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塗る遺伝子治療薬「バイジュベック」登場のインパクト…在宅投与可能、DEB患者は「大きな希望」

更新日

前田雄樹

国内初となる塗るタイプの遺伝子治療薬「バイジュベックゲル」が10月22日に発売されました。開発したのは遺伝子治療薬に特化した米国のバイオベンチャーKrystal Biotech。これまでほぼ対症療法しかなかった栄養障害型表皮水疱症(DEB)の治療薬で、患者は大きな期待を寄せています。同社の日本法人が設立されたのは2024年6月で、そこから1年半足らずで在宅での投与を可能にする仕組みを構築し、発売にこぎつけました。

 

 

ケアに毎日数時間

表皮水疱症は、日常のわずかな刺激で皮膚がはがれ、水疱、びらん、潰瘍が生じる遺伝性の疾患。常に創傷があるため強い痛みやかゆみを伴い、創傷部から炎症や細菌感染を起こしやすいほか、滲出液とともにタンパク質が漏れ出ることで低栄養や貧血を合併することがあります。患者は、水疱に注射針やハサミで穴をあけて内容液を排出したり、軟膏や被覆材で保護したりといった治療・ケアを、毎日数時間かけて行わなければなりません。

 

原因は遺伝子の異常で、表皮と真皮をつなぐタンパク質が正常に作られないために起こります。どの遺伝子に異常があるかによって、表皮―基底膜―真皮という皮膚の構造の中ではがれが生じる場所が異なり、それに応じて「単純型」「接合部型」「栄養障害型」「キンドラー症候群」の4つのタイプに大別されます。国内の患者数は計500~1000人程度と推定されています。

 

バイジュベックが対象とする栄養障害型表皮水疱症(DEB)は、表皮と真皮の接着を担うタンパク質のうち、7型コラーゲンが無いまたは少ないことで起こります。7型コラーゲンは基底膜と真皮をつなぐ係留組織(アンカリングフィブリル)を形成しますが、DEBではこれが作られません。DEBは表皮水疱症の6割近くを占め、重症の場合、手指の癒着、開口障害、眼瞼癒着を起こすほか、皮膚がんを発症して命を落とす患者も少なくありません。

 

治療は前述した創傷部のケアが中心。2019年には、栄養障害型と接合部型を対象に自家培養表皮移植「ジェイス」(ジャパン・ティッシュエンジニアリング)が保険適用されています。

 

国内治験では全員が創傷完全閉鎖

バイジュベックは、7型コラーゲンタンパクを発現するCOL7A1遺伝子を搭載した単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)ベクター製剤です。週1回、付属のシリンジで創傷部に塗るとCOL7A1遺伝子が皮膚の細胞に導入され、7型コラーゲンを発現。これがアンカリングフィブリルを形成し、表皮と真皮をつなぎとめることで創傷を治癒させます。

 

 

海外で31人の患者を対象に行われた臨床第3相(P3)試験では、バイジュベックを投与した患者の67.4%が6カ月後の創傷の完全治癒を達成。21.6%だったプラセボに対して統計学的有意差を示しました。国内P3試験では、プロトコル通り試験を完了した4人全員で6カ月後の創傷の完全閉鎖が認められました。

 

10月21日にKrystal Biotech Japanが開いた説明会で、北海道大大学院医学研究院皮膚科学教室の夏賀健准教授は「治験の結果は非常にプロミッシング。これまでにない成果で、発売は大きな第一歩」と評価。自らも国内治験に参加した患者会「DebRA Japan」の宮本恵子代表は「患者は一日も早い治療薬の登場を望んでいた。発売は大きな希望になる」と話しました。

 

バイジュベックは患者やその家族が在宅で投与できますが、保管、調整、運搬、投与、廃棄にはカタルヘナ法に従って細かいルールが定められています。在宅で投与する場合は、主治医のトレーニングを受け、特定の投与スペースを確保した上で、ルールを守って使用しなければなりません。医療従事者にも納品前の講習を行うことが義務付けられており、カタルヘナ法の順守を約束してもらった上で納品開始となります。

 

Krystal Biotech Japanは、カタルヘナ法を順守しながら在宅での治療を可能とするため、アルフレッサグループでスペシャリティ医薬品の流通を手掛けるエス・エム・ディと協力し、輸入から配送、カスタマーサポートまで一気通貫で対応するサービスを構築。患者宅には鍵付きの冷凍庫を事前に配送し、使用済みのシリンジや余った薬剤は新しい薬剤の配送時に回収します。

 

Krystal Biotech Japanの笠本浩社長は「カタルヘナ法への対応と流通スキーム・配送システムの構築が2つの壁だったが、一日でも早く患者に届けたいという思いでやってきた」と話しました。

 

Krystal Biotech Japanの笠本浩社長

 

後続パイプライン、優先順位検討し国内導入

バイジュベックの薬価は2瓶1組(1キット)で295万5232.70円。1回あたりの最大投与量は3歳未満が1mL、3歳以上が2mLとされ、1キットで最大投与量の2mLが採取可能です。投与は週1回ですが、毎週投与し続けるわけではなく、傷が閉じたら投与をやめ、傷が開いたら再び投与することを繰り返します。臨床試験のデータでは、投与開始から平均2週間ほどで傷が閉じ、その状態は平均3カ月ほど持続したといいます。

 

薬価収載を了承した中央社会保険医療協議会(中医協)の資料によると、同薬はピーク時に投与患者数306人、販売金額181億円を予測。笠本社長は「年間52週にわたってずっと使うことはあり得ない。米国のリアルワールドデータによると、だんだん傷が癒えることで処方量も減る。初めての塗る遺伝子治療薬でもあり、高額だが妥当な薬価だと考えている」と話しました。

 

米Krystal Biotechは、分子生物学者のスマ・クリシュナン氏と、バイオテック業界でビジネス経験豊富な夫のクリシュ・クリシュナン氏の夫妻が16年に創業。最初の製品となったバイジュベックは23年5月に米国で発売され、24年は2億9050万ドル(約441億円)を売り上げました。欧州でも年内の販売を予定しています。

 

米Krystal Biotechはバイジュベックに続く新薬として、7つの遺伝子治療薬の臨床試験を行っていますが、国内ではまだ開発に着手していません。笠本社長は「基本的には日本にもすべて導入していきたい。専門家とともに優先順位を検討しており、戦略と方針を定めた上で日本でも開発を進めていく」との考えを示しています。

 

 

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