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米トランプ政権の薬価政策、欧州でドラッグ・ラグ拡大…新薬発売35%減、一部企業が市場投入先送り

更新日

ロイター通信

製薬企業との価格引き下げ合意の発表に臨むトランプ大統領(2025年12月19日、ロイター)

 

[ロンドン、パリ ロイター]米国のドナルド・トランプ大統領による医薬品価格政策の変更を受け、製薬企業が欧州で一部の新薬の発売を遅らせている。

 

米国の価格下落回避

米国は他の先進国と比べて処方薬に高い費用を支出しており、トランプ政権は国内での処方薬価格の引き下げを推進している。トランプ氏は、製薬業界が米国の消費者に対して不公平な扱いをしてきたとし、米国の価格を欧州など他の先進国の水準に合わせる「最恵国待遇価格」を設定するよう求めてきた。

 

製薬企業はこれを受け、米国に比べて価格が低い欧州市場への一部新薬の投入を一時停止し、米国市場での価格下落を回避しようとしている。トランプ氏の薬価政策は、製薬企業のCEOや欧州の医療政策当局者にとって、複雑なかじ取りを強いる状況を生み出している。

 

欧州製薬団体連合会(EFPIA)の会長で独バイエル上級幹部のテファン・エルリッヒ氏は「欧州への新薬導入が遅れる兆候が見られ始めている」と指摘。「これは、(欧州での価格が)最終的に米国の価格に与える影響に関する不確実性の結果だ」と語った。

 

市場調査会社グローバルデータによると、トランプ氏が昨年5月に最恵国待遇価格の設定を求める大統領令を出して以降、欧州での新薬発売は大きく減少している。EU(欧州連合)の新薬発売数は、大統領令発令の前後10カ月間の比較で約35%減少した。価格の低い欧州で発売を遅らせることは、米国の高価格をより長く維持することにつながる。

 

欧州では、政府が公的医療保険制度での償還価格を交渉し、コストを抑えている。一方、米国では製薬企業と保険会社や薬剤給付管理会社(PBM)の交渉で価格が決まり、リベートや割引を提供する複雑なシステムが存在する。

 

「トランプ氏の登場が製薬企業の戦略変えた」

フランスの高等保健機構(HAS)の責任者を務めるリオネル・コレ氏は、製薬企業が同国の「早期アクセス制度」(正式承認前に患者が特定の医薬品にアクセスするのを可能にする制度)の利用を先送りする傾向が強くなっていると指摘。同制度の申請は過去1年間で大幅に減少しており、適用が決まった件数も24年の25件から25年は10件と半分以下に減った。コレ氏は「トランプ氏の登場が製薬企業の戦略を変えた」と話している。

 

フランスは欧州で最も医薬品の価格が低い国の1つで、コレ氏によると米国で3分の1程度にとどまる。フランスとドイツの価格は、他の欧州諸国の価格決定に影響を与える傾向がある。

 

コレ氏は「昨秋以降、どの製薬企業も私に見解を求めてくる。それは、米国の政策と、それが欧州に及ぼす影響についてだ」と語った。

 

米インスメッドは今年2月、米国の価格政策の不確実性を理由に、抗炎症薬「ブリンスプリ」のドイツでの発売を延期すると発表した。ウィリアム・ルイスCEOは「われわれは最恵国待遇価格について明確な説明を求めている。それがどのような形になるかわかるまで、物事を保留するのが賢明だと考えている」と話した。

 

同薬は昨年11月にEUで承認されたが、まだ発売されていない。米国では同8月の承認直後に販売を開始した。昨年、世界で承認された薬剤の90%以上は最初に米国で発売され、その多くはまだほとんどの地域で入手できない。

 

欧州委員会(EC)は声明で、米国の最恵国待遇価格政策の実施状況と、それが欧州市場に及ぼす影響について綿密に監視していると強調した。ECの広報担当者は「われわれの最優先事項は、EUの患者が安全で効果的な医薬品を手ごろな価格でタイムリーに入手できるようにすることだ」とし、「欧州への具体的な影響について決定的な結論を出すのは時期尚早だ」と述べた。

 

「目隠ししてチェスするようなもの」

スイス・ロシュ、同ノバルティス、英アストラゼネカの幹部はここ1年、欧州の医薬品価格とイノベーションへのインセンティブを批判し、支出の拡大を求めてきた。アストラゼネカの幹部であるルード・ドバー氏は、各国政府の医薬品の評価に対する姿勢により、欧州は米国や中国に後れを取ることが懸念されていると述べた。

 

欧州はGDPの約1%を医薬品に支出しているが、その比率は米国が2%、中国が1.8%となっている。EFPIAは、欧州は研究開発投資、臨床試験、革新的治療法の導入で後れをとっていると主張している。

 

一部の製薬企業は、欧州から製品を撤退させる動きを見せている。最恵国待遇価格との関係には直接言及していないものの、米アムジェンは「価格」と「環境の変化」を理由にデンマークでコレステロール血症治療薬「レパーサ」の販売をやめた。英インディビオールも、米国の価格設定に直接言及することなく、抗依存症治療薬をスウェーデンなどから撤退させた。

 

ボストンを拠点とする医療弁護士ロン・ラントン氏は、米国の価格政策の不確実性が企業と株主の関係を複雑にしていると指摘する。同氏は「企業は株主に対して新薬発売で見込める利益について説明する必要があるが、見通しを立てにくくなっているのが現状だ」とし、欧州での新薬販売が停滞しているのは「目隠しをしてチェスをするようなものだからだ」と話した。

 

(取材:Maggie Fick/Bhanvi Satija、編集:Adam Jourdan/Bill Berkrot、翻訳:AnswersNews)

 

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