
トランプ大統領とともに薬価引き下げに関する合意を発表したアストラゼネカのパスカル・ソリオCEO(ロイター)
[ロンドン ロイター]10月10日、米トランプ政権と薬価引き下げに合意した英アストラゼネカ。パスカル・ソリオCEO(最高経営責任者)はこの日、ホワイトハウスの大統領執務室で合意を発表するドナルド・トランプ大統領の隣で穏やかな表情を浮かべていた。
ソリオ氏の努力が実を結び、アストラゼネカは米国外の製薬企業として初めてトランプ政権との合意にこぎつけた。ソリオ氏は高関税の脅威から自社を守った。
ホワイトハウスでの合意発表の瞬間は、昨年11月にトランプ氏が大統領選に勝利して以降、ソリオ氏とトランプ氏側が続けてきた公開・非公開の協議の集大成だった。交渉の過程を知る3人の関係者によると、合意に向けてアストラゼネカは土壇場で働きかけを強め、緊迫した交渉はぎりぎりまで続いた。
「私も私のチームも、あなたのせいで夜も眠れなかった。でも本当にやりがいがあった」。ソリオ氏はトランプ氏にジョークを飛ばした。
王室晩餐会での面会
世界中の製薬企業のCEOは、トランプ政権による突然の関税政策の変更に苦慮している。そうした中、今回の合意は「トランプのささやき役」としてのソリオ氏の評価をさらに高めるだろう。
トランプ氏は、米国の患者がほかの先進国に比べてはるかに高い金額を処方薬に支払っていると主張し、製薬企業に価格の引き下げを要求。交渉期限を9月29日に設定し、最大100%の関税を課すことをちらつかせて交渉の切り札とした。
ソリオ氏による融和的な働きかけは、トランプ氏が大統領選に勝利した翌週に始まった。昨年11月12日、アストラゼネカは米国での製造や研究開発の拡大に向けて35億ドルを投資する計画を発表した。
合意に向けた最終交渉のため、ソリオ氏は先週初めに米国に入った。情報筋によると、2人は直近、9月18日に英国ウィンザー城で開かれた王室晩餐会で面会した。この情報筋によると、今年の夏、ソリオ氏はハワード・ラトニック米商務長官と米国や英国で少なくとも3回会談した。
関係者によると、ソリオ氏は、トランプ氏の強力な支持者で共和党の有望株とされる米バージニア州のグレン・ヤンキン知事とも親密な関係を築いた。2人の関係により、アストラゼネカが同州に45億ドルを投じて工場を建設するという取引がスピーディーにまとめられた。最初の交渉から合意に至るまでの期間はわずか1カ月強だった。
トランプ氏との調印の前日、ソリオ氏はヤンキン氏とともに新工場の起工式に出席した。情報筋は「ヤンキン氏には多くの野心があり、彼の政権との人脈が交渉に役立った」と指摘。「バージニア州の工場に関する取引は両者の考えが一致していることを示した」と語った。
「非常に米国的な企業」
薬価引き下げをめぐっては、10月1日に米ファイザーがトランプ政権との合意を発表しており、アストラゼネカは2社目となる。製薬企業と米政権の合意は世界のヘルスケア株を押し上げており、米ウォール街では今後数週間でさらに多くの企業が同様の合意に達すると予想されている。
ショア・キャピタルのアナリスト、ショーン・コンロイ氏は、トランプ氏の医薬品価格に関する考えを公に支持し、自社を「非常に米国的な企業」と呼んだソリオ氏が、賢明な戦略的発信によってワシントンでの地位を確保したと指摘。「共鳴が成果を生んだ」と話した。
一部譲歩も勝利
アナリストらは、アストラゼネカはすでに米国で相当な製造能力を確立していることから、ほかの大手製薬企業に比べて関税のリスクは小さいと見ていた。しかし、英国での規制強化とさらなる価格圧力(多くの製薬企業は政府がこの分野を支援するために十分な取り組みを行っていないと批判している)は、アストラゼネカにとって米政権との取引を正当化するビジネス上の強力な論拠となった。
アストラゼネカの収益全体に占める英国の割合はごくわずかだが、本社の所在地であり、主要な上場先となっている。同社はロンドン市場のFTSE10指数で最大の企業だ。
情報筋によると、英国とは対照的に、米国当局はアストラゼネカのような企業に投資を促すために積極的な働きかけを行っており、支援に十分なエネルギーと労力を注いでいるという。アストラゼネカは7月、500億ドルに及ぶ大規模な対米投資計画を発表。9月下旬にはロンドンに加えてニューヨークにも直接上場すると発表した。
情報筋は、ファイザーが政権と合意した時点でアストラゼネカも最終合意に近づいていたと明かした。ソリオ氏が米国に飛んだ先週初めは、最終的な詳細の詰めが行われている真っ最中だった。日を追うごとに合意に近づいているように見えたが、なかなか成立には至らなかった。バージニア州の新工場着工が最終的な合意を後押しした。
結局、アストラゼネカはメディケイド向けの一部の医薬品価格で譲歩し、より多くの医薬品を米国で生産することを約束した。それでも今回の合意はアストラゼネカにとって勝利となる。
アナリストによると、今回の合意によって、アストラゼネカは2030年までに800億ドルとする収益目標(その半分は米国での売り上げ増加による)を大きく損なうことなく、より明確な見通しを得ることとなった。ある情報筋は「10月10日の取引はパズルの最後の1ピースだ」と語った。
(取材:Maggie Fick/Sabrina Valle、編集:Adam Jourdan/Joe Bavier、翻訳:AnswersNews)




 
				


 
								 
								
 
											 
											 
											 
											 
											


