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「メディカル原理主義」を超えて|メディカルを問う

更新日

籔花大:Veeva Japan コマーシャル&メディカルストラテジー、ディレクター

この連載ではこれまで、「独立性は誰のためか」「メディカルアフェアーズ(MA)の価値をどう測るか」というテーマで、製薬企業のMA部門が置かれている現状、抱えている課題、その解決の糸口について書いてきました。

 

独立性のあり方にせよ、価値の示し方にせよ、そうしたことが問われるようになった背景には、医師の行動や価値観の変化、製薬企業のビジネス環境の複雑化といった要因があることは過去2回の記事でも触れてきましが、もう1つ指摘しておかなければならないのが、MA側のメンタリティです。

 

ビジネスと無縁ではいられない

「営業活動からの独立」という原則を絶対視しすぎるあまり、「メディカル原理主義」に陥ってしまってはいないでしょうか?もちろん原則を守ることは重要です。ただ、それも行き過ぎると、他部門との連携を拒み、成果に無頓着な態度を生みかねません。コマーシャルとMAのオフィスを別々の建物に置いたり、使用するシステムを分けたりといった、これまで行われてきた独立性の担保のしかたは、そうした態度の1つの表れだと言えるでしょう。それが、他部門から見たときに、MAが何をして、どんな成果を出しているのか分かりにくいという状況を作り出している可能性があります。

 

MAの活動は、自社製品の処方や売り上げの拡大を直接の目的としたものではありませんが、それは活動が処方や売り上げとまったく無縁だという意味ではありません。営利企業がビジネスとして行っている以上、MAの活動も最終的には売り上げや利益に貢献するものでなければならないでしょう。だからといって、売り上げや処方数を成果の指標にすると、さまざまな誤解や疑念を生んでしまいかねません。ここにMAの評価の難しさがあるわけで、たとえば「新たな薬剤の市場を開拓・整備する」「育薬をリードする」といった役割を軸にして成果の示し方を考えていく必要があります。

 

新薬開発の難易度とコストが上昇する中、製薬企業はバリューチェーンのあらゆる局面で効率化を迫られています。会社から突きつけられる「メディカルの価値とは」という問いは、端的に言えば「メディカルは売り上げや利益にどう貢献するのか」「市場にどんなインパクト(変化)を与えたか」という問いであり、昨今の製薬企業の置かれた環境を考慮すると、もはやこの問いから逃れることはできません。

 

この問いに答えられないのであれば、かつてのようにマーケティング部門、セールス部門、開発部門で必要な役割を担い、メディカル部門(とは呼ばなくなるかもしれませんが)は薬剤の適正使用に関する医療従事者からの学術的な問い合わせへの対応に集中するというのも1つの選択になるかもしれません。

 

連載の1回目でも触れましたが、営利企業が顧客である医師と接点を持つ以上、MAの科学的活動が間接的であれ処方行動に影響を与えるのは当然です。Veevaの米国のデータでは、MAの科学的活動への投資が大きい企業ほど新薬の採用が速く進み、主要KOLとの発売前のエンゲージメントは新薬の採用率を大きく押し上げます。

 

今年5月に6年ぶりに改訂された日本製薬工業協会のコード・オブ・プラクティス(COP)では、販売促進を期待しない科学的情報交換であっても、処方判断に影響を与える可能性があればプロモーションに含まれることが明確になりました。

 

重要なのは、こうした現実を否定するのではなく、「患者のよりよい治療選択のために」という視点で線引きを再考することです。未承認・適応外薬の情報提供、臨床研究・治験への関与といった明確な境界線は維持しつつ、医療現場への提供価値や製品価値を最大化するためにコマーシャル、開発、創薬といった他部門との連携をどう進めるか。そこに議論の軸を移すべきだと考えます。

 

未来は「分断」ではく「連携」の中に

MAの未来は「分断」ではなく「連携」の中にあります。求められているのはまさに「リエゾン」としての役割です。コマーシャルやセールス、開発といった社内の部門と適切に連携して患者アウトカムの改善を図り、その中で製品価値を最大化させていくことがMAの価値であり、これを実現したとき、MAは会社にとっても、医療現場にとっても重要な存在になるはずです。

 

逆に言えば、「MAの価値とは」ということが問われなくなって初めて、MAは多様化する医師のニーズに応え、企業価値・ブランド価値の向上、ひいてはドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスといった社会課題の解決に資することができます。そうした結果として、ライフサイクルマネジメントも含めた薬剤の最大化に貢献し、これからの医療や患者さんに貢献する。MAはそうした価値の高い役割を担えると信じています。

 

(連載おわり)

 

籔花大(Veeva Japan コマーシャル&メディカルストラテジー、ディレクター)システムエンジニアとしてキャリアをスタートし、20年以上に渡り、外資・内資のグローバル製薬企業のIt担当として、R&Dやコマーシャル、メディカルといった幅広い部門におけるシステムやアプリケーションの導入、運用、業務変革プロジェクトを担当。2016年から約5年、日本製薬工業協会(製薬協)で活動し、医薬品業界や制度に関する幅広い知見を持つ。Veevaには2023年に入社。主に国内外のファーマのメディカル部門におけるDX推進を支援するほか、メディカルコミュニティのファシリテーターも務める。

LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/futoshi-yabuhana-b32b8318/

 

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