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MSD、大型化期待の2新薬を同時発売…ピーク時売上高予測は計948億円、製品構成にも変化

更新日

穴迫励二

MSDが大型化を狙う2つの新薬を8月に同時発売しました。肺動脈性肺高血圧症(PAH)治療薬「エアウィン皮下注」と、がん治療薬の低酸素誘導因子2アルファ(HIF-2α)阻害薬「ウェリレグ錠」で、2剤合計のピーク時売上高は948億円と予想。抗PD-1抗体「キイトルーダ」とワクチン主体の製品構成にも変化が起きそうです。

 

 

「教科書書き換えるレベル」新規作用機序のPAH薬

エアウィンは、アクチビンシグナル伝達阻害剤として初承認されたPAH治療薬です。肺高血圧症は、心臓から肺に血液を送る肺動脈の血流が悪くなることで、肺動脈の血圧が高くなる疾患。PAHは肺高血圧症の一種で、肺の細い血管が狭くなって発症します。厚生労働省の指定難病で、23年度に認定を受けた患者数は約4700人。疾患の認知度が高まるにつれて潜在症例が顕在化し、年々増加する傾向にあります。5年生存率は90%近くまで改善されましたが、疾患進行抑制は十分とはいえません。

 

既存の治療薬には▽プロスタサイクリン誘導体▽エンドセリン受容体拮抗薬▽NO/cGMP――の3系統がありますが、いずれも血管収縮の経路を主な標的としていました。これに対し、エアウィンは肺血管リモデリング(細胞増殖)に介入する新たなタイプの薬剤で、疾患の本態を標的とします。PAHの治療薬は併用投与されるため、エアウィンも同様に既存薬に追加されます。初めから単剤で使用される位置付けではありません。添付文書には「肺血管拡張薬による治療を受けている患者に適用を考慮すること」と記載されています。

 

そのため既存薬からシェアを奪うのではなく、新たな市場を形成していきます。今年3月に改定された診療ガイドラインでは、その時点で未承認だったエアウィンに関する記述はありませんが、久留米大医学部内科学講座の福本義弘・心臓・血管内科部門主任教授は「現在は中リスク以上でエアウィンを積極的に追加しようと医療現場では考えている」と話しています。

 

MSDの白沢博満会長兼グローバル研究開発本部長は同薬について「患者数は多くなく、市場は限定的」としますが、薬剤としての評価ではキイトルーダと同様に「治療の教科書を書き替えるレベル」のポテンシャルだと自信を示しています。病態の特性から継続投与されやすく、長期的な収益への貢献が見込めます。「薬物治療のあり方をがらりと変える」(白沢氏)と期待しており、PAH治療のほとんどに使用される可能性も出てきます。

 

薬価は45㎎が108万2630円、60㎎144万1677円。年間の薬剤費は1870万円程度と高額で、ピーク時の発売10年度目に投与患者数2800人、売上高544億円を予想しています。

 

VHL病関連腫瘍・腎細胞がん治療薬のHIF-2α阻害薬

抗がん剤のウェリレグは2つの適応を取得しました。その1つである「フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病関連腫瘍」は、VHL遺伝子の変異で発症する難治性の希少疾患。発生する主な腫瘍は中枢神経系血管芽腫のほか網膜血管腫、腎細胞がん、腎嚢胞などで、多発性と再発性が特徴です。VHL病に対する全身療法として初めての薬剤となりました。

 

患者数は600~1000人と少ないものの、横浜市立大学泌尿器学科の蓮見壽史准教授は「氷山の一角かもしれない。疾患に気づいていない患者も相当数おり、こうした潜在患者はウェリレグを服用すべき」と話します。

 

もう1つの適応は「がん化学療法後に増悪した根治切除不能または転移性の腎細胞がん」。免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬などによる治療後に病勢が進行した腎細胞がんには、これまで臨床試験で有効性が検証された治療法はありませんでした。ウェリレグはこうしたケースで初めて抗腫瘍効果を示した薬剤で、「おそらく対象患者全員に使用されるのではないか」(蓮見氏)と見られています。現在は2次治療の適応ですが、最終的には1次療法になる可能性も示唆されています。

 

薬価は40mg1錠で2万1916.80円。ピーク時(発売9年度目)の投与患者数は1900人、販売金額は404億円と予想しています。

 

【MSDが8月に同時発売した2新薬】〈製品名/一般名/適応症/薬価/ピーク時予測売上高/ピーク時予測投与患者数〉エアウィン皮下注/ソタテルセプト/肺動脈性肺高血圧症/45mg108万2630円/60mg144万1677円/544億円/2800人(10年度目)|ウェリレグ錠/ベルズチファン/①フォン・ヒッペル・リンドウ病関連腫瘍/②がん化学療法後に増悪した根治切除不能または転移性の腎細胞がん/2万1916.8円/404億円/1900人(9年度目)|※MSDのプレスリリースと中医協資料をもとに作成

 

高まるスペシャリティ領域の比率

MSDの近年の日本の業績は、分社化や新型コロナ関連薬の供給で変動が激しくなっています。19年の売上高(決算ベース)は約3475億円でしたが、21年に新設したオルガノンに婦人科、循環器、呼吸器などの疾患領域の20製品を移管したことで同年は2687億円に低下。しかし、定期接種の積極的勧奨が再開されたHPVワクチン「シルガード9」や新型コロナ治療薬「ラゲブリオ」がドライバーとなり、22年は4236億円に回復しました。

 

【MSD国内売上高の推移】〈年/売上高(億円)〉19/3,475|20/3,220|21/2686.91|22/4235.86|23/3952.77|24/4432.92|※MSDの決算公告をもとに作成

 

23年以降は最主力品のキイトルーダが成長を牽引しています。同薬の25年上半期売上高は、前年同期比17.3%増の1033億円まで拡大。5月には悪性胸膜中皮腫と一部胃がんでの1次療法も承認され、通期では2000億円を突破しそうです。製品別で2000億円を超えれば、2016年のC型慢性肝炎治療薬「ソバルディ」(2960億円)以来。キイトルーダは日本での主要な特許が32年まで有効ですが、「あと7年の間に適応を追加し、併用も進める」(白沢氏)ことで、更なる売り上げ拡大を見込んでいます。

 

一方、DPP-4阻害薬「ジャヌビア」は、新薬創出等加算の返還が前倒しされ、後発品参入も控えるなど、プライマリー・ケア領域の縮小傾向は続きます。8月に発売した2製品は23年10月の肺炎球菌結合型ワクチン「バクニュバンス」以来の新薬で、スペシャリティ領域の割合はさらに拡大。営業の組織体制も製品構成の変化に対応して見直しが進んでいます。

 

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