
総合医療メーカーとして「2030年に売上高1兆円」の目標を掲げるニプロ。医薬品事業は、自社後発医薬品の販売や受託製造などで売り上げ全体の3割を稼ぎ続ける考えです。主力のダイアライザなどが海外展開で収益拡大を目指す一方、医薬品事業は国内中心でどう稼いでいくのか。6月に就任した山崎剛司社長が青写真を語りました。
製造効率化は「手段を選ばず」
ニプロは今期、2027年度までの3カ年の中期経営計画をスタート。中計では年平均6%以上の売上高成長を目標としており、その先の30年に売上高1兆円を掲げています。主力のダイアライザ(人工腎臓)やステントレスの冠動脈治療をはじめとするバスキュラー製品で海外展開を強化しており、24年度に51%だった海外売上高比率は30年に60%まで引き上げる考えです。
一方、現在、売上高の約3割を占める医薬品事業は、今後も国内を中心に事業展開。中計期間中は、新たなオーソライズド・ジェネリック(AG)やバイオシミラー導入による売り上げ拡大を計画しています。ニプロは今年6月、サムスンバイオエピス(韓国)と、同社が開発するバイオシミラーの日本国内の商業化について戦略的パートナーシップを提携。ウステキヌマブ(先行製品名・ステラーラ)などの複数品目の導入を見込んでいます。ニプロにとっては、持田製薬と組んで23年に発売したペグフィルグラスチム(ジーラスタ)に続くバイオシミラーとなり、ラインアップ拡充で市場の伸びを上回る売り上げ成長を期待しています。
高シェアを誇る抗菌薬・注射剤は採算性が課題ですが、山崎社長は11月に開いた記者説明会で「何としても安定供給に努める。全力で取り組んでいく」と強調。今年から生産稼働を開始した近江工場(滋賀県栗東市)で供給量の拡大を図る方針です。薬剤と溶解液を組み合わせて用時溶解させるダブルバックは将来的に近江工場に製造を集約していく考えで、29年度に669万袋の生産を予定しています。原薬の内製化にも取り組み、安定供給体制を固めます。
山崎社長は6月の就任と同時に、業務効率化を統括するバリューエンジニアリングの部署を立ち上げました。医薬品事業については「自社製造ラインの集約や原料の複数購買を通じてコスト削減を図る。ボリュームを稼ぐことによる競争力もある」と指摘。原料の複数購買は、すでに約半数の製品で体制を整えているといいます。先月には注射用抗菌薬の製造集約に向けて日医工と協業することで合意。山崎社長は「日本国内に散らばるリソースを活用することでコストダウンが可能ではないかと考えている。われわれが(再編を)主導するとか、コンソーシアムに入るといった限定的な選択肢ではなく、手段を選ばず広く検討していく」と話しました。

ニプロの山崎剛司社長
近江工場ではさらに、28年度の稼働開始に向けてバイアル製造棟の建設が進行中。欧米向けの注射剤を受託製造する工場として整備する計画で、すでに複数の先発品メーカーと組んでの設計が進められています。受託製造では、後発品の品目整理などで品目数が減少していく中でも、先発メーカーからの注射剤の受託拡大で利益を確保していく方針です。
中計では、医薬品関連で27年度に2180億円の売り上げを計画。余語岳仁専務取締役は「(その先の2030年度まで)売り上げの3割が医薬品という状況は変わらない」と言います。

再生医療「28~29年度に採算」
一方、再生医療では11月に脊髄損傷治療用の「ステミラック注」の本承認申請を行いました。患者の骨髄由来の間葉系幹細胞から培養・製造される再生医療等製品で、18年12月に「脊髄損傷に伴う神経症候および機能障害の改善」の適応で条件・期限付き承認を取得。その後の使用成績比較調査で有効性・安全性が検証されたとして、本承認申請に至りました。
順調に進めば26年度中の本承認取得を見込んでおり、その後は投与施設の拡大などを通じて投与症例を確保し、売り上げを伸ばしていく考え。ステミラックの売上高は現在、5億円程度ですが、27年度には50億円まで拡大させる計画です。「生産効率を上げるとともに生産量を確保することで固定費を抑え、28~29年度くらいに採算に持っていくことを考えている」と山崎社長。生産は札幌市と東京都羽村市に構える2拠点で行っています。

ステミラックは現在、受傷後6~8週の急性期が対象。慢性期への拡大についても検討を進めているとしています。日本では年間6000人程度いる患者の約半数が対象になると考えられていますが、山崎社長は「世界にも出していきたい」とグローバル展開への意欲も見せます。後続パイプラインとして、ステミラックと同じ骨髄由来間葉系幹細胞「STR03」の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を対象とした臨床第2相(P2)試験が進行中です。




