
パレクセル・インターナショナルのコンサルティング部門プレジデントのポール・ブリッジズ氏(左)と、日本法人社長の三木茂裕氏
大手グローバルCROパレクセル・インターナショナル(米国)のコンサルティング部門プレジデント、ポール・ブリッジズ氏と同社日本法人社長の三木茂裕氏に、米トランプ政権の政策が新薬開発に及ぼす影響、日本の薬事規制見直しに対する海外製薬企業の見方、日本企業の海外市場進出支援の取り組みについて話を聞きました。
承認スケジュールに大きな変化なし
――米トランプ政権の政策が新薬開発に及ぼす影響が懸念されています。FDAでは職員の大量解雇が行われていますが、新薬の承認審査に影響は出ていますか。
ブリッジズ氏:2月から3月にかけてFDA職員の大量解雇が報じられ、私たちとクライアントはFDAの事業継続に混乱を引き起こすのではないかと懸念しました。しかし幸いなことに、現在のところFDAの承認スケジュールに大きな変化は見られません。
PDUFA(処方箋薬ユーザーフィー法)に基づく審査終了目標日を逃す申請の割合は10%程度で推移しています。これは過去数年の傾向とほぼ一致しており、私たちが通常、FDAに期待する範囲を超えて遅延が発生しているということはありません。これは、人員削減の大半が医薬品の承認審査と関連の低い食品などの部門で行われたからです。
ただ、リーダー層の人材喪失については懸念を持っています。意思決定の適時性、政策の継続性、前例の理解にとって障壁となる可能性があり、動向を注視しなければなりません。
製薬企業やバイオテックは承認の遅延を引き続き警戒しているほか、当局とのコミュニケーションや当局の戦略性の低下に不安を感じています。加えて、「FDAが混乱している」と見られていること自体が予測可能性に影響を及ぼし、株価の下落、投資の躊躇など、投資家にもストレスの高い環境を生んでいます。
「申請の品質向上」「FDA以外の当局にアプローチ」でリスク回避を
――そうした状況に製薬企業やバイオテックはどのように対応していますか。
ブリッジズ氏:米国の政策変更に対応するため、われわれはタスクフォースを設置し、製薬企業やバイオテックに情報とアドバイスを提供しています。パレクセルのコンサルティング部門には、規制当局の元職員を含めグローバルで2100人以上のスタッフがおり、専門的な知見や経験に基づくインサイトと、グローバルなリーチを活用してクライアントをサポートしています。
われわれがリスク回避のために奨励しているのは、主に▽申請の合理性と品質を高めること▽世界中の規制当局とオープンな対話を確保すること――の2点です。
合理化された高品質な申請により、FDAの人員削減や専門人材喪失の影響を軽減できると考えています。また、英国やEU(欧州連合)、日本、オーストラリアといった洗練され成熟したほかの機関に科学的助言を求めることで、米国で懸念される負の影響を相殺できるでしょう。実際、製薬企業やバイオテックが米国以外の当局へのアプローチを強める動きが見られており、たとえば英国当局には科学的助言の要請が増加しているそうです。
ここ数年、米国の治験は飽和状態にあり、実施施設の立ち上げや患者登録は困難でした。他国・地域の当局と連携し、米国以外の市場で治験の立ち上げを検討することは、米国で懸念される潜在的な承認の遅延を軽減させるだけでなく、グローバル開発を加速させるという点でも有用です。FDA以外の規制当局にセカンドオピニオン、サードオピニオンを求め、真にグローバルな開発プログラムを実行することが有益であり、現在の米国の環境下でその重要性は増しています。
米国は引き続き重要な地域
――米国市場を回避するような動きは出ていませんか。
ブリッジズ氏:米国は世界の製薬企業・バイオテックにとって非常に重要な地域です。FDAが最も影響力のある規制当局であることにも変わりありません。無視するにはあまりに重要な国と当局であり、避けることはできません。
クライアントに対して米国を避けるよう助言することは決してなく、関与を継続し、引き続きFDAと協力すべきだと強く主張しています。
私は、FDAが短期間でこの状況から回復すると信じています。FDAに残る審査官の献身によって事業継続性が維持されているという事実は、私たちに希望を与えています。FDAは内部でAIツール「Elsa」を導入して日常的に利用しており、デジタルテクノロジーの活用が混乱の影響を相殺し、審査プロセスを加速させることを期待しています。
自分たちでは制御できないこと、わからないことはたくさんありますが、逆に制御できることもあります。1つは、FDAに行う申請を確実に最高の品質にすること。もう1つは(審査の)順番待ちの先頭に立つことです。
2020年のブレグジット(英国のEU離脱)では英国の規制当局が多くの職員を失い、承認審査が大きく滞留しました。解消には5年を要しており、その間、製薬企業やバイオテックは英国での新薬開発を避けることを選択しました。私たちは米国で同じようなことが起こらないことを願っていますし、そのような影響は避けられると見ています。
心強いのは、日本をはじめとするいくつかの地域が薬事規制を改善し、魅力を高めていることです。英国が今年、承認審査の滞留を解消したこともプラスとなります。
日本の規制見直し「開放性と透明性は報われる」
――日本の規制環境の変化について、海外の製薬企業やバイオテックはどのように認識していますか。
ブリッジズ氏:海外企業が日本市場を評価するにあたってのマインドセットに顕著な変化を見ています。日本の当局が規制環境を変革したことで、企業がグローバル開発を追求するのにより好ましい環境になりました。日本市場に向けた迅速な開発、合理的な申請、迅速な承認が可能になり、これは企業と日本の患者の双方にとって良いことです。
われわれは昨年、日本の規制担当スタッフの数を2倍に増やしました。製薬企業は日本を他の主要国と並行して評価しており、そうした需要の高まりに対応するためです。日本の規制当局の開放性と透明性は報われており、オープンなコミュニケーションに継続的に関与してほしいと思っています。
三木氏:特に海外のバイオベンチャーの場合、日本に拠点がない、あるいは日本での経験がないため、認識にギャップがあります。日本はコストが高い、時間がかかる、手間がかかるとよく言われますが、実際にはそうでないことも多々あります。そうした認識が日本を後回しにしたり、日本を避けたりといったことにつながっている面があり、われわれとしてはまず日本を知ってもらおうということで、昨年あたりから海外の顧客に対して日本の状況を紹介するウェビナーを行っています。
英語の申請資料の受け入れや日本人データの取り扱いについてさらに緩和してもらえると、より日本への進出意欲が高まるのではないかと思います。
日本企業の海外進出支援で好事例
――逆に日本企業の海外進出支援ではどのような取り組みを行っていますか。
三木氏:海外市場を目指す日本企業への支援は、パレクセル日本法人としても成長の1つのカギと捉えています。複数の企業で、薬事戦略からプロジェクトマネジメントを含む海外での開発のサポートまでといったところで良い成果が出ており、さらに次のビジネスにつながっていく段階になってきていると感じています。
いくつかの企業でそういったベストプラクティスが出てきているので、今年6月には内資の企業を対象にワークショップを行いました。非常に好評で、10月に2回目を行う予定です。
日本企業の海外進出支援には2~3年前から取り組んでいますが、取り組みを進める中で気づいたのが、コミュニケーションの重要性です。海外にフットプリントや経験のない日本企業には、英語でのコミュニケーションや海外とのカルチャーの違いといった点でギャップがあり、それを埋めていくことが大切です。そのため、われわれは日本に全体を統括するプロジェクトマネージャーを置き、レギュラトリーのコンサルテーションの段階から担当プロジェクトマネージャーが入って、ギャップが出ないように実行していくようにしています。





