1. Answers>
  2. AnswersNews>
  3. ニュース解説>
  4. 中外製薬、自社でも肥満症・糖尿病参入…ロシュ買収のGLP-1導入、導出のオルフォルグリプロンは申請間近
ニュース解説

中外製薬、自社でも肥満症・糖尿病参入…ロシュ買収のGLP-1導入、導出のオルフォルグリプロンは申請間近

更新日

穴迫励二

中外製薬が肥満症・糖尿病領域に本格参入します。自社創製の経口GLP-1受容体作動薬オルフォルグリプロン(一般名)は米イーライリリーに導出しましたが、スイス・ロシュが買収で獲得したGLP-1/GIP受容体作動薬「CT-388」(開発番号)を導入。自社創製の抗潜在型ミオスタチン抗体「GYM329」も肥満症を対象とした臨床第2相(P2)試験が進行中です。

 

 

オルフォルグリプロン、年内申請

中外は過去、糖尿病領域でSGLT2阻害薬トホグリフロジン(一般名)を創製し、P3試験まで進めましたが、2012年10月に興和とサノフィに導出。両社が「テベルザ/アプルウェイ」の製品名で14年に発売し、販売移管を経て現在は興和のテベルザのみが販売されています。中外はフォーカス領域の1つとして糖尿病の研究を続けていましたが、これまで製品の販売実績はありません。

 

リリーに導出したオルフォルグリプロンは、結果が判明しているすべてのP3試験で主要評価項目を達成。2型糖尿病では、同じ経口GLP-1受容体作動薬のセマグルチド(製品名・リベルサス)やSGLT2阻害薬ダパグリフロジン(同・フォシーガ)に対する優越性が示され、肥満症では最高用量で平均12.5%の体重減少が認められました。リリーは年内に日本を含むグローバルで肥満症を対象に申請を行う予定です。

 

中外は当初からオルフォルグリプロンのポテンシャルの高さを訴えていましたが、導出した18年当時、肥満症治療薬は今ほど注目されていませんでした。同社の浅野由美子事業開発部長は10月に開かれたバイオジャパンで講演し、ライセンスアウトについてはロシュとの戦略的提携を基本としつつ「ロシュの疾患戦略と合致しない場合は、他のグローバルのパートナーを探していく」と説明。オルフォルグリプロンもその一環だと話しました。

 

導出により、中外はリリーから一時金5000万ドルのほか、開発・販売のマイルストンと売上高に応じたロイヤリティを受け取ります。英調査会社エバリュエートによると、オルフォルグリプロンは30年にグローバル売上高が12.7億ドルに達すると予測されています。

 

2新薬を自社開発

10月15日に導入を発表したCT-388は、ロシュが米カーモット・セラピューティクスを買収して獲得した新薬候補。現在、2型糖尿病を伴う肥満症を対象に海外でP2試験が行われています。129人が登録したP1試験では週1回24週間の皮下注射で平均18.8%の体重減少を確認。45%の患者が20%超の減量を達成するなど、良好な結果が示されました。

 

オルフォルグリプロンを手離した一方でCT-388を導入したことについて中外は「ロシュが開発を決めたことを受け、薬剤としての評価を行った結果、アンメット・ニーズがある日本市場にも投入すべきと判断した」(広報)と説明。浅野氏はバイオジャパンでの講演でロシュ品について「サイエンスとビジネスの面から、日本でファーストインクラスかベストインクラスの薬剤になるか評価した上で決定する」と話しました。

 

市場ではCT-388と同じ作用機序の「マンジャロ」(一般名・チルゼパチド、リリー)が急成長しており、将来的に真正面から競合することが予想されます。マンジャロの適応症は2型糖尿病ですが、同一成分で肥満症が適応の「ゼップバウンド」も市場の開拓を進めています。皮下注と経口の違いはあるものの、自社創製のオルフォルグリプロンとも争うことになりそうです。

 

【中外製薬が創製または開発中の肥満症治療薬候補】〈品名/作用機序/創製/開発段階〉オルフォルグリプロン/経口GLP-受容体作動薬/自社(リリーに導出)/25年申請予定|GYM329/抗ミオスタチン抗体/自社/P2|CT-388/GLP-1/GIP受容体作動薬/カーモット(ロシュから導入)/海外P2| ※中外製薬のIR資料をもとに作成

 

もう1つ、肥満症を対象に開発を進めるGYM329は独自のスイーピング抗体技術を活用した新薬候補。今年5月にチルゼパチドとの併用でP2試験を開始しました。GYM329はミオスタチンを除去することで筋肉量を増やし、GLP-1受容体作動薬の弱点である筋力低下やリバウンドの解決につながると期待されており、中外は28年以降の申請を予定しています。ミオスタチンはGLP-1に続く肥満症治療の標的として注目されており、開発競争が激しくなっています。

 

関連記事:体重減少と筋肉維持と…製薬企業が競う肥満症薬「次のブレークスルー」

 

市場は大きく拡大

エバリュエートによると、マンジャロは30年に326億ドルを売り上げて世界売上高トップの製品になる予想。ゼップバウンドも255億ドルで3位に入るなど、肥満症・糖尿病治療薬は今後も大きく成長するとみられています。30年の企業ランキングでもリリーが首位、ノボノルディスク(デンマーク)が2位になる予想で、両社とも24年から一気にランクアップします。

 

中外の製品構成は「オンコロジー」と「スペシャリティ」(21年まではプライマリー)に分かれます。20年以降、オンコロジーの売り上げはほぼフラットですが、スペシャリティは21~23年にコロナ治療薬「ロナプリーブ」が貢献したこともあり増加。25年予想はややオンコロジーが上回る見込みです。

 

【中外製薬 領域別の国内売上収益】〈年/売上収益〉2020年/4,000(オンコロジー2,300、スペシャリティ1,700)|2021年/5,100(オンコロジー2,600、スペシャリティ2,500)|2022年/6,500(オンコロジー2,500、スペシャリティ4,000)|2023年/5,500(オンコロジー2,600、スペシャリティ2,900)|2024年/4,500(オンコロジー2,400、スペシャリティ2,100)|2025年/4,500(オンコロジー2,300、スペシャリティ2,200) ※25年は予想。中外製薬の決算発表資料をもとに作成。

 

近年は希少疾患領域への新薬投入が目立っていましたが、肥満・糖尿病領域という巨大市場でも自社開発、導入、導出とさまざまなパターンで存在感を示すことになりそうです。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

あわせて読みたい

メールでニュースを受け取る

  • 新着記事が届く
  • 業界ニュースがコンパクトにわかる

オススメの記事

人気記事

メールでニュースを受け取る

メールでニュースを受け取る

  • 新着記事が届く
  • 業界ニュースがコンパクトにわかる