
大型化を期待していたアトピー性皮膚炎治療薬ロカチンリマブの臨床試験を中止した協和キリン。将来の主力品候補を失った中でどう成長を目指すのか。3月19日にCEO(最高経営責任者)に就任したアブドゥル・マリック社長に話を聞きました。
中長期目標達成「ロカチンリマブだけによるものではない」
――ロカチンリマブ(一般名)について、安全性を理由に臨床試験の中止を決めました。どのように受け止めていますか。
非常に残念なニュースです。世界中の患者さんにライフチェンジングな価値を提供できると期待していましたから。しかし、患者さんの安全が最優先です。非常に厳しい決断でしたが、正しい決定だと考えています。
われわれもロカチンリマブについて多くの発信を行ってきましたし、協和キリンはロカチンリマブだけの会社だと思われているかもしれません。全体像を理解してもらうことが大切であり、それは私たちの責任だと思っています。
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――2月に2030年代前半までの中長期構想を発表しました。CEOに就任し、その実現をリードしていく立場になりましたが、中長期構想に込めたマリックさんの思いや考えをお聞かせください。
私たちの会社の本質は、日本発のグローバル・スペシャリティファーマとしてライフチェンジングな価値を創造し、患者さんに笑顔をもたらすと謳った「ビジョン2030」にあります。多様でイノベーションへの情熱を持ったチームをリードし、ビジョンを実現していくのが私の仕事であり、中長期構想はビジョンを成果に変えるための方法です。
まずは成長を続けることが重要です。主力製品の「クリースビータ」「ポテリジオ」「リブメルディ/レンメルディ」は真にライフチェンジングな医薬品だと思っています。しかし、必要とする患者さんの一部にしかまだ届いていないと考えています。
もう1つが研究開発の加速です。ジフトメニブ(一般名)は現在、急性骨髄性白血病(AML)の1次治療で臨床第3相(P3)試験に入っています。大きなアンメットニーズがあり、私たちにとって大きなビジネスチャンスです。
早期のパイプラインにも重要なアセットがあります。抗FGF23抗体の「KK8123」(開発コード)はX染色体連鎖性低リン血症(XLH)にまだ残るアンメットニーズに対応するものです。AMLを対象に開発中の「KK2845」(同)は当社初の抗体薬物複合体(ADC)であり、非常にワクワクしています。希少疾患に対する造血幹細胞遺伝子治療では、ムコ多糖症I型(ハーラー症候群)を対象に「OTL-203」を開発中です。協和キリンはこうした分野ですでにケイパビリティを持っており、これまで培ってきた専門知識、ケイパビリティ、インフラを活用して患者さんに届けていきたいと考えています。
組織構造、意思決定、コスト構造は見直していく必要がありますし、AIの活用も進めていきます。将来に向けて強固な基盤を築いていくため、これらを並行して進め、売り上げ成長と効率化によって利益率の改善を図っていきます。
後期臨床開発段階や商業化準備段階にあるアセットをポートフォリオに加え、インオーガニックな成長も目指します。手元には現金があり、借り入れも可能です。ロカチンリマブがなくなってしまったのは非常に残念ですが、その分、戦略投資や研究開発投資の余力が生じました。
こうしたことに取り組むことで、中長期構想で掲げた目標の達成に自信を持つことができます。目標達成はこうした取り組み全体の成果として期待されるものであり、ロカチンリマブだけによるものではありません。
後期パイプラインは「薄い」導入・M&Aで強化
――中長期構想では「2030年代前半までに20個以上の新規パイプライン、10以上の適応での米FDA(食品医薬品局)承認」を目標の1つに掲げています。どのようにパイプラインの強化を図っていきますか。
協和キリンは2017~25年に7つのFDA承認を取得しており、17~22年に限れば日本企業で最も多くのFDA承認を得ています。
パイプラインの拡充に向けて、まずは社内の研究から適切な品目を選び、できるだけ開発を加速させて患者さんに届けていきます。さらに、戦略投資によって外部のアセットを追加していきます。
3月19日付で執行役員制度を廃止し、「C-suite Executive」という新たな経営体制を導入しました。新体制では、研究と開発を分けてそれぞれ担当役員を任命し、研究担当は革新的な初期のプロジェクトに、開発担当は有望な新薬候補の開発加速に専念します。戦略担当も役割ごとに2つに分け、1人はポートフォリオの優先順位付けに、もう1人は事業開発に注力します。こうした体制で、パイプラインの強化と開発の加速を図っていきたいと考えています。

――現在のパイプラインについてはどのように評価していますか。
後期のパイプラインは薄いと考えており、導入やM&Aを通じてここを強化していくことが私たちにとって非常に重要です。一方、先ほどお話したとおり、早期段階には非常に有望な化合物があります。新たな経営体制の下、いち早く患者さんに届けるための道筋を加速させていく必要があります。
われわれはフォーカス領域(骨・ミネラル、血液・血液がん、希少疾患)にリソースの70%を配分しており、フォーカス領域では戦略的な投資も行ってパイプラインを強化していきます。
一方で、パイプラインにはフォーカス領域以外にも非常に有望で期待される新薬候補が控えています。P2試験を実施中の眼疾患治療薬「KHK4951」、P1試験の段階にある固形がん向け二重特異性抗体「KK2260」「KK2269」、同じくP1試験実施中の本態性高血圧症向け抗体医薬「KK3910」などです。こうしたアセットについては、「戦略的パートナーシップアセット」として連携するパートナーを探します。
コアビジネスに集中
――中長期構想では財務目標として30年代前半にコア営業利益率30%、ROE10%台前半を掲げています。パイプラインの強化や研究開発の加速と収益性向上をどう両立させていきますか。
私たちはフォーカス領域で非常に強力なケイパビリティとインフラを築いてきました。これらを活用すれば、商業化に必要な追加投資や開発投資を抑制でき、容易に管理できると考えています。
たとえば、ロカチンリマブが対象としていたアトピー性皮膚炎のような疾患では、大規模な臨床試験と多大な販管費が必要になります。一方、われわれがフォーカスする領域はそうではありません。すでに整っているケイパビリティとインフラを使ってスムーズに製品を市場投入することができます。フォーカス領域に集中することは、開発の成功確率を高めるだけでなく、より効率的な販売を可能にします。
私たちはこれまで、ロカチンリマブを患者さんに届けられると信じてやってきましたが、他のパイプラインや外部アセットへの投資については妥協しなければならない面もありました。ロカチンリマブの中止は非常に残念ですが、それによってコアビジネスに集中できるようになり、ほかの機会とのバランスを取ることが可能になりました。
――ロカチンリマブの中止によって中長期構想の目標達成のハードルは上がったとは考えていませんか。
確かにロカチンリマブの中止は機会損失をもたらしました。しかし、現在のビジネスの中にも多くの成長ドライバーがあります。グローバル製品の継続的な成長、既存パイプラインの加速、収益性の改善、事業開発。こうしたものを組み合わせることで目標を達成できると確信しています。
――近年、グローバル化に向けて事業構造の再編や経営体制の見直しなどを進めてきました。中長期構想のフォーカスである2030年代前半を見据えたとき、まだやらなければならないことは残っていますか。残っているとすればそれは何でしょうか。
変革が終わるということは決してありません。世界は変化し続けており、企業はそれに適応していかなければなりません。われわれが掲げるビジョンを外部環境と照らし合わせ、必要な変化を取り込んでいく必要があります。
現在、社内で取り組んでいる変革の1つに「アジャイルな仕事のしかたをどのように導入していくか」ということがあります。グローバル化を進め、非常に強力なケイパビリティを構築してきましたが、一方で機能や地域で組織がサイロ化してしまっているという課題があります。そこで、部門や地域の壁を取り払い、小規模で権限を持ったクロスファンクショナルなチームが、効率的かつ迅速にライフチェンジングな価値を届けられるような仕事のしかたを検討しています。
AIの活用も重要です。バリューチェーン全体でAI活用や自動化をどう進めていくか検討しています。
持続可能な事業基盤「日本だけの課題ではない」
――グローバル製品の成長により、海外売上収益比率は25年12月期実績で74%まで上昇しました。一方、日本の売り上げ比率は低下を続けていますが、2030年代前半には日本と海外の売り上げ構成はどのようになっていると考えていますか。
私は、そうした比率についてはあまり考えていません。優先すべきは、世界中の患者さんにイノベーションを届けること、世界中の患者さんにライフチェンジングな価値を届けることです。特定の市場に焦点を当てるのではなく、イノベーションを世界の市場に届けたいと考えています。
われわれの3つのグローバル製品のうち、クリースビータとポテリジオはすでに日本でも販売しており、リブメルディ/レンメルディも日本に展開しようとしています。われわれとしてはより多くの製品を世界中に届けたいと考えています。2030年代前半までにグローバル製品の数が増え、現在の北米・欧州中心ではなく、世界中に成長ドライバーを持っている状態を実現できたらと思っています。
――日本では24年、25年と2年連続で希望退職者の募集を行いました。25年は募集の目的を「より持続可能な姿へと大胆に転換し、組織能力の一層の強化を図る」としていましたが、日本事業は持続可能な姿になりましたか。まだ効率化・適正化の余地は残っているのでしょうか。
これは日本だけでなく、グローバルビジネス全体に共通する課題だと考えています。私たちが直面している環境や逆風、そして機会を考慮すると、最適な事業構造・事業基盤とは何なのか常に見極めていく必要があります。経営チームはそうしたことを継続的に検討し続けなければなりません。特に昨今の環境下では、状況が安定していると満足することは決してないと考えています。




