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創薬活性化へ 個のつながり創出し知見流動化―Japan PBSSが活動開始

更新日

前田雄樹

10月に開かれたJapan PBSSのキックオフイベントの様子(提供写真)

 

創薬に携わる個人のつながりを創出し、知見の流動化を通じて創薬の活性化を目指す非営利団体「Japan Pharmaceutical & BioScience Society(Japan PBSS)」が活動を開始しました。10月に開催したキックオフイベントには170人が参加。「がん治療薬のモダリティ戦略」をテーマに議論を交わし、交流を深めました。代表理事の上村成章さん(中外製薬)に設立の背景や今後の活動について話を聞きました。

 

「会社対会社」ではなく「個人対個人」でつながれる場を

Japan PBSSは今年7月に一般社団法人として設立。母体であるPharmaceutical & BioScience Society International(PBSS International)は2002年に米サンフランシスコのベイエリアで設立され、現在、米国、カナダ、韓国、日本の4カ国7拠点に展開しています。製薬企業やバイオテック、関連産業で働く研究者や専門職が運営を担い、創薬をめぐるさまざまなトピックについて第一線で活躍する人材が知見を共有するセミナーやワークショップなどを開催。これまでに延べ2万人以上が参加しています。

 

「PBSS Internationalがセミナーやワークショップで扱うテーマは、モダリティや疾患の全般的な話題から、試験や製造といった個別性・専門性の高いトピックまで多岐にわたります。加えて最近では、創薬について若い世代に知ってもらうために高校へのアウトリーチ活動も行っていますし、キャリアに悩む若手に対して経験豊富なミドルやベテランが助言を行う『キャリアメンターシッププログラム』も今年から始まりました。

 

Japan PBSSはPBSS Internationalの日本支部であり、本家と同様にセミナーやワークショップの開催を中心に活動していく方針です。最先端のサイエンスはもちろん、事業開発や資金調達も含め、創薬を進めていく上で必要となる知見をカバーしていけたらと思っています。メンバーには米国在住者もいるので、国境を越えたウェビナーなども企画しながら、日本ではなかなか得られないような情報も含めて提供していこうと考えています」

 

創薬は1人ではできない

上村さんは米国駐在時に現地でPBSSのイベントに参加し、「学びが多く、いろいろな人とつながることができ、すごく有意義だった」と話します。運営メンバーと交流を深めるなかで日本支部立ち上げの話を受け、日本に帰国したタイミングで設立に向け動き出しました。

 

「Japan PBSSの設立は、PBSS International側の国際展開の要請と、日本側のニーズが合致した結果です。知見の不足と人の流動性の低さは日本の創薬が抱える大きな課題であり、日本にもPBSSのような活動が求められていると感じます。

 

創薬に必要な知見やノウハウは、製薬企業にはある程度蓄積されているものの、バイオテックやアカデミアを含めると米国と比べても明らかに不足しています。特に日本ではバイオテックが育ち切っておらず、バイオテックが生み出したシーズのグローバルなディールも多くありません。創薬を進めるには人材やノウハウが必要ですが、日本では人の流動性が低く、知見が動きづらいのが課題です。

 

創薬は1人でできるものではなく、さまざまな専門性を持つ人が連携することで可能となります。しかし、日本にはそうした人たちが会社を越えてつながれる場がまだまだ少ないと感じています。人の流動性が高まるのが理想ですが、そうでなくてもプロボノでノウハウをシェアしたり、兼業でアカデミアやバイオテックを支援したりできるような環境をつくることができれば、創薬の活性化に貢献できるのではないかと考えています。

 

仕事を前に進める上で『信頼できる人』『必要な知見を持っている人』と組むことは重要です。Japan PBSSは、創薬に携わる人が『会社対会社』ではなく『個人対個人』のつながりを広げられる場になりたいと思っています」

 

Japan PBSS代表理事の上村成章さん

Japan PBSS代表理事の上村成章さん

 

キックオフイベントに170人、次回は来年2月に開催

10月25日に東京・日本橋で開いたキックオフイベントには、対面とオンラインで計170人が参加。「がんを対象にした医薬品の研究開発におけるモダリティ戦略」をテーマに議論が交わされ、セッション終了後はネットワーキングも行われました。

 

「想定していた以上に盛り上がり、開始前や休憩時間も含めて参加者同士が積極的に交流していたのが印象的でした。アンケートの満足度も9割以上で、『日本にこういった場がなかったので非常に貴重。次回もぜひ参加したい』といったコメントもあり、運営としてはうれしく思っています。

 

Japan PBSSでは、今まさに創薬に関わっている人たちでイベントを企画しています。『自分たちも知りたい』と思うことをテーマに設定し、演者も選んでいますので、実践的な知見や突っ込んだ議論の場を提供できたのではないかと思っています」

 

人と知の交流 広がりに期待

今後も定期的にイベントを開いていくことにしており、次回は『希少疾患に向けた創薬』をテーマに来年2月に開催予定。米国とつないでのウェビナーも来年から行っていく計画です。

 

「次回は、日本の希少疾患向け医薬品の開発の現状を把握した上で、それを促していくにはどうしたらいいのか、さまざまな立場の方に登壇いただいて多面的に議論したいと考えています。持続的な運営のため次回からは参加費をいただきますが、飲み会1回分くらいを目安に設定し、個人でも参加しやすいようにします。

 

今後のイベントも、世界最先端のサイエンスと日本特有の課題という2つを軸に、網羅性と深掘りのバランスを意識しながら、皆さんにとって意義ある機会を提供できる企画を考えていきます。参加者がよりつながりを構築しやすいような仕掛けも用意したいです。

 

3年後には『創薬を学んだり、創薬に関わる人がつながったりできる場と言えばJapan PBSS』と認識され、5年後にはそれが確立されている状態を目指しています。ここで得た知見やつながりが創薬を促すきっかけになれば嬉しいですし、企業の枠を超えた人と知の交流がさらに広がっていくことを期待しています」

 

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