
抗アレルギー薬の眼瞼クリーム剤や近視進行抑制薬など、眼科領域でユニークな製品を世に送り出す参天製薬。その根底にあるのが、アンメットニーズから逆算した製剤開発です。3月19日に同社が開いた製品創製説明会で、製剤設計思想の中身と、現在は硝子体内注射が中心の後眼部疾患に点眼でのアプローチを目指す将来像が語られました。
差別化戦略の中核に送達技術
参天は、薬物送達技術をR&Dにおける他社との差別化戦略の中核に据えています。
その代表例が、眼科用抗アレルギー薬「アレジオン眼瞼クリーム」や近視進行抑制薬「リジュセアミニ点眼液」です。製品研究統括部長の山田和人氏は、これらの製品について「アドヒアランスの低さや標準治療がないなど、眼科市場の未充足ニーズを満たすという治療コンセプトから逆算して設計した」と話します。
アレジオン(一般名・エピナスチン)は、2013年に1日4回点眼の点眼液として発売。その後、19年に1日2回点眼のLX点眼液を、24年には1日1回まぶたに塗るクリーム製剤を発売しました。山田氏は「これらは単なるバリエーションではない。治療継続を支えるための設計だ」と強調。一般的な点眼薬を用法に従って正しく使用できる患者は全体の3割程度にとどまるともいわれます。
眼瞼クリームの治療コンセプトは「結膜内のエピナスチン濃度を、かゆみを抑えるために必要な濃度以上で長時間維持すること」(山田氏)。アドヒアランスの低さゆえに1日複数回の点眼では薬物濃度が十分に維持されないケースも多く、就寝前の1回の使用で日中の症状を抑えることを目指して設計されました。
製剤は、水溶性のエピナスチンをオイルベースのクリーム処方として設計。有効成分を溶解状態で油層に分布させることで、まぶたから結膜に効率的・持続的に浸透させることを可能にしました。点眼と比べて薬物曝露を長く維持することが確認され、1日1回の塗布というシンプルな用法を実現。製剤技術で製品価値を高めました。
関連記事:参天製薬、眼科用抗アレルギー薬アレジオンを「塗り薬」にした理由
もう1つのリジュセアミニは、25年発売のアトロピン製剤。眼軸長(角膜から網膜までの長さ)が伸びるのを抑え、近視の進行を抑制します。アトロピンの近視抑制効果自体は古くから知られていましたが、散瞳による羞明(通常の明るさでもまぶしく不快に感じること)の副作用があり、従来、処方薬としては使用されていませんでした。そこで、「長期使用を前提とした安全性を保ちながら、児童が治療を継続できるよう処方、評価系、臨床試験の設計を行った」(山田氏)といいます。
製剤設計では、ターゲット部位である後部強膜への移行性を向上させつつ、散瞳に関わる虹彩・毛様体への移行性を抑えるよう、pHなどを調整。基剤には粘度を持たせ、より効果が保たれるよう工夫を施しました。

硝子体内注射に代わる送達手段の確立目指す
そうした設計思想で挑むのが、点眼による後眼部へのアプローチです。
そもそも点眼薬は、投与しても薬剤の8~9割はまばたきや涙で失われてしまいます。このため、角膜と水晶体の間を満たす房水に到達するのは約1000分の1にとどまり、さらにその奥の後眼部組織に届くのは1万分の1にも満たないといいます。
こうした限界を突破するため、参天は現在、新たなナノキャリアの開発を進めています。粘膜付着性を高めて薬剤を眼表面に長くとどまらせるとともに、結膜、強膜、脈絡膜を経て後眼部に薬剤を送達できるかどうかを検討しています。

粘膜付着性の向上には、ドライアイ治療薬「Cationorm」や重症角膜炎治療薬「Ikervis」などに使われているカチオン性乳化技術(乳化点眼液に正の電荷を付与し、眼表面の薬物保持性を高める技術)や、リジュセアミニで培った製剤ノウハウを活用。「まだ具体的な成果を示す段階ではない」(山田氏)としていますが、将来的には硝子体内注射に代わる非侵襲的送達手法として確立することを目指しています。クリーム剤についても、点眼薬に代わる新たな非侵襲的なプラットフォームとして将来の製品開発に活かしていく方針です。
期待の翼状片治療薬は30年度以降発売
こうした眼科領域への深い理解と、それに基づく製剤設計の思想は、外部からのパイプライン獲得にもつながっているといいます。
同社コーポレートストラテジーグローバルヘッドの渡邉智久氏は「眼科患者のニーズや医療課題への理解に基づき、既存薬のリポジショニングや製剤改良を開発できる力、各地域での強固な営業基盤などの相乗効果が、メガファーマが扱わない疾患の開発品を幅広く引き寄せ、獲得する力にもつながっている」と話します。
同社が新たな市場開拓の期待をかける導入アセットの1つが、24年8月に米クラウドブレイクから導入した翼状片治療薬「STN10142」(開発コード)です。翼状片とは、結膜下の組織(白目部分)が異常増殖し、角膜(黒目部分)の中心に向かって三角形状に入り込んでくる疾患。国内の潜在患者数は400万人で、緑内障に匹敵する規模です。良性腫瘍ではありますが、異物感や充血、進行すると乱視などを引き起こします。根治治療は手術のみです。
翼状片は紫外線への曝露による酸化ストレスなどで上皮成長因子受容体(EGFR)が活性化し、血管新生や線維化を促すことで進行します。STN10142は抗線維化薬ニンテダニブを有効成分とし、VEGF受容体やPDGF受容体、FGF受容体に作用して効果を発揮します。
米国で行われた臨床第2相(P2)試験では、翼状片の血管分布の減少と長さの縮小でプラセボに対する優位性が確認されました。チーフ・メディカル・オフィサーのピーター・サルスティグ氏は、「ファーストインクラスの非侵襲的アプローチ。手術のみが選択肢だった市場に新たな治療カテゴリーを確立する可能性がある」と期待します。参天は日本と韓国、東南アジアで権利を持ち、日本で昨年11月にP2試験を開始。30年度以降の発売を見込んでいます。
もう1つ、中国をはじめとするアジア市場での展開を見込むのが、中国RemeGenから導入したVEGF-AとFGF-2を同時に阻害する二重特異性タンパク質「STN10143」(eflimrufusp alfa)。血管新生と線維化・瘢痕化の両方を抑え、抗VEGF治療の長期アウトカムの改善を期待します。中国では糖尿病黄斑浮腫治療薬として申請済みで、加齢黄斑変性を対象とする臨床第3相(P3)試験も進行中です。「後眼部疾患は中国市場の成長を牽引する領域」(渡邉氏)といい、同じく中国のアークティック・ビジョンから導入したぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫治療薬「ARVN001」も、中国で27年度の発売を予定しています。

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
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