
2015年ごろから独自の創薬ビジネスモデル「フォーカスエリアアプローチ」に基づく研究開発に取り組むアステラス製薬。これまでPoC(コンセプト検証)の取得に苦労してきましたが、2024年度に1つ、25年度に3つのPoCを達成し、ようやく具体的な進展が見えてきました。期待の標的タンパク質分解誘導薬「ASP3082」など、PoCを取得した品目について後期開発を加速させます。
3つの新薬候補で4つのPoC達成
フォーカスエリアアプローチは、▽バイオロジー▽モダリティ/テクノロジー▽疾患――の組み合わせで重点的に研究開発投資を行う分野を決める手法。3要素を頂点とする三角形が完成すれば、「プライマリフォーカス」としてリソースを優先的に配分します。
現在のプライマリフォーカスは「がん免疫」「標的タンパク質分解誘導」「遺伝子治療」「再生と視力の維持・回復」の4つ。それぞれに「フラッグシッププログラム」と位置付ける新薬候補があり、アステラスはそれらの開発に力を入れています。
アステラスは2015年ごろからフォーカスエリアアプローチへの経営資源配分を徐々に増やし、18年度以降は中期経営計画で研究開発の基本戦略に位置付けています。これまでPoCの取得に時間を要してきましたが、24年度から25年度にかけて3つのフラッグシッププログラムで4つのPoCを達成。後期開発へと進む段階に入ってきました。

遺伝子治療もPoC見極め
現時点でPoCを取得しているのは、
▽「がん免疫」の抗Claudin18.2/抗CD3二重特異性抗体「ASP2138」
▽「標的タンパク質分解誘導」のKRAS G12D分解誘導薬「ASP3082」(一般名・setidegrasib)
▽「再生と視力の維持・回復」の網膜色素上皮細胞「ASP7317」
――。ASP2138は胃腺がん・食道胃接合部腺がんが対象で、ASP3082は膵がんと非小細胞肺がんの2適応でPoCを取得しました。ASP7317は地図状萎縮を伴う加齢黄斑変性に対する細胞治療です。
「遺伝子治療」のプライマリフォーカスのフラッグシッププログラム「AT845」はポンぺ病を対象としたP2試験の段階にあり、最終的なPoC見極めに向けて追加のデータ解析を進めています。
標的タンパク質分解誘導薬、P3試験の組み入れ開始
中でも期待が大きいのが、標的タンパク質分解誘導薬setidegrasib(セチデグラシブ)です。
KRAS G12D陽性膵腺がんの1次治療を対象にmFOLFIRINOXとの併用療法を評価した臨床第1相(P1)試験では、客観的奏効率(ORR)58.3%、病勢コントロール率(DCR)83.3%を示しました。KRAS G12D変異陽性進行・転移性非小細胞肺がんでは、2次・3次治療での単剤療法を評価するP1試験を行い、ORRは37.5%、無増悪生存期間(PFS)の中央値は11.2カ月でした。
アステラスの谷口忠明・研究開発担当CRDO(Chief Research & Development Officer)は同社が3月31日に開いたR&D説明会で、膵がんに対する効果について「思った以上に効いているという感触を得ている」とコメント。非小細胞肺がんについても「効果の持続性が保たれており、KRAS G12Dタンパク質分解というわれわれの戦略の仮説が証明されてきている」と自信を示しました。

「非常に期待大きい」
膵腺がんではすでに、1次治療を対象にmFOLFIRINOXまたはNALIRIFOXとの併用療法を評価するP3試験の患者組み入れを開始。非小細胞肺がんでも2次治療以降のP3試験の準備を進めています。膵がんは29年度、非小細胞肺がんは28年度にP3試験のデータが判明する見通しです。
谷口氏は「膵がんは化学療法以外に主だった有効性が示されている薬剤がなく、非常に期待が大きい。肺がんではベストインクラスになるかどうか注力して見ていく」と話しました。
がん免疫のASP2138もP3試験の準備を進めており、データは29年度に判明する見込み。すでに販売している抗Claudin18.2抗体「ビロイ」が適用とならない、CLDN18.2 低~中発現の胃がんの1次治療を対象に開発を進めます。
生産性向上へ「規律」徹底
アステラスは3月で21~25年度の経営計画が終了。新たな経営計画は5月26日に発表される予定です。
岡村直樹社長CEO(最高経営責任者)はR&D説明会で、前経営計画の5年間の成果として、▽12の新規有効成分についてP1試験での初回投与を達成▽1つの有効成分でP3試験を開始▽プライマリフォーカスの3つのアセットで4つのPoCを達成――を挙げ、「開発全体を通じてスピードと実行力が着実に高まっている」と評価。25年4月に研究、開発、プライマリフォーカスリードの各部門を統合するなど、組織や働き方を変革したことで「持続的な生産性向上の基盤を構築した」と振り返りました。
もう1つ、岡村氏が前経営計画期間中の成果として挙げたのが、ポートフォリオの「規律」の強化です。前経営計画の5年間で、臨床段階にあった21のプログラムについて開発中止を決定。成功した場合の価値がより高く、失敗リスクのより低いプログラムへのリソースのシフトを進めています。
岡村氏は、前臨床やライフサイクルマネジメントのプログラムも含め「大きく6つの要素でプログラムを評価しており、それが基準に満たないものについてはいつまでも引きずるのではなく、思い切って中止し、そのリソースを有望なプロジェクトに振り替えていくことを積極的に行っている」と強調。谷口氏も「データに基づいて意思決定する文化、規律を持った決定をしっかり行っていく文化の醸成を進めている」と話しました。
売り上げ貢献は2030年代
アステラスでは、年間9000億円超を売り上げる主力の前立腺がん治療薬「イクスタンジ」が27年以降、特許切れを迎えます。これをいかに乗り切るかが短期的に大きな経営課題となっていますが、岡村氏は「重点戦略製品の最大化に注力して特許切れ後の減収の影響を軽減すると同時に、プライマリフォーカスを中心とするパイプラインの開発を加速する。これらを強固なオペレーション効率と財務規律の下で進めることで、足元の課題に対応しながら収益性の高い事業構造の構築を図っていく」と話しました。
フォーカスエリアアプローチから出てきた新薬候補が後期開発に進むことで、26年度以降は研究開発費の増加が予想されますが、ここでも規律を持って優先順位を定め、重要なものから優先的に資源を投入していく考え。フォーカスエリアアプローチ由来のパイプラインは、2030年代の売り上げ貢献を見込みます。





