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何度でも繰り返し訴えたい「基礎研究の大切さ」|コラム:現場的にどうでしょう

更新日

黒坂宗久

今年のノーベル賞に日本人2人が選ばれました。大阪大の坂口志文特任教授が制御性T細胞の発見で生理学・医学賞に、京都大の北川進特別教授が金属有機構造体(MOF)の開発で化学賞を、それぞれ受賞します。

 

同じ年に複数の日本人が受賞するのは2015年以来、10年ぶり。おめでたいニュースで嬉しい限りです。私はかつて免疫の分野で研究をしていたので、制御性T細胞=Tregという言葉を聞いて懐かしさも感じました。

 

今回、ノーベル委員会が評価した坂口先生の業績は、免疫の過剰な働きを抑えるTregの存在を明らかにした1995年の論文です。そのころ私は免疫の分野に進む前の学部生で、まだその存在を知らなかったわけですが、ちょうどそうした転換点にいたのだと思うと面白い時期に学生時代を過ごしていたのだなとあらためて嬉しい気持ちになりました。

 

その後、私は博士課程に進んで本格的に免疫分野の研究を始めることになり、2000年代初頭、所属していた日本免疫学会でTregの話にも触れるようになりました。免疫にはアクセル役だけでなくブレーキ役もいて、生体内でバランスを保っていることを知り、免疫の深淵さに感心した思い出があります。

 

基礎がしっかりしていないと…

このコラムでは2023年にもノーベル賞の話題に触れています。この年はmRNAワクチンの開発につながったヌクレオシド塩基修飾に関する発見でカタリン・カリコ氏とドリュー・ワイスマン氏が生理学・医学賞を受賞しました。

 

その時も(というよりいつも)書いていますが、やはり基礎研究というのは非常に重要で、文字通りこの世の基礎を成すものだと考えています。それが実用レベルに到達するには何十年という時間を要するわけですが、基礎がしっかりしていないとその上に安心して住める家を建てることはできません。実用化や出口に目がいくのはある意味仕方のないことだとは思いますが、まさにその基礎として基礎研究があることは忘れてはいけないことだと、私は日ごろから娘たちにも伝えています。

 

国のほうでも基礎研究を活性化しようとする動きが見られます。「博士号取得者、3割増で「年2万人」へ…文科省有識者会議が研究力向上に向け数値目標」(11月14日の読売新聞)などと報じられているように、今年9月から開かれている文部科学省の「『科学の再興』に関する有識者会議」が今月、提言をまとめました。これに対してさまざまな意見が飛び交っているのを皆さんもご存じかもしれません。個人的には数字が独り歩きしてしまっている印象で、残念だなと感じています。

 

提言では、科学の再興を「新たな『知』を豊富に生み出し続ける状態の実現」「我が国の基礎研究・学術研究の国際的な優位性を取り戻す」と定義し、「先端科学は社会経済の発展や経済安全保障に直結。科学は国力の源泉」とされています。

 

坂口先生、北川先生とも、受賞会見などで基礎研究の重要性を訴えておられました。私たちはどんな社会を目指していて、それを実現するためになぜ基礎研究が大切なのか。私を含め、基礎研究を大切に思っている人は、そうしたことについて社会としっかりコミュニケーションをとっていかないといけないなと、今年のノーベル賞の日本人受賞に感じました。

 

※コラムの内容は個人の見解であり、所属企業を代表するものではありません。

 

黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。アステラス製薬アドボカシー部所属。免疫学の分野で博士号を取得後、約10年間研究に従事(米国立がん研究所、産業技術総合研究所、国内製薬企業)した後、 Clarivate AnalyticsとEvaluateで約10年間、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率、開発コストなど)を提供。2023年6月から現職でアドボカシー活動に携わる。SNSなどでも積極的に発信を行っている。
X:@munehisa_k
note:https://note.com/kurosakalibrary
LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/mkurosaka/

 

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