
片頭痛治療に初めて「急性期治療」と「発症抑制」の両方に使用できる薬が登場しました。ファイザーが昨年末に発売した経口CGRP受容体拮抗薬「ナルティークOD錠」で、これまで予防薬として使用を広げてきたCGRP関連薬が急性期治療にも使用できるようになりました。経口CGRP受容体拮抗薬では、アッヴィもアトゲパントを治療と予防の両方で申請中で、まずは予防薬として近く承認される見通し。開発中の新薬候補には新たな分子を標的とした予防薬も並んでおり、さらなる選択肢の拡大が見込まれます。
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ナルティークが新たな選択肢に
片頭痛は、ずきずきと脈打つような痛みが頭の片側または両側に生じる疾患。吐き気や嘔吐を伴ったり、光や音、においを不快に感じたりといった症状を伴うのが特徴です。日本の15歳以上の有病率は8.4%といわれ、特に20~40代の女性に多いことが知られています。
4~72時間続く痛みや、次の発作がいつくるかわからない恐怖感は日常生活にも大きな支障をきたします。片頭痛が原因の労働遂行能力低下(プレゼンティーズム)による経済的損失は年間3600~2兆3000億円に上るとも推計されています。
薬物療法には、発作の発症時に速やかな症状消失を促す急性期治療と、平時に投与することで発症を抑制する予防治療があります。ファイザーの経口CGRP受容体拮抗薬「ナルティークOD錠」(一般名・リメゲパント)は、国内で初めて急性期治療と予防の両方を適応とする薬剤として2025年12月に発売されました。
CGRP(=カルシトニン遺伝子関連ペプチド)は、三叉神経節や硬膜上の三叉神経末梢に存在する神経ペプチド。CGRPは、疲労やストレス、月経、天候の変化といった誘発因子による刺激を受けると過剰に放出され、血管の拡張や血管周囲の炎症を引き起こします。これによって誘導された痛みが三叉神経を通じて脳に伝わることで片頭痛が起こると考えられています。
ナルティークは、CGRPの受容体に結合してCGRPの働きを抑えることで血管の拡張や炎症を抑制するとともに、三叉神経からの疼痛シグナル伝達を阻害する作用を持ちます。急性期治療では発作時に1錠(75mg)、発症抑制には隔日で1錠を服用。発症抑制目的で服用している場合でも、1日の総投与量の上限を越えなければ発作時にも服用できます。
発作時の頓服薬としては、従来からトリプタン系の薬剤が標準的に使用されてきましたが、血管収縮作用を持つため使用することができない患者が存在しました。トリプタン系以外の薬剤としては、22年に日本イーライリリーの選択的セロトニン1F受容体作動薬「レイボー錠」(ラスミジタン)も承認されており、ナルティークとともにトリプタン系薬を使えない患者にとって有用な選択肢となります。

CGRP関連抗体、予防適応で普及
一方、予防適応では、CGRPを標的とする注射薬として▽「エムガルティ皮下注」(ガルカネズマブ、日本イーライリリー)▽「アジョビ皮下注」(フレマネズマブ、大塚製薬)▽「アイモビーグ皮下注」(エレヌマブ、アムジェン)――が2021年に承認。月1回の皮下注射で、在宅での自己注射も可能です(アジョビは12週に1回の通院投与も可能)。
予防では従来、抗てんかん薬やβ遮断薬などが使用されてきましたが、投与患者の5割で発作が半減するという有効性などを背景にCGRP標的薬が普及。世界では24年時点で片頭痛予防薬の売り上げシェアの約57%を占めるまでに拡大しました。国内でも売り上げを伸ばしており、大塚ホールディングス(HD)の決算によるとアジョビの25年12月期の国内売上高は79億円(前年同期比31.6%増)。エムガルティを販売する第一三共は26年3月期の売り上げを130億円(21.5%増)と予想しています。片頭痛ではかねてから受診率の低さが指摘されており、潜在患者層や医療従事者への啓発活動も盛んです。

アッヴィも治療・予防で申請中
ナルティークに続く急性期と発症抑制の両方に使える薬剤として現在、アッヴィが経口CGRP受容体拮抗薬アトゲパント(一般名)を国内申請中。予防薬として昨年3月に、急性期治療薬として同12月に申請を行いました。予防薬としては厚生労働省の薬事審議会で承認が了承されており、「アクイプタ錠」の製品名で近く正式承認される見通し。予防を目的に使用する場合、同薬は連日服用します。
国内ではこのほか、ルンドベック・ジャパンが予防薬として抗CGRP抗体エプチネズマブを昨年11月に申請しました。

開発パイプラインに目を向けると、小児への対象拡大に向けた臨床試験が進展しています。エムガルティ、アイモビーグ、ナルティーク、アトゲパントの4剤が小児の予防適応で臨床第3相(P3)試験の段階にあり、ナルティークとレイボーは小児の急性期治療でもP3試験を実施中。アジョビはイスラエル・テバが米国で昨年8月に小児適応を取得していますが、日本の権利を持つ大塚のパイプラインにはありません。
新たな標的に対する次世代治療薬の開発も進みます。ルンドベックは現在、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)を標的とする抗体医薬bocunebartについて、予防適応で国際共同P2試験段階。PACAPは視床下部や三叉神経節ニューロンなどに発現するペプチドで、血管拡張や炎症に関わると考えられています。同P2試験には日本を含む14カ国から431人の患者が参加しており、今月12日、同社は従来の治療で十分な効果が得られていない患者に対する効果が確認されたと発表。P3試験の準備を進めています。
アプリや機器の開発も進む
このほか、ヘッジホッグ・メドテック(東京都文京区)は認知行動療法を活用した治療用アプリを開発中。昨年末から検証的治験の被験者募集を開始しました。外来治療と組み合わせ、薬物療法を含む標準治療の補助として承認を取得することを目指しています。海外では昨年4月、米クリック・セラピューティクスが片頭痛予防のデジタルセラピューティクスの承認を取得。治療薬と併用することで発作日数を減らすことが確認されています。
医療機器では沢井製薬も23年12月に、イスラエルのニューロリーフから導入した急性期治療に使う非侵襲型ニューロモデュレーション「レリビオン」の承認を取得。翌年の発売を見込んでいましたが、保険収載が遅れており、自由診療での販売も含めた検討が進んでいます。






