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迫る医薬品関税発動、製薬企業が米国への大型投資を相次ぎ表明…アストラゼネカも「30年までに7兆円超」

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ロイター通信

ワシントンで開かれたイベントで製造拠点への投資に関する文書に署名したアストラゼネカのパスカル・ソリオCEO(前列左)とバージニア州のグレン・ヤンキン知事(同右)=2025年7月21日、ロイター

 

[ワシントン ロイター]英アストラゼネカが2030年までに米国で500億ドル(約7.3兆円)の巨額投資を行うと発表した。トランプ政権が医薬品に関税を課す構えを見せる中、製薬企業は相次いで米国への大型投資を表明している。

 

工場新設、研究開発拡大

アストラゼネカは、今回の一連の投資でバージニア州に新たな医薬品製造施設を建設し、メリーランド、マサチューセッツ、カリフォルニア、インディアナ、テキサスの各州で研究開発と細胞療法の製造を拡大するとしている。今回の投資はまた、米国での臨床試験サプライネットワークを刷新し、新規医薬品への継続的な投資を支援するものとなる。

 

同社は、2030年までに年間売上高800億ドルを目指す目標達成に米国事業の拡大が不可欠だと強調。目標とする売上高800億ドルの半分は米国からもたらされることになると指摘した。

 

2024年のアストラゼネカの年間売上高のうち、米国は40%以上を占めている。同社はトランプ氏の大統領復帰以前から、最大市場である米国への投資を優先してきた。

 

トランプ氏は医薬品に関税を課す方針を示し、米国内での製造拡大を目指している。製薬業界は歴史的に関税の影響を受けてこなかった。

 

価格は「均等化」すべき

トランプ氏は製薬企業に対し、米国で販売する医薬品の有効成分や完成品について、輸入ではなく米国内での製造を求めている。加えて、米国での販売価格を他国並みに引き下げることも要求している。

 

アストラゼネカのパスカル・ソリオCEOは米ワシントンで投資計画を発表した際、医薬品の価格は他国でも引き上げて「均等化」すべきだとし、それによって米国以外の国が研究開発により大きく貢献することになると指摘。「米国が全世界の研究開発費を負担することはできない」と語った。

 

米商務省は現在、医薬品への関税発動に向けた調査を行っている。ハワード・ラトニック商務長官はアストラゼネカが出した声明に「何十年もの間、米国人は主要な医薬品を海外からの供給に依存してきた。新たな関税政策は、この構造的な弱点を打破することに焦点を当てている」とのコメントを寄せた。

 

トランプ氏はこれまで、繰り返し医薬品への関税をちらつかせてきた。今月初めには、関税への「体制を整える」ため、製薬企業に1年から1年半の猶予を与える考えを示した。

 

アストラゼネカは、投資表明のタイミングと場所は米国の政策環境に関連しているものの、一部の投資は将来に向けたインフラ整備のため関税の有無にかかわらず実施されていたものだと強調。今回の投資は24年11月に発表した35億ドルの投資に追加して行うとしている。

 

ロシュも500億ドル投資

500億ドルという投資規模は、スイス・ロシュが今年4月に発表したコミットメントに並ぶ。米イーライリリー、同ジョンソン・エンド・ジョンソン、スイス・ノバルティス、仏サノフィが今年、米国への大型投資を表明しており、アストラゼネカの動きはこれらに続くものだ。

 

ワシントンで行われた発表には、トランプ氏の熱心な支持者であり、政権の関税政策を擁護してきたバージニア州のグレン・ヤンキン知事も同席した。アストラゼネカによると、同州に新設する製造施設は同社にとって最大の単一製造投資となる。新施設では、経口GLP-1受容体作動薬や経口PCSK9阻害薬などの有効成分を製造する予定だ。

 

同社は一連の投資で数万人の新規雇用が創出される可能性があるとしているが、具体的な数字は明らかにしていない。同社は米国で約1万8000人を雇用しており、グローバルでは約9万人の従業員を抱える。

 

アストラゼネカは今年1月、イングランド北部のワクチン工場で計画していた4億5000万ポンド(6億710万ドル)の投資について、政府支援の削減を理由に中止した。今月初めには、同社が株式上場をロンドンから米国に移すことを検討していると英タイムズ紙が報じた。同社はこの報道に対するコメントを避けている。

 

(取材:Maggie Fick/Ahmed Aboulenein/Caroline Humer、編集:Josephine Mason/Jan Harvey/Matthew Lewis、翻訳:AnswersNews)

 

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