企業と契約を結んだ。
米国のスターラボ、ヴァスト、アクシオム・スペースは、民間主導の宇宙ステーションを開発しており、ヴァルダ・スペース・インダストリーズは、軌道上で材料を処理して地球に回収する自律型カプセルを製造している。各社は、新たなプラットフォームが頻繁なアクセス、専用の製造設備、そして大きな商業的柔軟性をもたらす可能性があるとしている。
米ブリストル・マイヤーズ・スクイブの広報担当者はロイターに対し、業界のニーズに合わせて設計された軌道上の実験室には、高度な自動化、専用製造エリア、専門的なクルーの訓練、予測可能な打ち上げ・回収などが期待できると話した。
規制プロセスは存在せず
規制当局は、軌道上で製造された製品が地球上で製造された製品と同じ基準を満たすことを保証するプロセスをまだ確立できていない。
商用宇宙ステーション開発企業ヴァストのマックス・ハオトCEO(最高経営責任者)は、明確な規制プロセスが存在しないことは、輸送の課題より長期的な障壁になる可能性があると指摘する。
米FDA(食品医薬品局)とNASAは2018年、宇宙ミッション中の生物医学研究・製品開発に関する覚書を結んだが、そうした取り組みの成果を規制・承認するための枠組みはまだ構築されていない。
英国医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は3月、宇宙空間で製造される医薬品に関する指針を策定するため、英国宇宙庁(UKSA)と協力すると発表した。MHRAは年内にそのロードマップを公表する予定で、世界の主な医薬品規制当局として初めて正式な承認経路を示す可能性がある。
回収にも課題
民間ロケット産業の発展に伴い、ペイロード(搭載物)の打ち上げは用意になった一方、予測可能なスケジュールで地球に回収することは依然として課題だ。
先に行った実験の結果がなければ次の実験を設計できないことが多く、打ち上げよりも回収のほうが大きなボトルネックになっていると企業幹部らは指摘する。
業界幹部らは、商用宇宙ステーションが登場すれば、個々のミッションの間隔を何カ月も待つことなく、異なるプラットフォームで複数の実験を行えるようになるという。
スターラボの主任研究者ルイス・ゼア氏は、製薬・バイオ企業は自前で軌道インフラを構築するのではなく、実験室のスペースをレンタルし、共有設備を利用できるようにする計画だと語った。
ISSのロバーツ氏は、ISSが微小重力実験室への継続的なアクセスと長期的なデータ収集能力を提供してきたことで、将来の低軌道経済の基盤を築いたと指摘。「商用プラットフォームへの移行により、そうした能力が桁違いに飛躍することを楽しみにしている」と話した。
(取材:Akash Sriram/Mariam E Sunny、編集:Nancy Lapid/Bill Berkrot、翻訳:AnswersNews)



