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HER2陽性肺がんに注目の新薬「ヘルネクシオス」登場…エンハーツと競合も「最も使われる薬剤になるのではないか」と専門医

更新日

前田雄樹

肺がんの領域に、また1つ注目の新薬が登場しました。日本ベーリンガーインゲルハイムのHER2チロシンキナーゼ阻害薬「ヘルネクシオス」で、HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺がんの2次治療以降が対象です。同じ適応では第一三共の抗HER2薬物複合体(ADC)「エンハーツ」がすでに承認されていますが、ヘルネクシオスは経口薬であり、臨床試験で示された高い有効性と安全性から新たな治療選択肢として期待が寄せられています。

 

 

初の経口薬、EGFR阻害弱め副作用軽減

国立がん研究センターのがん統計によると、肺がんの年間罹患数は12万4531人(2021年)、死亡数は7万5762人(23年)。罹患数は2番目、死亡数は最も多いがんです。肺がんのうち85%は非小細胞肺がん(NSCLC)で、残る15%が小細胞肺がん(SCLC)となっています。

 

HER2遺伝子変異はNSCLC全体の約3%に見られ、若年者、女性、非喫煙者が比較的多く、予後は不良とされます。初回治療は化学療法と免疫チェックポイント阻害薬で、2次治療以降では2023年に初の抗HER2療法としてエンハーツ(一般名・トラスツズマブ デルクステカン)が承認されましたが、依然として治療選択肢は限られていました。

 

ヘルネクシオス(ゾンゲルチニブ)は経口のHR2阻害薬で、今年9月にエンハーツと同じ適応で承認され、11月12日に発売されました。経口HER2阻害薬としては乳がんで「タイケルブ」(ラパチニブトシル酸塩水和物)が承認されていますが、肺がんではヘルネクシオスが初めてです。

 

【ヘルネクシオスの製品概要】〈製品名/一般名/適応/用法・用量/製造販売元/承認・収載/薬価/ピーク時予測〉ヘルネクシオス錠60mg/ゾンゲルチニブ/がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん/1日1回120mgを経口投与。患者の状態によって適宜減量/日本ベーリンガーインゲルハイム/承認:2025年9月19日、薬価収載:2025年11月12日/1錠1万3881.90円、1日薬価2万7763.80円/年間投与患者数:339人、年間予測販売金額:30億円|※薬価収載時の中医協資料をもとに作成。

 

承認の根拠となった臨床第1相(P1)試験で示された奏効率(ORR)は71%で、無増悪生存期間(PFS)の中央値は12.4カ月。異なる試験を直接比較することはできませんが、前治療歴のあるHER2遺伝子変異陽性NSCLSを対象に行われたエンハーツのP2試験のORRは49.0%、PFSの中央値は9.9カ月でした。

 

ヘルネクシオスは、野生型EGFRの阻害を弱めてHER2を選択的に阻害するよう設計されている点が特徴です。EGFRとHER2は構造的に関連するキナーゼで、従来のHER2阻害薬は同時に野生型EGFRも阻害してしまうため、発疹や下痢といったEGFR阻害による有害事象が生じることが課題でした。ヘルネクシオスにも下痢や発疹の有害事象は見られますが、臨床試験では重度なものはほとんどありませんでした。

 

ベーリンガー「がんを注力領域の1つに」

国立がん研究センター東病院の後藤功一副院長兼呼吸器内科長は、ベーリンガーインゲルハイムが開いたメディア向け説明会で「エンハーツも有効な薬剤だが限度があったなかで、ついにPFSが1年を超える薬剤が出てきた」と評価。「毒性が低いという点がとても重要で、非常に使いやすい薬剤。HER2陽性NSCLCに対して最も使われる薬剤になるのではないかと考えている」と期待を語りました。

 

今年改訂された日本肺がん学会の「肺がん診療ガイドライン」では、ヘルネクシオスは2次治療以降での単剤投与を「強く推奨する」とされました。エンハーツは従来から「強く推奨する」とされており、ガイドライン上では2剤が同じ位置付けとなっています。両剤とも1次治療での開発も進んでおり、将来的には初回治療から遺伝子変異に基づいた治療が行えるようになりそうです。

 

日本ベーリンガーインゲルハイムの荻村正孝・医薬事業ユニット統括社長は、エンハーツとの競合について「効果、安全性、経口の利便性という点で現在のアンメットニーズに十分応えられる製品になっていると思うので、この点を十分訴求していく」と自信を示しました。薬価収載時の中央社会保険医療協議会(中医協)の資料によると、ヘルネクシオスはピーク時(発売10年度)に年間投与患者数339人、販売金額30億円を見込んでいます。

 

同社のがん領域の製品はこれまで、14年発売のEGFR阻害薬「ジオトリフ」のみでしたが、ここにヘルネクシオスが加わり、荻村氏はがん領域を注力領域の1つとして展開していく考えを示しました。日本ではT細胞エンゲージャーの「BI 764532」(obrixtamig)がP2試験の段階にあり、グローバルではさらに複数の開発品がパイプラインに控えています。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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