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次世代モダリティが社会に実装されるということ【コラム】

更新日

黒坂宗久

2月から3月にかけて、いわゆる次世代モダリティをめぐる2つの大きな出来事がありました。1つは、iPS細胞を使った再生医療等製品が世界で初めて承認されたこと。もう1つはデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の遺伝子治療薬に3億円超という国内過去最高の薬価がついたことです。

 

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こうしたニュースに触れ、「ここまで来たか」と科学や技術の進展に期待を感じる人がいる一方で、その価値をどのように評価すべきなのか、戸惑いや疑問を感じた人も少なくないのではないでしょうか。実際、DMD向け遺伝子治療薬の薬価をめぐっては、SNSでも議論が巻き起こりました。今回のコラムでは、遺伝子治療や細胞医療といった次世代モダリティが実用化されることの意味について、あらためて考えてみたいと思います。

 

医薬品のモダリティは従来、低分子化合物や抗体などが主流でしたが、近年では核酸、遺伝子、細胞など多様化しています。これら新しいモダリティに対する期待の1つが、疾患の根本原因にアプローチすることで根治をもたらしうる点にあると言えるでしょう。遺伝子の欠損や異常によって起こる疾患に対して外から正常な遺伝子を補う、あるいは損傷した組織を細胞で修復するといったコンセプトは長らく考えられてきたものであり、膨大な時間とリソースを使ってようやく実際の医療として患者さんのもとに届き始めているというのが昨今の状況です。

 

新しいモダリティの実用化では、特に安全性の確保が重要です。たとえば遺伝子治療なら、目的とする部位以外に影響が生じないことをどのように確認するのか、体内に導入された遺伝子やベクターが長期的にどのような振る舞いをするのか、といった点を慎重に見極めなければなりません。細胞を使った再生医療では、移植後の細胞が過剰に増殖してがん化するリスクに目配せする必要があります。従来のモダリティに比べて生体への影響が長期にわたる可能性があるからこそ、より慎重な評価が求められてきたと言えます。製造、輸送、保管にも課題や配慮すべきことがあり、ものによっては投与や移植に手技を要するものもあります。

 

「トリレンマ」ますます顕在化

こうしたさまざまなハードルを乗り越え、新規モダリティが実際に薬事承認され、保険適用されるということは、ただ単に「新しい治療法が使えるようになる」ということではありません。先端的な治療法が国の医療制度や社会保障の枠組みの中で扱われる存在に位置付けられることを意味します。

 

DMD向け遺伝子治療薬やiPS細胞由来の再生医療等製品は、条件・期限付き承認制度の下で承認されており、SNSではそのことについてもいろいろな意見が飛び交うのを見ました。この制度は、少数の治験で安全性が確認され、有効性が推定された段階で実用化への道を開き、患者さんに早期にアクセスを提供するものです。一方で、有効性が推定の段階にある治療について、その価値をどのように評価すべきか、費用を誰がどのように負担すべきなのかといった問いも同時に生じます。「アクセス」「質」「コスト」の3つを同時に成り立たせようとしてきたのが日本の医療ですが、次世代モダリティの社会実装が進むにつれ、ますますこれらの「トリレンマ」が顕在化してくることになるでしょう。

 

これまでの医療の多くは、疾患と長期にわたり付き合いながら症状をコントロールしていくものでした。一方で、遺伝子治療や細胞医療は、1度の介入によってその後の人生を大きく変え得る可能性を持っています。こうした違いは、医療費の支払いモデルやフォローアップの体制、さらには患者さんやご家族の意思決定のプロセスにも変化を促すことになるでしょう。

 

新しいモダリティの登場は、科学技術の進展そのものを示すだけでなく、医療の価値をどのように評価し、社会としてどのように支えていくのかという問いを私たちに投げかけています。iPS細胞由来の再生医療等製品の承認や遺伝子治療薬の薬価は、そうした問いが現実のものとして立ち現れつつあることを示す象徴的な出来事と言えるでしょう。

 

※コラムの内容は個人の見解であり、所属企業を代表するものではありません。

 

黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。アステラス製薬アドボカシー部所属。免疫学の分野で博士号を取得後、約10年間研究に従事(米国立がん研究所、産業技術総合研究所、国内製薬企業)した後、 Clarivate AnalyticsとEvaluateで約10年間、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率、開発コストなど)を提供。2023年6月から現職でアドボカシー活動に携わる。SNSなどでも積極的に発信を行っている。

X:@munehisa_k
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