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10年で創薬大国に変貌した中国、日本はこれから10年でどう変われるか|コラム:現場的にどうでしょう

更新日

黒坂宗久

少し前のことになりますが、7月、米科学誌「Nature Reviews Drug Discovery」に掲載された「The rise of China’s pharmaceutical industry from 2015–2024: a decade of innovation」と題する論文が目に留まりました。

 

中国の医薬品産業は2015年以降、規制改革と投資を追い風に飛躍し、模倣から創薬大国へと変貌して今や世界が注目する存在となった――。ざっくりまとめると、論文にはそのようなことが書いてありました。

 

創薬における中国の台頭はずいぶん前から言われていたことであり、内容そのものに何か驚きや発見があったわけではありません。それでもなぜこの論文が印象に残っているかというと、「日本はなぜそのような変貌を遂げることができなかったのか」と思ったからです。そのことについて業界の皆さんがどんな考えを持っているのか気になり、LinkedInに疑問を投稿してみたり、実際に何人かの方と意見交換してみたりしました。

 

いろんな意見を聞くことができましたが、個人的に「そうだよなぁ」と思うことが2つありました。

 

▽日本は博士号取得者が減少の一途をたどっており、それに比例してポスドク留学する人も減少。企業の海外赴任も減っているので、海外に行って直接学ぶ人が少なくなった。その結果、海外とのつながりが弱くなり、海外の情報や潮流へのキャッチアップが遅れる構造になっている。

 

▽一方で中国は、欧米で学んだ人が帰国し、CROを引っ張ってきて2000年ごろから製薬にまつわるノウハウを蓄積。その背景には、医薬品産業を国家戦略の柱に据え、規制改革や研究、製造などにしっかり投資したことがある。

 

この2つに集約できるほど単純な問題でないことは百も承知ですが、さまざまな差異が積み重なって現在のような姿になっているのだろうと感じています。

 

日本では四半世紀ほど前、博士号取得者を増やそうと「ポスドク1万人計画」が打ち出されましたが、失敗に終わりました。ビジネスの根底には技術があり、技術の根底には科学があります。社会にとっては、科学→技術→ビジネスのサイクルをいかに回していくかが重要であり、そのためには博士号取得者を増やすだけでは不十分だったんだろうと思います。

 

失敗から学び、次に活かす

ポスドク1万人計画については、昨年5月のコラム「『博士人材活躍プラン』でよぎる苦い過去|でも書きました。このコラムでは、その年の3月に文部科学省が発表した「博士人材活躍プラン~博士をとろう~」にも触れていますが、そうしたプランに続く実行と検証、そこからの学びを次につなげていくことは、さまざまなリソースが縮小していく日本において非常に重要です。

 

(このコラムを書いている途中で、文科省リクルートチームのnoteを見つけました。文科省職員を目指す人向けのものですが、博士人材政策に携わる職員のインタビュー記事も掲載されています。取り組みが進んでいるようで、今回こそは上手くいくよう期待したいと思います)

 

私もそうですが、失敗はなるべくしたくありません。しかし、賢い失敗から得た学びを活かし、改善につなげていくことは推奨されるべきです。国の失敗は何かと叩かれがちですが、反省をもとにより良い姿を求める姿勢は、社会において広く受け入れられて欲しいと考えています。

 

日本でも政府が「創薬力向上」を打ち出し、それに関連した動きがいろいろと出てきています(さまざまな意見はありますが)。この10年で中国は大きく変わりました。日本はこの先10年でどう変われるのでしょうか。

 

※コラムの内容は個人の見解であり、所属企業を代表するものではありません。

 

黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。アステラス製薬アドボカシー部所属。免疫学の分野で博士号を取得後、約10年間研究に従事(米国立がん研究所、産業技術総合研究所、国内製薬企業)した後、 Clarivate AnalyticsとEvaluateで約10年間、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率、開発コストなど)を提供。2023年6月から現職でアドボカシー活動に携わる。SNSなどでも積極的に発信を行っている。
X:@munehisa_k
note:https://note.com/kurosakalibrary
LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/mkurosaka/

 

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