
ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消に向け、産業界、医療界、行政が協力して推進している「治験エコシステム」。治験を効率化するためにさまざまな取り組みが進む中、一部で成果も見え始めてきました。説明文書・同意文書(ICF)の共通テンプレートは導入が広がっており、作業時間の削減につながっています。
効率化で治験増加目指す
治験エコシステムとは、製薬企業、医療機関、規制当局といった治験に関わるあらゆるステークホルダーが協力し、効率的に治験を行う仕組みのことです。
近年、指摘されるドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの拡大には、日本の医薬品市場の魅力低下、創薬環境・薬事規制の違いといった要因が複合的に関わっているとされ、治験環境、特に海外に比べて手間がかかり費用がかさむことも要因の1つとして指摘されています。
こうした課題の解決に向け、従来から治験の合理化・効率化の必要性が叫ばれており、厚生労働省の「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制の在り方に関する検討会」は2024年4月に公表した報告書でエコシステムの導入を提唱。対応の方向性として「中央IRB(治験審査委員会)の活用促進」「治験費用の算定方法の合理化」「治験運用のさらなる合理化」を打ち出しました。政府の「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」が同年5月にとりまとめた中間報告にも「単一のIRBでの審査(シングルIRB)の原則化」が盛り込まれました。

これらを受け、国は24年度から予算をつけて「治験エコシステム導入推進事業」を展開。PMDA(医薬品医療機器総合機構)が実施主体となり、治験の効率化を妨げる課題の把握とその解決策の検討を進めています。
同事業の成果も踏まえ、厚労省は26年度 GCP省令の改正を行う方針。政府は、治験環境の改善などを通じて国際共同治験の初回治験計画届数を28年までに150件(21年比1.5倍)に増やすことを目標に掲げています。
共通テンプレ、施設・依頼者とも導入増加
先行して取り組みが進むのが、ICF(同意文書・説明文書)の共通化です。日本製薬工業協会(製薬協)が共通テンプレートを作成しており、厚労省も24年7月にその活用を促す課長通知を発出。製薬協によると、加盟68社のうち25年11月時点で45社が共通テンプレを導入しています。
大手CROのIQVIAサービシーズジャパンでは、課長通知から半年後の25年1月から共通テンプレの導入を本格的に開始しました。同社が対応した医療機関・依頼者での共通テンプレの導入率を見てみると、医療機関では共通テンプレ使用可とした施設の割合が25年1月末の68%から同年10月下旬には91%に増加。依頼者でも、同年1~9月に63%だった導入率が10~12月には78%に上昇しました。
同社で行った9試験約200施設の立ち上げのデータを分析したところ、共通テンプレを採用した場合、施設ICFの作成にかかる時間は採用しなかった場合に比べて約21時間減少しました。ただ、共通テンプレを採用した施設の51%で1施設あたり平均13.3項目の変更要望があったといい、同社臨床開発本部サイトアクティベーションディレクターで日本CRO協会の政策委員も務める小峰知子さんは「共通テンプレによる効率化の効果は見えてきているが、変更要望への対応にまだ多くの時間がかかっている。これをいかに減らしていくかが課題だ」と話します。
費用算定をめぐっては、厚労省が昨年6月に公表した厚生科学審議会臨床研究部会の2025年版とりまとめで、Fair Market Value(FMV)に基づくタスクベース型費用算定の導入に向け、産官学で課題解決に向けた議論を進めるとともに、モデル事業を通じてノウハウの集積、課題の抽出、解決策の検証を行うとの方向性が示されました。国内でもすでに、IQVIAを含むCROやIT企業が、タスクベース型費用算定をサポートするツールや、FMVに対応した臨床試験管理システムの提供を行っています。
2026年は「勝負の年」
治験の効率化・合理化に向けた取り組みはこれまでも行われてきましたが、「今回は本気度が違う」というのが関係者の見方です。製薬協、米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(EFPIA)、日本CRO協会は25年10月、共同ステートメント「治験エコシステム業界宣言」を発表。業界を挙げて治験の質に関する課題を解決し、治験運用の最適化・合理化を目指す姿勢をアピール。CRO協会はこれに先立ち、同年5月に「治験業務に関する宣誓文」をまとめ、「依頼者や実施医療機関と連携し、最もシンプルな手順を積極的に推奨する『No More Too Much 活動』を進めていく」などと宣言しました。

26年度に予定されるGCP省令改正では、「チェックリストのGCP」から「考えるGCP」への転換が図られる方向です。
小峰さんは「新たなGCPも契機とし、治験に関わるすべての人がマインドを変えていかなければならない」と指摘。「治験エコシステム構築に向けたこれまでの取り組みには一定の手応えを感じており、『やりすぎを減らそう』という意識づけも浸透してきた。今年はそうした意識を具体的な行動につなげていく年であり、勝負の年になる」と話しています。





