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【工場探訪:くすりづくりの現場を歩く】ニプロファーマ・近江工場―グローバル化担う新拠点、中外製薬が協力し体制構築

更新日

亀田真由

ニプロファーマの近江工場は、滋賀県草津市のJR草津駅から車で20分ほどの場所にあります。同工場が稼働を開始したのは2024年。国内に10の工場を持つ同社にとって最も新しい生産拠点です。

 

抗菌薬安定供給へ今春から製造本格化

「足元の供給はまかなえていますが、今後の抗菌薬の需要増加への対応を考えると、大館工場(秋田県)や伊勢工場(三重県)のキャパシティを増やしたり、生産を止めずに建て替えたりするのは困難でした」

 

近江工場の高井基サイトマネージャーは、工場新設の背景についてこう話します。同工場はセフェム系抗菌薬のダブルバッグ製剤を主に手がける工場として建設。従業員の平均年齢は33歳で、若手が中心となって立ち上げを進めています。

 

ダブルバッグは薬剤と溶解液を組み合わせたキット製剤。ワンプッシュで無菌的に溶解できる利便性が強みです。製造には高い技術が必要で、近江で製造を始めた25年夏ごろは収率7割程度にとどまっていました。その後、設備トラブルに都度対応していくなかで、現在は9割を超えるまでに改善。追加の薬事承認を経て、今年4月ごろから製造が本格化しました。

 

ダブルバッグ製剤を製造する抗菌薬注射剤棟の生産能力は年間800万袋。これから順次、生産品目を追加して29年度には669万袋を作る計画です。「将来的には、セフェム系の抗菌薬は近江に集約する構想も視野に入れています」(高井さん)

 

抗菌薬注射剤棟。【左上】外観【右上】製造しているダブルバッグ製剤のサンプル。溶解液部分を押すと、隔壁が破れて薬剤と溶解液が混ざり合う【左下】充填室【右下】倉庫エリア。無人フォークリフトを導入して自動化を進めている(右上以外は提供写真)。

抗菌薬注射剤棟。【左上】外観【右上】製造しているダブルバッグ製剤のサンプル。溶解液部分を押すと、隔壁が破れて薬剤と溶解液が混ざり合う【左下】充填室【右下】倉庫エリア。無人フォークリフトを導入して自動化を進めている(右上以外は提供写真)。

 

抗菌薬棟の隣には、原薬製造の製造方法や条件を検討するパイロットプラントもあります。現在、原薬はほぼすべて海外に依存していますが、製造方法が確立できれば、原薬を自社製造でまかなっていくことを構想しています。

 

バイアル製造の新棟完成、欧米向け製品受託

ニプロファーマにとって近江工場は、抗菌薬の国内向け安定供給とともに、グローバル化を推進する拠点としての役割も担います。今年4月には、2つの無菌バイアルラインを有する一般注射剤棟を新設。液バイアルと凍結乾燥バイアルで年間4770万本の生産能力があり、感染症の流行時にはワクチンを生産するデュアルユース設備を備えます。

 

「新薬メーカーの需要に応え、欧米をはじめとする各国へ輸出する製品を受託できる、高付加価値の注射剤工場を目指しています」(高井さん)

 

新棟の建設にあたっては中外製薬と提携。柔軟で多様な製造オプションの確保を目指す同社とともに、グローバルGMP体制の構築を進めてきました。2028年の海外出荷を目指しています。

 

新棟はセントラルスパイン構造を採用。倉庫棟、バイアル製造棟、管理厚生QC棟が一本の廊下でつながっており、人、資材、製品のスムーズな動線を確保しています。スマートAGVが資材や完成品の運搬を行うほか、中間製品は天井自動搬送システムで移動。自動倉庫も備えています。

 

一般注射剤棟。鏡石工場で地震による生産停止を経験したことを踏まえ、免震構造を採用【左上】セントラルスパイン【右上】管理厚生QC棟。従業員はここからそれぞれの勤務場所に移動する【左下】管理厚生QC棟の事務エリアはフリーアドレス【右下】スマートAGV。取材時は走行テストが行われていた。

一般注射剤棟。鏡石工場で地震による生産停止を経験したことを踏まえ、免震構造を採用【左上】セントラルスパイン【右上】管理厚生QC棟。従業員はここからそれぞれの勤務場所に移動する【左下】管理厚生QC棟の事務エリアはフリーアドレス【右下】スマートAGV。取材時は走行テストが行われていた。

 

取材当日(3月)は設備導入の真っただ中。設備メーカーの担当者が作業を進めているなかを案内してもらいました。調製エリアは、1ラインあたり約9個の調製タンクを備え、多様な受託ニーズに対応。シングルユースバッグでの調製にも対応できるほか、照度を落としての製造や、冷蔵環境が必要とされる製品などにも短い準備期間で対応できるといいます。

 

一般注射剤棟では、調製から充填までの主要設備のメーカーを統一し、操作性やメンテナンス性を高めています。「抗菌薬棟では一部異なるメーカーの設備も採用していましたが、現場の作業者にとってより良い作業性と環境とすべく、統一することにしました」と、高井さんは話します。

 

一般注射剤棟。【左上】調製エリア【右上】充填エリア【左下】自動検査機。粘度の高い製品などは目視検査も組み合わせる【右下】ラベラー。グローバル展開を見据え、国内向けと海外向けの両方の包装に対応

一般注射剤棟。【左上】調製エリア【右上】充填エリア【左下】自動検査機。粘度の高い製品などは目視検査も組み合わせる【右下】ラベラー。グローバル展開を見据え、国内向けと海外向けの両方の包装に対応

 

グローバル対応に向けては、ペーパーレス化にも挑戦。先に稼働した抗菌薬棟では製造記録の電子化に取り組んできましたが、一般注射剤棟では品質試験や倉庫管理なども電子化し、基幹システムと連携しました。高度な運用を支えるため、IT部門にも多くの人員を配置しており、その数はすでに従業員1000人規模の主力工場と同レベルです。

 

大規模システム導入で一番のチャレンジとなったのは、コンピュータシステムのバリデーション。ノウハウを持つ中外からもアドバイスをもらい、あらゆる環境で確実に記録できることを検証しました。中外とは幅広く連携しており、ニプロファーマ社員が中外の製造を体験したり、QMSの文書改訂に中外のノウハウを取り入れたりしています。

 

【左上】QCエリア【右上】カフェテリア。将来的には食堂としてオープンしたい考え【左下】Web会議などにも対応した執務エリア【右下】案内してくれた高井さん

【左上】QCエリア【右上】カフェテリア。将来的には食堂としてオープンしたい考え【左下】Web会議などにも対応した執務エリア【右下】案内してくれた高井さん

 

近江工場では、DXや自動化によって既存工場と比べて最大約20%の省人化を実現しています。現在の従業員数は200人弱。他工場からの応援メンバーもいますが、組織は若手中心です。立ち上げにあたっては、まず互いを知ることから始め、1年かけて役割分担を明確にしながらチームを形成してきました。来年度からは若手の孤立を防ぐ「メンター制度」や、リーダー育成を目的とした他事業者との「異業種交流会」も始める予定。社内でもカフェテリアを活用して交流の機会を設けています。

 

【ニプロファーマ 近江工場の基本情報】所在地/滋賀県栗東市六地蔵145番地|敷地面積/106,149 m2|稼働年月/2024年4月|従業員数/186人 (2025年12月末時点)|生産能力/抗菌薬ダブルバッグ製剤:年間最大800万袋、無菌バイアル製剤:最大4770万本 (液バイアルと凍結乾燥兼液バイアルの合計)

 

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