
記者会見したPhRMAのアルバート・ブーラ会長
米トランプ政権の薬価引き下げ政策について、日本への影響を懸念する声が出ています。政権が製薬企業に求める「最恵国待遇(MFN)価格」の導入により、日本の低薬価に引きずられて米国価格が下がるのを避けたい企業が日本での新薬発売を控える可能性があるからです。11月18日、来日した米国研究製薬工業協会(PhRMA)のアルバート・ブーラ会長(米ファイザー会長CEO)が東京都内で記者会見し、「日本は今ある医薬品の値下げをやめるとともに、今後は新薬の価格を米国と平等にしていくことが求められる」として日本政府に薬価政策の見直しを求めました。
「負担の不均衡是正が不可欠。米政府の取り組みを支持」
トランプ政権は、高額な米国の処方薬価格を引き下げるため、ほかの先進国の最も低い価格に合わせるMFN価格の設定を製薬企業に求めています。
ドナルド・トランプ大統領は5月、MFN価格の導入を目指す大統領令に署名し、7月には欧米の主要製薬企業17社にMFN価格導入を要求する書簡を送付。9月にはファイザー、10月には英アストラゼネカがMFN価格導入で政権と合意し、11月6日には米イーライリリーとデンマーク・ノボノルディスクも肥満症治療薬などにNFM価格を設定することで政権と合意したと発表しました。
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米国の処方薬の価格は高額で、ロイター通信によると他の先進国の3倍に及ぶこともあります。一方、日本の薬価は欧米主要国と比べて低く、PhRMAの調査では2023年の日本の新薬の発売時薬価は米国の39%、欧州と比べても70%以下にとどまります。PhRMAによると、同年の1人当たり国内総生産(GDP)に占める革新的新薬への支出の割合は、米国の0.78%に対して日本は0.4%でした。

ブーラ氏は会見で「われわれが画期的な治療薬やワクチンを開発し続けるためには、創薬イノベーションの費用負担について世界的な不均衡を是正することが不可欠だ。先進国と米国の薬価を同水準に調整するための政策改革に取り組む米国政府の努力を支持する」と述べました。
MFN価格の影響として懸念されるのが、薬価の低い国で新薬が発売されにくくなることです。低すぎる他国の薬価によって米国での価格が大きく下がれば最大市場である米国の収益が悪化する可能性があるからで、日本ではさらなるドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスにつながるとの指摘も出ています。
PhRMAが会員企業の日本法人を対象に9月に行った調査では、半数以上がMFN価格の影響についてグローバル本社との議論を開始したと回答。具体的には、薬価収載交渉に入る製品の再評価や日本での上市戦略・時期の再検討などが議論されているといいます。
「外圧ではなくチャンス」
PhRMAヴァイスプレジデントのケビン・ハニンジャー氏は会見で「MFNは世界の投資インセンティブを大きく変える可能性があり、それによって製薬各社は日本での開発・上市戦略を見直さざるを得なくなるかもしれない」と指摘。「日本の患者に新薬が届かなくなる。緊急の行動を要する危機だ」とし、特許期間中の薬価の維持、収載時の薬価算定ルールの改善などを求めました。
ブーラ氏は「明らかにMFNはほとんどの企業の方針に影響を与える。主要な欧州や日本の企業も最終的にはトランプ政権と合意に達するだろう」との見方を示しました。
日本への影響については「日本のすべて医薬品の価格を米国に合わせろと言っているのではない。今後発売する新薬については米国と価格を平等にすることが求められている」とし、「これは開発のインセンティブにもなる。医薬品の研究開発投資を呼び込めていない日本にとっては大きなチャンスとなる」と強調。「薬価が引き下げられず、新たに発売される製品の価格が適切であれば、日本に多くの投資がもたらされるだろう」と述べました。
会見に同席したPhRMA在日執行委員会の五十嵐啓朗副委員長(ファイザー日本法人社長)は「これは外圧ではなくチャンス。これまでは、世界の創薬イノベーションのコストを米国の高薬価でまかなっていたが、これを先進国で分け合っていこうという流れだ。高市政権は創薬・先端医療を17の戦略分野の1つに掲げており、ここで日本が経済成長を遂げるチャンスだ」と語りました。
ブーラ氏は17日に高市早苗首相と会談。「首相は問題を理解している。関係大臣との連携についてのアドバイスもくれた。科学にとっても日本にとってもいい形で解決策を見出せると楽観的に見ている」と政策の見直しに期待しました。





