
(写真はいずれもロイター)
[ロイター]米トランプ政権による薬価引き下げと中間業者排除の要請を受け、欧米の製薬企業が患者への直接販売や値下げを打ち出している。
政権は9月、医薬品を安価に直接販売する政府運営のウェブサイト「TrumpRx.gov」を2026年初頭に開設する計画を発表した。
米国の患者は現在、処方薬に対してほかの先進国よりはるかに高い費用を支払っており、価格差が3倍に及ぶことも珍しくない。ドナルド・トランプ大統領は7月、欧米の主要な製薬企業17社に対し、米国での処方薬の価格を大幅に引き下げるよう求める書簡を送った。
欧米製薬企業による米国での直接販売や値下げの動きをまとめた(アルファベット順)。
英アストラゼネカ
アストラゼネカは10月10日、トランプ政権と薬価引き下げに合意した。3年間の関税免除と引き換えに、低所得者向け公的医療保険メディケイドに対して一部医薬品を割引価格で提供する。
同社のパスカル・ソリオCEO(最高経営責任者)は同日、TrumpRx.govを通じて販売する一部の自社医薬品について、最大80%の値下げを想定していると語った。
米ブリストル・マイヤーズスクイブ
ブリストル・マイヤーズスクイブは9月、抗凝固薬「エリキュース」と乾癬治療薬「ソーティクツ」について、米国での価格を引き下げると発表した。ソーティクツは定価から80%割引するとしている。
米イーライリリー
米イーライリリーは6月、肥満症治療薬「ゼップバウンド」の2つの高用量製剤について、8月上旬から自社ウェブサイトを通じて現金払い顧客向けに出荷すると発表した。
11月6日には、ノボノルディスク(デンマーク)とともに、GLP-1受容体作動薬の価格を引き下げることでトランプ政権と合意。高齢者向け公的医療保険メディケアとメディケイド、そして現金払い顧客向けの価格を引き下げる。
独メルク
メルクは10月、「ゴナールエフ」「オビドレル」「セトロタイド」といった同社の不妊症治療薬を直接、消費者に販売する協定をトランプ政権と結んだと発表した。これら3つの薬剤を体外受精に使用する場合、定価から計84%の割引が適用される。
トランプ氏はまた、同社が米国で販売するすべての新薬について、ほかの先進国と同水準の価格で提供されると述べた。
デンマーク・ノボノルディスク
ノボノルディスクは8月、自社薬局、遠隔医療サービス「GoodRx」、その他のプラットフォームとの提携を通じて、現金払いの2型糖尿病患者に治療薬「オゼンピック」を月額499ドルで提供すると発表した。
4月には、遠隔医療企業Hims & Hers、Ro、LifeMDと提携し、肥満症治療薬「ウゴービ」を現金払い顧客に販売していると発表した。
11月6日には、イーライリリーとともに、GLP-1受容体作動薬の価格を引き下げることで政権と合意した。
米ファイザー
ファイザーは10月、トランプ政権と薬価引き下げに合意した。関税の免除を受けるかわりに、メディケイドでの処方薬価格を他の先進国と同水準に引き下げる。
アルバート・ブーラCEOは、同社が米国での研究開発と製造に700億ドルを投資し、関税について3年間の猶予期間が設けられたと述べた。
米国研究製薬工業協会(PhRMA)
業界団体のPhRMAは9月、患者がメーカーから処方薬を直接購入できるウェブサイト「AmericasMedicines.com」を26年1月に開設すると発表した。
スイス・ロシュ
ロシュのトーマス・シネッカーCEOは7月、米政府との協議の一環として、米国での処方薬の直接販売を検討していると語った。
業界関係者はロイターに対し、このモデルは、無保険の人や十分な保険に加入していない人だけでなく、保険会社を通じた医薬品の費用と現金価格を天秤にかける被保険者にとっても魅力的である可能性があると指摘した。
仏サノフィ
サノフィは9月、有効な処方箋を持つ米国のすべての患者に対し、保険の有無にかかわらず、すべてのインスリン製品を月35ドルで提供すると発表した。
デンマーク・ジーランドファーマ
ジーランドファーマは9月、ロシュと共同開発している肥満症治療薬について、従来の保険チャネルに加え、患者への直接販売モデルも検討しているとロイターの取材に語った。
(まとめ:Javi West Larrañaga/Emanuele Berro、編集:Helen Reid/Milla Nissi-Prussak/Matt Scuffham)



