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「正直うらやましい!」博士学生への経済的支援に博士学生だった私が思うこと【コラム】

更新日

黒坂宗久

 

「良いと思う!」

 

昨年末の話になってしまうのですが、日経新聞で「東京科学大、博士学生に年400万円超支援へ 業績次第で1000万円も」という記事を見つけ、思わず膝を打ちました。記事の内容は、海外では当たり前とされてきた博士課程の学生に対する経済的支援を、東京科学大が大幅に増やすというものです。賛否はあるかもしれませんが、私はすごく良いことだと思っています。

 

イノベーション創出の源泉ともいえる博士の数は、海外の多くの国で増加している一方、日本では減少を続けています。日本が再び科学技術で立ち上がろうとするなら、イノベーションへの投資は避けられません。イノベーションへの投資とは、突き詰めれば人への投資です。遠回りに見えますが、結局それが一番の近道なんだと思っています。

 

塩味だけのスパゲティで数カ月

博士を取り巻く環境については、ずっと思うところがありました。私自身、博士課程で研究をしていたころ、周囲から「好きなことができていいね」と何度も言われました。確かに研究は面白かったです。ただ、生活は楽ではありませんでした。友人の結婚ラッシュでご祝儀貧乏になりました。塩で味付けしただけのスパゲティで何カ月か過ごしたこともあります。ポスドクになってからも、数年単位の任期付きポジションがほとんどで、不安を抱えながら研究をしていました。

 

こうした経験は、決して特別なものではないでしょう。多くの研究者が、同じような不安定さの中に置かれています。経済的な不安なく研究に専念できる環境を整えることは、個々の研究者の生活の問題であると同時に、イノベーションの土台をどう築くかという社会全体の問題でもあると感じています。

 

正直言うと羨ましいです。自分が博士課程にいたころにこれがあったら、と思わずにはいられません。これから博士課程に進む人たちには、ぜひこうした支援を最大限活用してほしいを思っています。

 

仕組みが意味を持つために

東京科学大のような経済的支援策は必要ですが、それだけで博士人材を取り巻く問題が解決するわけではないでしょう。博士人材をめぐっては、大学には大学の論理が、国には国の論理が、そして活用する立場の企業には企業の論理があります。それ自体は当然のことだと思いますが、それぞれがぞれぞれの論理の中で正しいと思われることをしていても、三者の見ている方向がバラバラだったら、全体として物事はうまく前に進まないのではないかと感じます。

 

博士人材をめぐる問題がここまで長くこじれてきたのは、大学、国、企業がフラットな立場で議論し、目指す姿を共有する場が少なかったことが背景のあるのではないでしょうか。支援はどんどん充実させてほしいと思いますが、まずは未来像を皆で握る必要があると感じます。

 

博士人材を支える環境を整えていくには、三者の間を行き来し、それぞれの論理を翻訳して相互理解を促す人や場が必要だと私は思います。仕組みは、そうした対話や連携があってこそ意味を持つ。東京科学大が打ち出した取り組みを、そうした本質的な議論につなげていけるかが、これから問われてくるだろうと感じています。

 

※コラムの内容は個人の見解であり、所属企業を代表するものではありません。

 

黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。アステラス製薬アドボカシー部所属。免疫学の分野で博士号を取得後、約10年間研究に従事(米国立がん研究所、産業技術総合研究所、国内製薬企業)した後、 Clarivate AnalyticsとEvaluateで約10年間、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率、開発コストなど)を提供。2023年6月から現職でアドボカシー活動に携わる。SNSなどでも積極的に発信を行っている。

X:@munehisa_k
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