
国内医療用医薬品市場は今後5年間、年平均1.2%増で推移するとの予測をIQVIAがまとめました。イノベーションによる増加分を薬価制度が相殺する形で、低成長のトレンドは従来の予測から変わりません。米トランプ政権の薬価政策の影響が不透明で、先が見通しづらくなっています。
CAGR、昨年の予測から0.2ポイント減
予測によると、新型コロナウイルスワクチン・治療薬を除く薬価収載品市場は、2025年の11兆2160億円から30年に11兆8990億円に拡大します。IQVIAは昨年も5年間(24~29年)の予測を公表しており、このときは年平均成長率(CAGR)を1.4%と見ていました。
それと比べると今回の予測は0.2ポイント低下したわけですが、その最大の理由は24年10月に始まった長期収載品に対する選定療養の導入です。それ以降、後発医薬品の数量シェアは急拡大しており、IQVIAは31年1~3月期に91.9%に到達すると見込んでいます。薬価だけでなく給付の面からも抑制が働く形になっており、特許切れ品の増加も影響するとしています。
今回予測した1.2%のCAGRで増加要因となるのが、新薬の投入と高齢化などによる数量増です。半面、薬価改定が中間年で3.8~3.9%、通常年で4.7~6.2%の引き下げが見込まれ、市場を下押しします。薬価改定による医療費の削減額は5年間で3兆円以上に上るといい、イノベーションにブレーキをかける格好です。特に、費用対効果評価制度については、現在までに45製品が完了し18製品が評価中ですが、対象品目の拡大を含めた制度の見直しを注視する必要があるとしています。

国内市場が伸び悩む一方で、世界市場は29年までに年平均5~8%の成長を遂げると予測。地域別ではインド(6.5~9.5%)や北米・ラテンアメリカ(6~9%)が高く、価格圧力がかかる中国は1~4%にとどまります。市場は24年の1兆7670億ドル(約274兆円)から29年に2兆3850億ドル(約370兆円)へと拡大する見込みです。
MFN対応、中医協は「引き続き検討」
日本の成長は世界の後塵を拝しますが、米国ではトランプ政権が処方薬価格を他の先進国の最低水準に合わせる「最恵国待遇(MFN)価格」の導入を製薬企業に求めており、これによって日本は薬価引き上げの圧力を受けることになります。11月に来日した米国研究製薬工業協会(PhRMA)のアルバート・ブーラ会長(米ファイザー会長CEO)らは、日本の新薬の薬価は米国の4割に満たないと指摘。今後、薬価収載される新薬は米国と同一価格にするよう政府に要望したことを明らかにしました。
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PhRMAは、特許期間中の医薬品を薬価引き下げの対象から除外することや、費用対効果評価制度を拡大しないこと、再算定の回数と引き下げ幅に上限を設けることを求めています。これらの実現可能性は全くの未知数とはいえ、政府に大胆な国家戦略の策定を突き付けつつ、「新たな薬価が期待値を満たさない場合には、日本での上市戦略を再検討する企業もある」とドラッグラグ・ロス拡大の可能性をちらつかせました。

「日本は新薬の薬価を米国と平等にしていくことが求められる」と語ったPhRMAのアルバート・ブーラ会長(11月、東京都内で)
中央社会保険医療協議会(中医協)の薬価専門部会は12日、26年度薬価制度改革の骨子(たたき台)をまとめましたが、米国のMFN価格に対しては「機動的に対応できるよう、革新的新薬の薬価のあり方については引き続き検討する」との記載にとどまっています。ブーラ氏自身も「一夜にして日本の医薬品のすべての価格を米国に合わせるのは当然無理」と話しており、本格的な交渉は26年度以降となりそうです。ただ、トランプ氏は「商務長官や米国通商代表は外国が(米国に対して)不合理な薬価設定をしないよう行動する」よう求めているといい、ブーラ氏は交渉が業界レベルを超えたものになることを示唆しています。
PhRMAや欧州製薬団体連合会(EFPIA)はこれまでにも、国内製薬団体と連携して薬価制度に対する要望を行ってきました。ただ今回は、従来と背景が大きく異なっています。すでにファイザー、英アストラゼネカ、米イーライリリー、デンマーク・ノボノルディスクといった大手製薬企業が米国での価格引き下げで政府と合意。日本の薬価が低いままだと、それにつられて米国の価格も下がる可能性があり、日本に薬価引き上げを強く求めてくる流れは避けられそうにありません。PhRMAは日本政府に対して要求の実現を強く働きかけていきたいとしています。
IQVIAの予測によると、国内では26年度以降に年平均35~40品目の新薬上市が見込まれ、30年までの市場成長に1兆5660億円の貢献をすると見ています。ただ、そうした新薬や特許品による成長の果実は薬価改定で奪われることとなり、5年間の市場の増加額は6830億円にとどまる見通しです。予測は現在の薬価制度を前提としたものですが、外圧によって見直しが行われれば、将来の市場は違った姿になっているかもしれません。





