
(写真:ロイター)
今年もいろいろなことがあった製薬業界。2025年の主な出来事を2回に分けて振り返ります。
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トランプ氏、関税カードに圧力
世界経済が米トランプ政権の関税政策に振り回された2025年。製薬業界もトランプ大統領に翻弄されました。
トランプ氏は1月20日に大統領に就任。直後にWHO(世界保健機関)からの脱退を発表し、FDA(食品医薬品局)やCDC(疾病対策センター)、NIH(国立衛生研究所)といった保健機関の人員削減、科学研究予算の縮小、輸入医薬品への関税導入、米国内の処方薬価格の引き下げなどを次々と打ち出しました。
トランプ氏は、関税を交渉材料にして、製薬企業に対して米国での生産拡大と価格引き下げを要求。これを受けてグローバル大手製薬企業は相次いで対米大型投資を発表し、その総額は数千億ドル規模に達しています。

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武田薬品、4.7兆円の対米投資表明
処方薬の価格引き下げをめぐっては、高額な米国の価格を他の先進国の最低水準に合わせる「最恵国待遇(MFN)価格」の設定を製薬企業に求めました。トランプ氏は5月、MFN価格政策の導入を目指す大統領令に署名し、7月にはグローバル製薬企業17社に期限設定した上で行動を要求する書簡を送付。これまでに、米ファイザーや英アストラゼネカ、米イーライリリーなど14社が政権とMFN価格での販売に合意し、値下げと引き換えに一定期間の関税の免除を得ました。

トランプ氏とともに処方薬価格引き下げに関する合意について発表するアストラゼネカのパスカル・ソリオCEO(ロイター)
関税に対しては、日本企業も在庫の積み増しやサプライチェーンの再検討といった対応を迫られました。武田薬品工業は5月、今後5年で約300億ドルを米国に投資すると表明。投資には製造拠点のアップグレードや研究開発費が含まれ、クリストフ・ウェバー社長CEOは「現在のプレゼンスを維持するため、そして会社をこれからも成長させていくためのものだ」と話しました。
米MFN、日本のドラッグ・ロス拡大に懸念
米国のMFN価格をめぐっては、その影響が日本にも及ぶことへの懸念が高まりました。日本の低薬価に引きずられて米国価格が下がるのを嫌った製薬企業が日本での新薬発売を控える可能性があり、ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの拡大につながる可能性が指摘されています。
影響はすでに出始めています。米国研究製薬工業協会(PhRMA)が会員企業を対象に11月下旬に行った調査では、複数の会員企業日本法人が「グローバルから目標薬価の下限を引き上げられた」「グローバル本社が新たに設定した目標薬価を下回る場合は薬価収載を見送る可能性が示唆された」などと回答。同月来日したPhRMAのアルバート・ブーラ会長(ファイザー会長CEO)は「日本は今ある医薬品の値下げをやめるとともに、今後は新薬の価格を米国と平等にしていくことが求められる」と話しました。
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再算定「共連れ」廃止へ
MFNに対しては、2026年度薬価制度改革に向けた議論でも業界側から懸念が示されましたが、中央社会保険医療協議会(中医協)で12月26日に決まった制度改革の骨子では「機動的な対応ができるよう、革新的新薬の薬価の在り方については引き続き検討する」との記載にとどまりました。
制度改革では、業界は▽市場拡大再算定の特例の廃止▽市場拡大再算定の「共連れ」(類似品への適用)の廃止▽特許期間中のすべての新薬の薬価の維持――などを中心に改善を要望。12月24日の財務・厚生労働相の合意で「共連れ」の廃止が実現した一方、27年度の中間年改定は「着実に実施」とされました。合意には費用対効果評価制度のさらなる活用についても盛り込まれました。

自維連立スタート、OTC類似薬に追加自己負担
国内では10月21日、高市内閣が発足し、自民党と日本維新の会の連立政権がスタート。維新は、7月の参院選で現役世代の社会保険料負担軽減に向けた社会保障改革を訴え、薬剤費の自己負担をめぐる議論が進みました。
維新が特に重視してきたOTC類似薬の保険給付では、OTC薬に対応する適応がある医療用医薬品について、患者に追加の自己負担を求める制度を創設し、26年度中に実施することで両党が合意。まずは77成分約1100品目を対象に薬剤費の4分の1を自己負担とし、27年度以降、対象範囲と負担割合の拡大を検討していくとされました。
両党はさらに、食品類似薬について保険適用から除外することや、長期収載品の選定療養の負担割合引き上げでも合意。長期処方やリフィル処方箋の活用も含め、約1880億円の薬剤費削減を見込みます。
診療報酬、30年ぶり本体3%引き上げ
高市首相は重点投資する17の戦略分野に「合成生物学・バイオ」「創薬・先端医療」を掲げており、12月に成立した25年度補正予算には、創薬基盤の整備、ドラッグ・ロス対策、再生・細胞医療や遺伝子治療薬の製造体制整備などに約1800億円を計上。民間の支出も合わせた事業規模は約3300億円に上ります。
高市氏は10月の所信表明演説で「赤字に苦しむ医療機関や介護施設への対応は待ったなし」と述べるなど医療機関支援に積極的で、26年度診療報酬改定では30年ぶりの水準となる本体3.09%の引き上げを決断。薬価・材料価格のマイナス0.87%とあわせた全体でも2.22%の引き上げとなり、14年度以来の全体プラス改定となることが決まりました。





