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米政権のワクチン政策変更、裁判所が差し止め命じたが実害はすでに発生している

更新日

ロイター通信

(写真:ロイター)

 

[シカゴ ロイター]米連邦地裁が3月16日、ロバート・F・ケネディ・ジュニア厚生長官が主導するワクチン政策変更の差し止めを命じた。しかし、数カ月にわたる混乱によってワクチンに対する疑念はすでに広がっており、これを覆すのは簡単なことではない。

 

「覆水盆に返らず」

「覆水盆に返らず。私たちはこれを受け入れて生きていくしかない」。ミネソタ大感染症研究政策センターのマイケル・オスターホルム所長はこう話す。

 

米国小児科学会などがケネディ氏と保健福祉省(HHS)を相手に起こした訴訟で下された判断は、小児への推奨ワクチンを減らすなどケネディ氏が進めてきた政策見直しにストップをかけるものだ。ただ、政府が地裁の判断を不服として控訴した場合、差し止め命令は一時的なものに終わる可能性もある。

 

地裁は、ケネディ氏が予防接種諮問委員会(ACIP)の委員17人全員を解雇し、自身の考えに近い人物を指名したことについて、合法的な人選が行われなかったと指摘した。ACIP委員の解雇に対しては、米国のワクチン開発計画を不安定化させ、信頼性を損なう可能性があると専門家らが警告していた。地裁判事の1人は、ケネディ氏が指名した委員のほとんどは「明らかに不適格」だと述べた。

 

小児科学会の代理人弁護士リチャード・ヒューズ4世氏は、訴訟には勝利したものの、損害はすでに生じているとの認識を示した。同氏は「科学に基づくワクチン政策の破壊を食い止めるため、この訴訟は必要だった」と語った。

 

一方、HHSの報道官は「控訴審でこの判断が覆されることを期待している」とコメントした。

 

ワクチン接種を縮小したケネディ氏

ケネディ氏は過去1年間で行ったワクチン政策の見直しは、従来のエビデンスに基づく推奨プロセスを回避するものが多かった。

 

新たに組織されたACIPでは昨年9月、新型コロナウイルスワクチンの定期接種の推奨を撤回。かわりに、医師と相談して接種するかどうか決める「共同臨床意思決定(shared clinical decision-making)」を推奨した。

 

12月の会合では、長年続いてきた新生児に対するB型肝炎ワクチンの推奨の撤回を決めた。従来の政策は小児のB型肝炎ウイルス感染を99%減らすことが示されているが、変更の裏付けとなる科学的根拠はなかった。

 

小児へのB型肝炎ワクチン接種の推奨撤回を決めた2025年12月のACIPの会合(ロイター)

 

ケネディ氏は今年1月、専門家委員会の意見や科学的根拠を一切考慮することなく、連邦政府が定める小児のワクチン接種スケジュール全体を縮小し、4種類のワクチンを定期接種推奨から共同臨床意思決定の対象に変更。疾病対策センター(CDC)は最終的に推奨するワクチンを17から11に減らした。

 

専門家は、従来から保護者には医師とワクチンについて相談する選択肢があったと指摘。ミネソタ大のオスターホルム氏は「わざわざ医師と相談しなければならないとなると、そこに疑念が生じることになる」とし、定期接種から個別相談への変更はワクチンの安全性に対する疑念を抱かせることになると話した。

 

多くの州はCDCに従わず

一方、米国の多くの州は、政策変更に伴うCDCの小児ワクチン接種ガイドラインに従うのを拒否している。

 

非営利の健康政策団体KFFの調査によると、3月10日時点で、コロンビア特別区を含む30の州が、少なくとも一部の小児用ワクチンについてCDCの新たな勧告に従わないと表明した。このうち27の州は、小児用ワクチンに関するCDCの指針を一切参考にしないと回答。そうした州のほとんどは、かわりに小児科学会の見解に従うとしている。

 

小児科学会はこれまで、連邦政府とワクチン接種スケジュールを調和させるべく努めてきた。しかし昨年、「ACIPのプロセスはもはや信頼できない」として長年の慣例を破った。

 

昨年8月、ケネディ氏のワクチン政策に抗議してほかの3人とともにCDCを辞職した元CDC国立予防接種・呼吸器疾患センター長のデメトレ・ダスカラキス博士は、政策変更に警鐘を鳴らすことができ喜ばしいと語った。「今こそ、HHSの行動がもたらした損害と、それによって蔓延を許してしまった病気を食い止めるための修復作業が必要だ」と言う。

 

保護者は混乱

政策の急変に保護者たちは混乱している。

 

小児科医らによると、政策の目まぐるしい変化は保護者に矛盾したメッセージを与え、さらなる疑問を生じさせている。なかには、ビタミンKの投与など新生児に対する通常の医療さえ疑問視し出す保護者もいるという。ジョージ・ワシントン大の医療法・政策専門家、アリソン・バーコフ氏は「どうしたらいいのか分からず困惑する保護者の声が医療現場に寄せられている」と話す。

 

KFFが2月に行った世論調査によると、信頼できるワクチン情報という観点でのCDCへの信頼度は、新型コロナのパンデミックが始まって以来、最低水準まで落ち込んでいることが明らかとなった。

 

KFFのシニアアナリスト、ジェン・ケイツ氏は、裁判所が差し止め命令を出したからといって、数カ月にわたる政治化された議論をただちに無にすることはできないと指摘。「スイッチを切り替えるように『はい、元の状態に戻りましょう』と言えるようなものではない」と語った。

 

(取材:Julie Steenhuysen、編集:Caroline Humer/Matthew Lewis、翻訳:AnswersNews)

 

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