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ノボ、肥満症薬「適応内の自費診療」もターゲットに「アクセス拡大」主張も問われる戦略の妥当性

更新日

穴迫励二

ノボノルディスクファーマの小谷啓輔社長

 

ノボノルディスクファーマが、肥満症治療薬「ウゴービ」の販売拡大に向け、「適応内の自費診療」の市場をターゲットにする方針を打ち出しました。あくまで保険診療の補完という位置付けですが、適正使用や安全性情報収集などに課題もありそうです。美容目的での不適切な使用が問題視される中、戦略の妥当性が問われます。

 

 

「自費診療、あえて止めるべきではない」

今年1月に就任したノボの小谷啓輔社長は、3月19日に開かれた同社の記者会見で「(ウゴービの)適応内の自費診療を保険診療の補完的な選択肢に」を2026年の最優先事項に掲げました。肥満症患者の1%未満しか治療を受けられていない現状を打開するため、アクセスを拡大するのが目的だと説明。医師と患者の意思決定として自由診療での治療が選択されるなら、ノボとしてあえてそれを止めるべきではないとのスタンスに立ちました。

 

肥満症治療薬にはウゴービのほか、日本イーライリリーの「ゼップバウンド」が販売されていますが、いずれも厚生労働省の最適使用推進ガイドラインで投与可能な施設や医師の要件が定められています。施設基準としては、肥満症の病態や治療に熟知した医師がいることや、学会の教育研修施設に認定されていることなどを規定。医師要件には、臨床経験や専門医資格の保有などを盛り込んでいます。適正使用を推進して安易な処方を制限し、医療保険財政への負担を抑えるのが狙いです。

 

GL要件満たすのは全国に1200施設

こうした要件をクリアしているのは、現在のところ全国約1200施設にとどまります。治療へのアクセスは限られており、受診できたとしてもガイドラインが求める「6カ月の食事・運動療法」などがネックとなって処方に至らない患者も少なくないといいます。医師の間にもガイドラインの厳しさを指摘する声はあり、見直しの必要性を訴える意見も聞かれます。

 

【肥満症治療薬の最適使用推進ガイドライン(抜粋)】 |施設について/高血圧、脂質異常症または2型糖尿病ならびに肥満症の病態、経過と予後、診断、治療を熟知し、本剤についての十分な知識を有している医師の指導のもとで処方が可能な医療機関であること/施設内に、医師要件に掲げる各学会専門医いずれかを有する常勤医師が1人以上所属しており、本剤による治療に携われる体制が整っていること。自施設に所属していない専門医がいる場合は、所属する施設と適切に連携がとれる体制を有していること/医師要件に掲げる各学会のいずれかにより教育研修施設として認定されされていること/常勤の管理栄養士による適切な栄養指導を行うことができる施設であること。実施した栄養指導については診療録等に記録をとること |医師要件/医師免許取得後2年の初期研修を修了した後に、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病ならびに肥満症の診療に5年以上の臨床経験を有していること /高血圧、脂質異常症または2型糖尿病を有する肥満症の診療に関連する日本内分泌学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会のいずれかの専門医を有していること。日本肥満学会の専門医を有していることが望ましい |副作用への対応/当該施設または近隣医療機関の専門性を有する医師と連携し、副作用の診断や対応に関して指導および支援を受け、直ちに適切な処置ができる体制が整っていること

 

「流通を制限することはできない」

ノボが自費診療市場に目を向けた背景にはこうした現状がありますが、一方で懸念や疑問もいくつかあります。

 

ガイドラインは安全性の確保も考慮して策定されており、基準に該当しない施設や医師の下での投与に果たして理解が得られるのでしょうか。アクセスを拡大させるというのであれば、企業としてガイドラインの改訂を厚労省や関連学会などに訴え、要件緩和の実現を目指すのが本筋ともいえます。

 

GLP-1受容体作動薬をめぐっては、美容目的での不適切な使用が問題視されています。小谷氏は「不適切な利用目的の自費診療はまったくサポートしていない」としていますが、メーカーが個々の処方について適切か否かを判断するのは難しいのが現状。小谷氏も「流通を制限することはできず、その先はコントロールできない」と話します。ノボは、情報提供を徹底し、保険+自費で患者のニーズに応えたいとしていますが、安易な使用を助長しないか、不安は拭えません。

 

ゼップバウンドが追い上げ

自費診療市場を取り込もうとする背景には、ゼップバウンドとの競合状況もありそうです。調査会社メディカル・データ・ビジョンが434病院を対象に集計した処方患者動向によると、ゼップバウンドの立ち上がりはウゴービより早いことがわかります。この集計には自由診療のクリニックなどは含まれないため、実際の処方動向の把握は難しい面もありますが、両剤の競合は激しさを増しています。

 

【肥満症治療薬 処方患者数の推移】〈時期(年/月)/ウゴービ(人)/ゼップバウンド(人)※集計対象:全国434病院〉2024年2月/3/0|3月/4/0|4月/20/0|5月/33/0|6月/44/0|7月/65/0|8月/86/0|9月/125/0|10月/178/0|11月/217/0|12月/290/0|2025年1月/337/0|2月/366/0|3月/408/0|4月/497/13|5月/553/30|6月/586/67|7月/685/98|8月/702/125|9月/763/177|10月/878/258|11月/878/338|12月/1000/462|※データ提供:メディカル・データ・ビジョン

 

リリーとの競争で、ノボは厳しい状況に追い込まれています。直近では、ウゴービの後継と位置付けるカグリセマ(一般名)の臨床試験で、体重減少効果がゼップバウンドを下回りました。これについて小谷氏は「体重減少効果のみで(優劣を)語られることが多いが、心血管リスクの低減などが(本来の)治療目的」と強調。会見に同席したマルチン・ジヒマ開発本部長も「体重減少の差は1kg強であり、患者視点では両薬の差はごく小さい」とし、臨床的に劣るとは言えない可能性があるとの考えを示しました。

 

ゼップバウンドは「要請あった場合に限りリアクティブな対応」

ノボが会見で発表した25年の国内売上高は前年比5.4%増で、1420億円程度と推計されます。増収を支えたのは糖尿病治療薬の経口GLP-1受容体作動薬「リベルサス」。26年はさらに2桁成長を目指すとしており、ウゴービの自費診療市場での拡大をどこまで織り込んでいるのか興味深いところです。

 

ゼップバウンドを手掛けるリリーと田辺ファーマも販売環境は同じです。自費診療での使用も一定程度あるとみられますが、両社は「投与が必要であると医師が認めた場合、われわれがそれを否定することはできない」との考えです。ガイドラインの要件を満たさない施設に対しては、医師から相談や情報提供の要請があった場合に限った「リアクティブな対応」にとどめていると説明。ゼップバウンドが自費診療でどのくらい使用されているかについては「答えを持ち合わせていない」としました。

 

爆発的に売り上げ伸ばすマンジャロ

ゼップバウンドと同成分の糖尿病治療薬「マンジャロ」の処方実態にもあらためて目が向けられそうです。同薬は出荷が正常化した24年春以降、直線的に右肩上がりで売り上げを拡大しており、すでに薬価ベースで月間120~130億円レベルに達しています。適応はあくまで2型糖尿病であり、通常であればこうした爆発的な伸びは考えづらいところです。

 

ノボが説明するとおり、メーカーの手を離れると、どこでどのように処方されているのか把握するのは難しいのが実情です。美容目的の不適切使用は言うまでもありませんが、適応内とはいえ自費診療で適正使用をどう確保していくのか、GLP-1製剤全体として対応が求められそうです。

 

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